第56話 青く光る鉢

 かぐや姫が朝廷サークルの姫だったころ、求婚してきた五人の貴公子に要求した五つの宝物。ツクヨミさんと娘のかぐや姫が仲直りするにはそんな贈り物をしてはどうか。そんなことを俺たち考えた。


「えーと…まず仏の御石の鉢…。なんなんだ?これは。シオツチのおじさんこれがなんだかわかりますか?」

「うむう…仏教のことはよくわかりませんな…。ここは仏教徒のマサル殿に解説をお願いしたいかと」

 いつも解説ポジションのシオツチのおじさんも、このよくわからない品物は知らないらしい。

「えっと…。なんかお釈迦様が使っていた鉢らしいぞ」

話を振られたマサルはスマートフォンの画面を見ながら答えた。

「うん…それはまあなんとなくわかるけど…」

「お釈迦様が食べ物を貰う時に、四天王がこの鉢を使ってください!と一斉に鉢をプレゼントしたら、「四つも鉢があっても使い切れるか!」って四天王のプレゼントした鉢を一つに合体させたらしい」

 マサルはスマホで見た文章を自分なりにかみ砕いて解説した。

「確かに食器がたくさんあっても困るからね」

 ミカドが相槌を打つ。


「食器は捨てるに捨てられないからな…。もっともそのおかげでうちにこんな大人数にもカレーを振る舞えるわけだが…」

 オタマが来るカレーのために目の前に用意している皿は某パン祭りで貰ったお皿だ。

「うちの蔵にも大量の食器があるな…」

 代々寺の住職をしているマサルの家には、それはたくさんの食器が捨てられずに残されていることだろう。


「で、マサルくん。その目覚めた人が合体させた鉢はどんなものなんだい?」

 脱線しかけた話を、ツクヨミさんが軌道修正しようと試みた。

「どうも…文献によって違うらしいけど…三蔵法師の書いた本によると青く光り輝く石の鉢らしい」

「そんな器はカレーには合わなさそうなのじゃ…」

 オタマは渋い顔だ。

「センスを疑いますね」

 イワナガヒメさんもそういう器は好みじゃないらしい。

「使いどころに困るよね…」

 ミカドも困惑している。

「月読様のご息女はなぜそんなものを欲しがったのですかな」

 収集癖のありそうなシオツチのおじさんにまでこんな言われようだ。

「うーん、ガチャで言うとSSRだから一応欲しいって感じなのかな…」

 俺は何とかフォローしようとしたが、その言葉にもツクヨミさんはダメージを受けたようだ。


「まあ…その、とりあえずその青く光る鉢をプレゼントすれば、親子仲がうまく行くかもしれないんだし、お釈迦様が使ってたものは到底無理だけど何とかならないかな。少なくともうちに青く光るような珍妙な食器はないけれど」

「あったのじゃ!青く光る鉢が!」

「そんな都合よくうちにあるわけが…」


 あった。すごく身近に、青く光る鉢が。

 オタマが指さしたのは、マカラのマーちゃんのおやつやエサを盛るのに使っているボウルだ。

「これは…宅配ピザのキャンペーンで貰ったポケモンのボウルじゃないか…」

 しかし、青く透明なプラスチックでできているポケモンのボウルは、一応は青く光ると言っても許されるかもしれない。

「ヤマトん家は物持ちが良いわね…いつのボウルよこれ…」

「描かれているポケモン的に5年以上は前のだろうな…このポケモンはミジュマルだ」

「じゃあこのポケモンのボウルをかぐや姫にプレゼントしようぜ。それで親子仲直りだ。一件落着だな」

 マサルはこれで解決と言わんばかりに手を叩いた。

「少なくとも石ではないように見えるけど…まあこれでいいか」

 ツクヨミさんもマサルの提案に納得したようだ。


「ちょっと待つのじゃ」

「その提案には賛同しかねますね」

 しかし、オタマとイワナガヒメの女性陣から待ったの声が入った。

「そのボウルが取り上げられたらマーちゃんのごはんはどうなってしまうのじゃ!」

「…マーちゃんのごはんは別のお皿を使うとして…。マサルさんも月読様も『とりあえずあるものをプレゼントする』というのは女性の心がわかっていないと言わざるを得ません。まして、ペットのごはんを入れる容器を女の子にプレゼントするなんて…あなたたちは絶対に女性にモテないタイプですね」

「イワナガヒメさんの意見がもっともすぎる…」

「でもミジュマルは人気ポケモンだぜ」

「ううん…人気かなぁ…」

「具体的にはポケモン総選挙で51位だ」

「微妙な順位だ…」

「サトシの手持ちだと1位ゲッコウガ4位ピカチュウ9位リザードンに次いで4番目だ」

「9位から随分離れてるんだな…」


「ポケモンの人気じゃなくて、ペットのエサ入れをプレゼントするデリカシーの無さが問題視されてると思うんだけど…?」

 呆れたようにミカドがつぶやいた。


 ひとまず仏の御石の鉢は棚上げとなった。

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