三十四振目 日本刀を買うとき

 日本刀を買う場合は、必ず実物を手に取ってから購入したいです。

 ネット通販は便利ですが、画像と実物はどうしても違います。

 お店もいろいろ工夫して少しでも伝わる様にしてくれていますが……なんにせよ、写真と実物は全く別物でして。撮影加減で強めの光でコントラストをくっきりさせ、茎部分の光を弱くし魅力的に見えるよう工夫しすぎている店もある。

 また、数値なども表示されておりますが、頭で描いていたものと実物はやっぱり違います。その数値も、鎬厚の表示はあっても茎の重ねは判りませんし、の深さまでは分からない。中には、最低限の重ねすら出していない店もある。

 そして具合の悪い小錆や疵なども全く分かりません。説明で『瑕疵欠点はありません』と謳ってあったとしても、それは店側の言う瑕疵欠点であって、店が欠点と思わなければ鍛え疵や埋め金についても触れてない。

 よく言われたのが「手持ち感を大事にしなさい」という事です。説明の流れとは少し違いますが、持った瞬間に感じた事は間違っていないという事です。だから、やはり一度は手に取るべきです。


 そして一番の注意はネットオークション。

 一見安そうに思えるため多くの人が真っ先に手を出し、騙され日本刀に興味を失う原因となっています。ご存じとは思いますが、オークションに日本刀を出品しているのはプロです。素人が家で見つけた刀を偶々出しているわけではありません。

 そんなオークションで経験した事では。

 ・銘が説明と違う。画像では肝心部分のピントが外れボケていた。

 ・刀身に小錆や傷がある。そこだけ写されていなかった。

 ・偽銘。

 などなど。

 身近なところでの話としては。「〇〇刀剣鑑定保証」とあって、喜んで買って審査に出し不合格。それで文句を言えば「嘘は言っていない。不合格も鑑定結果だ」と反論され泣き寝入り。

 その他には銘〇〇の刀について「〇年度〇〇刀剣合格おめでとうございます」とあるものの、その年に銘〇〇の刀が合格した人は、そのオークションの出品者となんにも関係なく、なんで関係ない人におめでとうと言われるのか不思議がっていたり……。

 なんにせよ正宗や清麿、景光や兼光、兼定や兼元といった有名処が50万円程度で売買されていたりします。さて、普通に売れば数千万、数百万のものを誰がその値段で誰が売るのでしょうか?


 怪しい刀の説明文もありまして、その幾つかを見ると。

例1

「太閤秀吉下賜の○○家伝来のAがある。現在の国宝Bは徳川幕府の権力を使い入手したものだが、本物の国宝は○○家に伝来しているAではないかと以前より疑問が呈されている。このCは長寸で状態が良い。○○家に伝来したAが、いつの時点かで入替わったのがこのCであり、どちらが本物かは刀を見れば明白である」

 さてどうでしょう。

 分かりやすくABCをつけましたが、本来は全て同じ名前が入れられています。同じ名前の状態では、すごく意味が分かりませんね。

 「疑問が呈されている」などとありますが、誰が疑問を呈しているのやら?

 さらに、出品物を「太閤秀吉下賜の○○家伝来」として、所謂ところの太閤御物と主張。証拠として古文書の画像が添付されていますが、普通に書籍で掲載されているようなものです。

 実際にはもっと多数の文面があり、「二度と手に入らない」や「国宝は億単位の価値」や「刀剣界を揺るがす大発見」といった文で埋め尽くされています。

 こんな説明でもオークションで数百万円の値がついてました。大発見とありますけれど、その後その大発見が世間に発表された事もなく……国宝が偽物だと判明した事もなく……買った人はどうしたのでしょうね。死蔵しているのですかね。


例2

「この刀は古来名刀作者とされる○○作の太刀に間違いない。○○の太刀は数が少なく極めて希少とされる。この刀が日刀保鑑定に出されていないのは、鑑定結果が違ってしまう事を恐れての事で、有名大名家に伝来した名作○○の作である事に間違いはない。素晴らしい御刀です」

 この場合の○○は確かに名工で短刀の名手で、太刀で正真と確認されるのは一振りだけ。そうした希少性を狙って煽り立てているのでしょう。

 しかし冷静に読みますと、「間違いない」と断言しつつ、「鑑定結果が違うかも」と弱気さがあり、何の根拠もないまま「有名大名家伝来」などと主張しています。うーん。

 もちろん、〇〇の太刀がもう一振り増えたなどという話は、その後全く聞かないですね。


例3

「本作はかの有名な正宗の皆焼刃になるものです。この皆焼刃は――」

 面倒くさいのでここまでとしますが、皆焼刃が完成したのは南北朝時代の中期、正宗は鎌倉時代の後期。多少は皆焼っぽい感じがあったとしても、それっぽいだけですので。よく言われる正宗皆焼詐欺をこの目で見ようとは……ある意味で感動ものかと。

 確かに銘は正宗とありますが、正の字が行書体ではっきりと……。


 そんな怪しさでも入札してる人がいる。

 では、なぜこうしたオークションで入札してしまうのか。

 Aさんが出品しました。そのお知り合いBさんが四百万円で入札しました、さらにお知り合いCさんが四五十万円で入札しました。それを見た関係ないDさんは、こんな値がつくなら本物に違いない!と確信し慌てて五百万円で入札しました。BさんもCさんも入札しませんでしたとさ。

 めでたくないめでたくない。

 どっとはらい。

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