第四章 その三 レーア戦う
ディバートの挑発めいた言葉に、機動隊の隊長は歯ぎしりした。しかし、
「わかった。やれ!」
リームが、
「おい、まさか……」
「大丈夫だよ」
ディバートは不安感を打ち消すように言った。レーアは震えている。機動隊はガスマスクを着け、麻酔弾を発射して来た。地下道に煙が立ち込めて行く。
「やっぱりね。逃げるぞ、リーム」
「ああ」
二人はレーアを抱きかかえるようにして走った。
「キャッ!」
いきなり二人に抱えられたレーアは仰天した。
「ちょっと、どこ触ってんのよ!?」
「緊急時に細かい事を言うな」
抗議をあっさりと却下され、レーアは剥れた。
「逃がすな! 何としてもお嬢様を助け出すのだ!」
隊長は必死だ。レーアを救出できなければ、職を解かれ、最悪の場合刑務所行きなのだ。
「こっちだ」
ディバートは角を曲がった。リームとレーアが続く。
「煙が広がって来ているな。ここから外に出よう」
ディバートは壁に取り付けられた梯子を昇り始めた。
「リーム、先に行ってよ」
「何でだ、俺が後方を守るぞ」
「私、スカートなの!」
レーアは赤くなって言った。リームも赤面し、
「ああ、すまん」
とディバートに続く。そこへ機動隊が追いついて来た。
「待て!」
しかし、三人はマンホールの蓋を開き、外へと脱出してしまった。
「うわっ!」
ディバートが叫ぶ。後から出たリームとレーアもギョッとした。
「ディバート・アルター、リーム・レンダース、レーアお嬢様誘拐の現行犯で逮捕する」
そこには、別働隊と待ち伏せしいたミッテルム・ラードがいた。
「やめてください。この人達は私を誘拐なんてしていません!」
レーアが前に進み出て二人を庇う。しかし、ミッテルムはニヤリとし、
「お嬢様、貴女はそいつらに騙されているのですよ。そいつらは貴女のお父上である総裁代理を殺害するつもりなのですよ」
レーアはミッテルムを睨みつけるように見て、
「そうかも知れません。でも、貴方達の言う事を信用する事もできません。どちらが本当の事を言っているのか、私にどうやって判断しろと言うのですか?」
と言い返した。ミッテルムはヤレヤレと言う表情で肩を竦めてみせ、
「お嬢様のご判断を待つまでもなく、正しいのは我々です。そいつらは故エスタルト総裁の支持者のフリをして、実際は自分達エリートのみが生き残って地球を支配するのが正しいと考えているのです。非常に危険な存在なのですよ」
三人の後ろに機動隊が現れた。隊長が、
「ディバート・アルター、リーム・レンダース、レーアお嬢様から離れろ」
と銃を向けた。ディバートは肩越しに隊長を見て、
「あんたら、騙されているよ」
と言い、リームに目配せすると、レーアから離れた。
(二人が捕まっちゃう!)
レーアはその時ハッとした。ミッテルムが近づいて来たのだ。
「確保!」
ディバートとリームは機動隊に取り押さえられた。レーアはそれを見て意を決した。
「!」
彼女は周囲の者を見事にかわし、そこから走り出した。
「お嬢様!」
ミッテルムと隊長が仰天して叫んだ。二人は顔を見合わせ、すぐにレーアを追った。
「一体何をするつもりなのだ?」
ミッテルムは苦々しそうな顔で呟いた。
レーアは高校の正門に向かっていた。彼女はその脇にある茂みに隠してあるホバーカーに飛び乗り、エンジンを始動した。ホバーカーはバンと走り出し、レーアは凄まじい勢いで、ディバート達のところに戻った。
「何だと!?」
それに気づいたミッテルムと機動隊の隊長は度肝を抜かれた。
「どいて!」
ホバーカーは唸りを上げて、飛び退いたミッテルムと隊長の間をすり抜け、機動隊を追い払い、ディバートとリームに逃亡の機会を与えた。
「乗って!」
レーアが叫ぶ。ディバートとリームはホバーカーの後部に飛び乗った。レーアはアクセルを全開にし、爆音と共にそこから走り去った。
「これで、私はもう、後戻りできないわね」
レーアの言葉に、ディバートとリームは顔を見合わせたが、何も言わなかった。
ザンバースは、レーアが急進派の味方をしたという報告を受け、耳を疑った。
「あいつが……。そんな、バカな……」
「しかし、私ははっきりとこの目で見たのです。お嬢様は、急進派の二人を乗せて、ホバーカーで逃げました」
テレビ電話に映るミッテルムは恐る恐る言った。ザンバースは歯ぎしりをしたが、
「わかった。もういい。レーアの事はいずれまた考えよう。それよりも、赤い邪鬼の作戦を決行する事になった。うまくやれ」
「はっ、大帝」
ミッテルムは敬礼した。ザンバースは受話器を戻し、椅子に深く沈み込んだ。
「レーア……。とうとう、この私の手から飛び出しおったか……」
彼はむしろ喜びを感じていた。
(只学校へ行き、結婚するより、ずっと充実した生涯になるぞ、レーア)
彼はレーアとの再会が楽しみになって来た。
「お前が正しいと思ったのなら、私はお前に干渉しない。しかし、その代わり、お前を娘とは思わんぞ。今日からな」
ザンバースはニヤリとした。
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