現実
本当に、警察だけであのヘラムたちを押さえ込んで捕獲してしまった。
ぐらり
何故か俺は、視界と頭が揺らぎ、転びそうになった。
――俺は今、ショックを受けている?
「あー、こうなりましたか……」
じゃあ今までの、俺の戦いは何だったんだ?
血反吐を吐いてまで戦った意味は――
「じゃあ先輩、いい加減に現実と向き合いましょうか?」
「……え?」
大勢の機動隊員たちの景色を背に、ゆっこはくるりとこちらを向いた。
「先輩、本当はこう思っていたんじゃないですか? 負けてしまえ、と」
「何を言っているんだ……」
「先輩は、心のどこかで、自分を拒絶した警察が、ミュータント達に酷い目にあって、結局エルガイアの力がなければどうにもならないんだと、周囲にそう思って欲しかったんじゃないですか?」
どくん
なぜか、俺の心臓が跳ね上がった。
不意に目を見開いてしまう。
「今回はこんな結果になりましたけど、先輩は自分を拒否したやつらが、ミュータント達に負けてしまって、自分の力がやっぱり必要なんだと、自分の立場を肯定させたかった。そう望んでいたんじゃないんですか?」
「俺はそんなこと」
「微塵も思っていなかった。と言えるんですか? エルガイアと言う力を手に入れて、時には傲慢にもなって、弱気になったりもして、それでも戦って、命をかけて挑んでいた。それを否定される事が、許せなかったんじゃないでしょうか?」
「違う、俺は、俺は……」
「残念ながら、諦めがちになって休息する暇なんてありませんよ、先輩」
そのゆっこの顔は、どこか悪魔じみた笑みでもあった。
「これはまだ、たった四体の赤い牙の一部を、一時的に無力化しただけです。彼らは今までの相手とは桁外れ、規格外な種類もいます。今回は何とかなっても、いずれ強力なミュータント達に、人類は疲弊して優劣がまたひっくり返るでしょう。時間の問題です」
「やめろ、やめろ、それ以上言うな……」
「自分の醜い部分が飲み込めませんか? 人間なんてそんなものです。私だって、考える葦であり、先輩をいつも見ていて、ミュータント達の戦いを見届けてきた一人です。くよくよして、弱々しくなって、ヘタレな先輩にはもう戻れません、その右腕がある限り」
気がつけば、俺は頭を抱えて膝を折っていた。
「俺はもう戦わない。戦わなくてもいいんだよ。ほら、警察があんなに動いて、ミュータントを逮捕したじゃないか……」
「いいえ、必ず、エルガイアと言うヒーローが必要になってくる時があります。ヘックスさんも言っていたでしょう。使命を果たせと」
「俺には、そんな力なんてない! エルガイアになれても、まったくその力を使いこなせない! 強くもなれない! 才能が無いんだ!」
「いいえ、ダメです。才能があろうとなかろうと、どれだけ今が弱かろうと、先輩は第二のエルガイア、エルガイアの後継者です。だから先輩、戦ってください。ちゃんと自分とエルガイアと、宿命に向き合ってください。先輩が立ち上がらなければ、ミュータント達との確執も、千年前の戦いの続きも、何も一歩たりとも進める事がで来ません」
「……うっ、うぅぅぅ」
「このままでは、ヘックスさんが言ったとおり、昔と同じ。人間とミュータントの争いが起こり、ミュータント側は、また人類から排除されるでしょう。ミュータント達と戦いながら、話し合いながら、歩み寄るのも、また完全に敵対するのも、全てはエルガイアと言う存在が決め手となります」
「俺は、俺は……」
「だから先輩、諦めないでください。逃げないでください。先輩の右腕には、ミュータントも含め、たくさんの人々の、可能性が秘められているんです。だからちゃんと、立ち上がってください」
「俺には、そんなのは無理だ。重すぎる。抱えきれない……」
「今は少なくともそうでしょう、ですが、まだ未来は決定されていません。決められるとしたら、〈太陽を背にし大地を守るもの〉エルガイア。ただ一人です」
「俺に、どうしろって言うんだ。俺は弱い、誰にも勝てない」
「ふう、少し時間が必要ですね。先輩、考えてみてください。頭がおかしくなるほど、痛くなるほど考えてください。先輩は、決して不要な人間なんかじゃありません」
「…………」
こんな弱いヒーローのなりそこない見たいな俺に、何をどうしろって言うんだ。
何ができるっていうんだ。
こんな、こんな俺に……。
できる事なんてないはずなのに。
どうしたらいいんだ……?
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