驕り

「まったく、今まで誰が命と体を張って戦ってきたのか。まったくわかっていませんね。ねえ先輩? ……先輩?」


「あ、ああ……」


「何を顔真っ青にしてるんですか。最終的にミュータント達と戦えるのはエルガイアの力、それ以外には無いんですから。しっかりしてください。あんな頭でっかちの老木に、ちょ~っと言われたぐらいで落ち込まないでください」


「そう、だよな」


 俺は自分の右腕、エルガイアの右腕を見る。


 ひょっとして、ヘックスのヤツが、俺はエルガイアの力を1パーセントも出せていないというのは、あいつなりの忠告だったのかもしれない。


 いつだって相手は自分よりも強い。

 そしてまだまだエルガイアの力は秘められている。眠ったままになっている。


「落ち込んでる場合じゃないよな。どうこう言っても、赤い牙ってやつらがこの街に潜んでいるんだ。それは変わらねえ」

「そうですそうです。この戦いはエルガイア抜きでは絶対にありえません!」

「ああ、少しでももっともっと鍛えて、必ず赤い牙全員をぶっ飛ばしてやる!」

「その意気です。先輩!」



 次の日。


 俺はいつものように学校が終わったあとで警察署に着いた。機動隊の人たちとの特訓に参加するためだ。


 自転車置き場から離れて、警察署の出入り口を通ろうとする。


 と――


「ちょっとまって、君」


 入口に立っていた二人の警察官に止められた。


「なんですか?」

「君、結崎拓真君だよね? 署に何か用事かな?」

「何か事件でも?」

「あ、いえ。いつもどおり機動隊の人たちと組み手と乱取りを……」

「事件じゃないなら、すまないけど帰ってくれるかな?」

「えっ?」


 ドキリと、心臓が飛び上がった。


 なんでだ?いままでずっと顔パスのように通してくれていたじゃないか。


「だって、いままでずっと」

「だから帰ってくれるかな!」


 片方の警官が怒鳴ってきた。


 何がなんだかわからない。


「何でですか?」

「上からの命令でね。事件や被害届の提出以外は君を通すなと命じられてる」

「はぁ? なんで!」

「上からの命令だから!」

「さあ、帰った帰った!」


「ふざけんな! 俺はまだまだ特訓して強くならないと――」

「なら公務執行妨害で逮捕するぞ!」

「だからなんでだよ! 今まで通してくれたじゃないか!」

「状況が変わったんだ! 帰れ!」

「なんなら拘置所に入って頭を冷やすか?」

「…………」


 なんだよ、どうなってるんだよ。


 明らかに態度を百八十度変えてくる警察官の二人。


 きっとあの月島という新しい舘山寺さんたちの上司のせいだ。


「はい、帰って帰って!」

「もう二度とここに来るなよ!」


 肩をを強くつかまれて突っぱねられる。


「……ちっ」

「何だ今の舌打ちは!」

「バカにしているのか!」


 二人の警官の怒鳴り声で、周囲の人たちが注目してきた。


「さっさと帰れ!」


 くそっ。と内心で悪態をつく。これ以上何かを言うと本当に逮捕してきそうだ。


 何なんだとはこっちの台詞だ。今までとは信じられないほどの態度とこの扱いの豹変。


 もういい、自分で何とかする。


 俺は置いた自転車に戻るために、自転車置き場に戻って警察署から出た。


 

 自分で何とかすると言っても、一人で鍛えられることなんて限られている。それにそろそろ日が落ちて夜に差し掛かる。


 赤い牙、ミュータントが動き出すとしたら頃合だ。


 日中は姿を現さないのは、エルガイアの最強の姿、サンライトフォームを警戒しての行動だと思われる。別段、夜行性というわけではない。と思う。


 俺はエルガイアの力の影響で、一般人に擬態しているミュータントを見る事ができる。


 街中でうろつきながらも、行きかう人々を見て、ミュータント達を探す。


「くっそ」


 今思い返すだけでも腹立たしくなってくる。


 何なんださっきの警官の態度は。ふざけてるのはテメエらのほうだろ。

 思い返すとさらにムカついてくる。


 今まで誰が懸命になってミュータントと戦っていたと思っているんだ。


 ふざけんなよ。


 大きく深呼吸をして冷静を取り戻す。


 ミュータントはどこだ?


 場合によっては即戦闘になるかもしれない、だかもし俺に気がつかなければ、あとを追ってミュータント達の根城にたどり着くかもしれない。


 目を凝らして周囲を見渡しながら歩く。


 辺りを見回しながら歩いていたため、幾人の通行人とぶつかり、俺の形相を見ておびえたのか、顔を見ただけでさっさとすれ違っていく。


 どこだ? どこにいる? ミュータント赤い牙。


『何をそんなに殺気立っているのかしら?』


 俺ははっとなる。

 頭に届いた思念。言葉が頭の中に響いてきた。

 俺の方が先に見つけられた。


『どこだ! どこにいる!』


 俺も思念を周囲の飛ばすように胸の中で呟いて出所を探す。


 すると、その相手は道路を挟んで対面の人ごみの中にまぎれていた。


 相手は女のミュータントと、隣にいるやたらでかい男のミュータント。


 姿は外国人の男女だが、俺の眼ではミュータントとしての姿が重なって映った。


『ふふふ……いいわ、ここでやりましょう』


 やはりそうきたか。

 女のミュータントは高らかに叫んだ:


「ゴウラム! やりなさい!」


 ゴウラムと呼ばれた大男が、通行人の行きかうど真ん中で、変身を始めた。


 メキ、メキメキメキメキ――


「なっ!」


 なんだこれ、なんだこいつは?


 大男がさらにどんどん巨大化していく。


 三メートル、四メートル? もう尺度がわからない。


 そして黒に近い茶色の光沢を持った、半分人間の姿を持つ、カブトムシと思われる巨大なミュータントが、その姿をあらわにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る