九振目 刀に憑くもの

 日本刀関係で心配になるのは、「憑いてない?」といった事でしょうか。やはり武器として使用された経歴があるため心配になるのが人情。

 そんな事ない……と、以前なら言えました。

 自分で体験するまでは。


 それは南北朝時代作のとある無銘刀。

 他に煌びやかな名刀がある中で、ひっそり店の隅にあったそれに、なぜか惹かれました。まるで視線が吸い寄せられるようでした。

 迷わず購入。

 そして、その日の夜……人生初の金縛りに遭遇!

 真っ暗な筈の室内が青ざめた色の中で、妙にはっきり見えてしまう。天上の木目の一つ一つまで見分けら、仰向けに寝ている筈が部屋の隅々まで見えた状態でした。

 ふと気付けば、刀が置かれた場所に誰か居る。

 人影という程の形ではないですが、上下がやや細くなったような黒い円柱。

――居るな。

 そんな感覚で見つめ、しかし嫌な感じは全くしない。

 刀に何か憑いてきたのか、といった感覚で自然に寝てしまいました。翌朝に思い出し、軽く刀に手を合わせたのでした。

 そして始まりました。

 翌日の夜、何かに追いかけられる夢で飛び起きました。

 さらに翌日、背中に火で焼かれる痛みの夢で飛び起きました。

 さらに翌日、今度は身を守ろうとした指が斬られる夢で飛び起きました。

 さらに翌日、肩を突かれる夢で飛び起きました。

 で、キレた。

 そりゃそうです。

 連夜の夢で寝不足状態なのですから。最高に不機嫌に半分寝ぼけた状態で、原因は刀だと断定し、深夜にもかかわらず刀の手入れ開始。

 日本霊異記か何かのお話を思い出し、刀に説教。

 正当な商取引にて購入したのだから所有権は云々……文句があるなら手入れしないと脅したり……なんだかんだと、深夜三時に刀相手にぶつくさ喋る怪しい人。

 ですが、そのお陰か翌日以降は何も起きなくなって、めでたしめでたし……でもなくて、その刀の手入れを始めると何故か猫が現れジッと見ている。

 他の刀であれば近づけても匂いを嗅ごうとするぐらいが、その刀だけは近づけると怒る距離を取る。

 気味が悪いため、下取りに出して手放しました。

 以来、少なくとも私は日本刀に何かが憑く事はあると信じています。


 なお、その刀ですが。

 出来が良いので、すぐに売れました。けれど半年ほどで店に戻ってました。で、また売れてまた一年ほどで戻って……既に三回売れて戻ってを繰り返し、今は四回目売れた状態。

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