第55話 親子の関係
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり─
──────
「かぐや姫…そういえば聞いたことがある…。」
「お兄ちゃん、私も知ってるよ。一緒に映画見に行ったじゃない。」
かっこよく物知りキャラっぽいセリフを言ったら妹のぱせりからつっこみが入った。
「って言うか…知らない日本人は居ないんじゃない?」
「だな。」
そんなことをミカドとマサルが付け足した。
「そういえばかぐや姫は最後、月に帰るって話だったっけ?」
俺が言うと、広げた貝コレクションをしまい終えたシオツチのおじさんが頷いた。
「はい。竹取物語のあらすじを簡単に解説しましょうぞ。竹取の翁─さぬき(さるき、さかき)の造が光る竹を切ったら、竹の中に女の子かぐや姫が居て夫婦の子どもとして育てるところから始まります。
美しく成長したかぐや姫はモテモテになりますが求婚者に無理難題をふっかけて結局誰とも結婚せず、帝と和歌をやり取りするなど良い雰囲気になってきたところで月の都からお迎えが来るのです。
帝とさぬきの造は月の軍勢にかぐや姫をさらわれないように兵を配備しますが、月の軍勢と戦うこともできずそのままお別れになってしまう、というお話ですな。
なにやらかぐや姫は罪を犯して、その期間罰として地上に居た、と説明がされております。」
「求婚者に無理難題をふっかけるあたり性格悪そうなのじゃ…。」
「さぬきの造の教育が悪かったんだろうねぇ。」
ツクヨミさんは自分の娘の性格をしれっとお爺さんのせいにして片づけようとしている。
「子どもが悪さをするのを学校の教育のせいにするモンペの発想ですね。」
「ぐっ…磐長姫…なんて手厳しいことを…。」
居心地が悪そうなツクヨミさんに代わり、イワナガヒメさんが話を続ける。
「大筋は先ほど塩土老翁様が仰った通りです。補足すると、別れ際にかぐや姫は帝に天の羽衣と不死の薬を渡します。ちなみにその不死の薬は寿命を司る神である私が調合したものです。」
「へえ…。」
「せっかく作ったその薬はお話のラストで富士山の火口に捨てられるんですけどね。」
「それでイワナガヒメさんの機嫌が悪かったのか…。」
口に出すのは憚られるが、確か帝はイワナガヒメさんの妹さんの一族だというのもイワナガヒメさんにとっては面白くないのだろう、多分。
「なるほど、最後に帝が富士山に来るのは富士山頂の木花咲耶姫の元に預けられたかぐや姫に会いに行くためだった、ということですな。ふむ…つじつまが合ってしまうものですな…。」
シオツチのおじさんは興味深そうに頷いている。
「この月読さんに隠し子発見の事実を天手小町に書いたらバカ受けしそうなのじゃ!オタマ砲なのじゃ!」
「オタマ…それはやめて差し上げろ…。」
勝手に竹が妊娠してそれを認知したというのは結構かわいそうな話でもある。
「話を本筋に戻しましょう。日本でよく知られているおとぎ話に加えて、映画が海外の映画祭で上映されるなどして、彼女の力が非常に増してしまいました。」
「…というわけだから葦原町でかぐやと会うことがあっても僕の居場所は教えないでおいてくれ。それじゃあそういうことで。」
ツクヨミさんはいたたまれなくなったのか話を打ち切って立ち上がった。
「いや…それっぽい子、ついさっき会いましたよ、スーパーで。神の親を探してるとかなんとか言ってたから間違いないですよ。」
スーパーで見た平安テイストの黒髪の子が多分かぐや姫だ。
「…もうすぐ近くまで来ていたか…今すぐ逃げよう。」
「いや…逃げないでちゃんと話をしましょうよ、親子なんですから。一応俺も協力しますよ…。」
「大和!それは本当かい!?」
「できることがあれば、ですけど…。俺も父さんが勝手に決めた許嫁や母さんが育てた子でいろいろご迷惑おかけしていますしね。」
「さすが大和様!」
イワナガヒメがぽん、と手を合わせたが、一般高校生であるところの俺に果たしてできることがあるのかはわからない。
「…で、どうするのじゃ?」
オタマが尋ねる。
「うん…まあ…放置したことを怒っていると思うから、ここは贈り物かな…。」
ツクヨミさんは歯切れ悪く答えた。
「ふむ…かぐや姫の贈り物と言えば、五つの宝物ですな。」
シオツチのおじさんが思い当たったように言う。
「そういえば朝廷サークルの姫の時に無理難題言って色々宝物を要求してたんだっけ…。」
「仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、龍の首の珠、燕の子安貝の五つですな。」
「なんかどれも名称からしてファンタジー感があふれているな…。仏の鉢って宗教違うじゃないですか。」
「まあまあ大和殿。それでは調達できそうなのを一つ一つ検証していくとしましょうぞ。」
そんなこんなで、カレーはそっちのけでかぐや姫への贈り物大作戦の作戦会議が開始された。
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