憔悴

「はあ……」


 警察署から解放され、夜遅くに帰ってきて、姐さんに何をしていたのかと怒られ、なんとかはぐらかし、飯を食って風呂に入って、ようやく落ち着いた。


 ベッドに横になる。


「くっそ……」


 今思い出しただけでも忌々しい。


 少し前だったら、舘山寺さんたちがやってきて、気を使って送り届けてくれたのに。


 それなりの反省の顔をして、やっと拘置所から出してもらえたと思ったら、そのまま警察署からぽいと捨てるように放り出された。


 その後は自転車を置いておいた場所に歩いて向かい。真夜中を自転車をこいで汗を流して帰ってこれた。


 警察の態度が、完全に豹変していた。


 いや、俺への扱いが酷くなったと言ってもいい。


 今まで誰がミュータントと戦ってきたと思っているんだ。


 …………。


 あの月島という舘山寺さんたちの上司は、俺に何か恨みでもあるのか?


 しかもあのしれっとした態度。


 本当にムカつく。


 …………。


 俺は、必要が無いのだろうか?


 反則技に反則級なとんでもない手段や実力を出してくる赤い牙。他にも特殊でかつ強いミュータントが、少なく見積もっても三十人以上もいる。


 まともな戦いにもならなかった。


 俺、どうやって今まで勝ち続けていたんだっけ?


 俺の頭の中では、負けっぱなしで、そのときの記憶しか残っていなかった。


 やつらは俺と戦うのではなく、討伐だと言い切っていた。


 つまりは、戦うことをせずに、俺をまるで凶暴な動物を始末するみたいにやってくる。


 ハンニバル。ねえ……。


 国を落とすよりも、そのハンニバル一人に敵国は恐れた。だが、その知将たる才覚は、与えられた兵士、代わりに戦ってくれる者たちが大勢いてこそのものだった。


 人間の最大の武器は、最高の武器や兵器ではなく、結束すること。

 たしかに、あの月島というおっさんのいう事は正しいのかもしれない。


 これで本当に、俺抜きで警察部隊がミュータントを退けたのならば、本当に俺の存在価値はなくなるな……。


「ちょっとたっくん!」


 俺の部屋の引き戸が、姐さんの声と共にバンバンと叩かれた。


「ちょっと話したいんだけど。答えてくれない?」


 ……めんどくさい。


 俺は毛布をかぶって寝たふりをする。


 無造作に開けられた引き戸から、姐の視線を感じて、姐はため息をついて引き戸を閉めていなくなった。


 …………。


 もう、このままでいいんじゃないだろうか?

 誰かに強制されているわけでもない。

 むしろ邪魔だ、自分たちで何とかすると言う人間まで現れたのだ。


 俺はこのままエルガイアに変身する事も抑えて、確固たる使命を持った人たちに任せるべきなんじゃないか?


 ……まともに戦えないんだしな。


 もういっそ、それでいいだろう。


 俺のエルガイアの力を必要としなくても、誰かがやるといっているんだ。


 あんな扱いを受けてまで、躍起になって自分から戦いに赴く必要は……どこにもないな。


 あーあ、今まで俺はこの数ヶ月間、一体何をしていたのだろうか?

 それ以前の俺は、もっと気を抜いて生活して生きてきていたじゃないか。


 そんな生活に戻るだけだ。


 無理に戦う必要なんて無いんだ。


 そんな風に思って、どこか晴れ晴れとしそうな胸のうちだった。


 そうだよ。それが当たり前なんだ。


 自ら戦いに身を投じるなんて、元々俺には似合わない行動だったんだ。


 何ヶ月もかけて自分よりも強い相手と戦い、それでも俺はまったく強くなれなかった。


『君、才能が無いよ。だってまともに戦えないよね?』


 ああそうだ。俺に戦う才能なんて無い。

 ただの一般人。ただの未成年の高校生だ。


 突然ちょっと特殊で強い力を手に入れただけで、自分がそんなに大きく変わるわけでもなく……ミュータントと同じ姿になった所で、相手はその姿からさらに腕を磨いてきた超人集団なわけで。


 俺がそんな相手を前にして、元々勝てる要素なんて、どこにもなかったんだ。


 エルガイアには、もうこのまま眠っていてもらおう。


 …………。


 なんか、本当に眠くなってきた。


 ……寝るか。

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