第四章 その二 レーアの選択

 レーアはディバートの行為の真の意味に気づいていなかった。

「さァ、レーア、ここから移動するぞ」

「ええ」 

 二人はトレッド隊のアジトを後にして、ディバート達のアジトに向かった。

「俺達のアジトには、たくさんドアがあっただろう?」

「そうだっけ」

 レーアはよく覚えていなかった。

「今、私の事、凄いバカだって思ったでしょ?」

 ディバートのチラ見に、レーアの被害妄想が炸裂する。

「そんな事、思っていないよ」

「ホントに? ホントに? ホントにホント?」

 レーアはしつこく尋ねた。

「うるさいな、黙って歩けよ」

「……」

 ほんの少しだけディバートの事を優しいと思ったレーアだったが、

(やっぱりこいつ、嫌な奴)

と考え直した。

 二人がアジトに戻ると、リームが出迎えて、

「トレッドの隊にスパイがいるらしい。あのアジトが、ザンバース達に知られたようだ」

「何だって?」

 ディバートは仰天した。そして、

「すぐに首領に連絡して、各地のパルチザンに救援を要請してもらおう」

「ああ」

 リームは別のドアからその部屋を出て行った。ディバートはレーアを見て、

「とうとう本格的な戦いが始まりそうだ。奴らも長年の間、その力を蓄えて来たのだろうが、我々も同じだ」

「何故戦うの?」

 レーアは愚問と思いながらも尋ねた。

「生きるためさ」

 レーアはそれには何も言わなかった。ディバートはレーアを見つめて、

「君に取っては絶好のチャンスだ。パルチザンとして戦い、ザンバースに抗ってみせれば、信用される」

「……」

 レーアはそれにも何も答えなかった。


 ミッテルム・ラードは、表向きの肩書きである連邦警察署長の権限で、機動隊を動員し、レーアの通っている高校付近を捜索していた。

「スパイからの情報によると、この辺りの地下に急進派の連中が総裁代理の令嬢を監禁しているという。数世紀前に下水道として使われていた地下道がある。そこに突入し、レーアお嬢様をお助けした上で、犯人達を全員逮捕する。逆らう者は容赦するな。何としても捕まえるのだ」

「はっ!」

 機動隊は地下道に通じる路面にドリルで孔を開け、突入した。

「そのまま南に進め! 突き当たりが連中の隠れ家だ」

 ミッテルムは無線に怒鳴った。機動隊はヘルメットのライトで前方を照らし、棍棒と楯を手に、地下道を進んだ。

「ここだ。やれ!」

 彼等は突き当たりに到着すると、ドリルと棍棒で壁を破壊し始めた。

「うおおおっ!」

 壁が崩れて扉が現れると、それが突然開き、銃撃が始まった。

「撃ち返せ!」

 機動隊は棍棒を投げ捨て、腰のホルスターから銃を抜くと、反撃を開始した。

「いかん、もう始まっているぞ」

 リームが銃声に気づいて言った。ディバートは、

「しかし、助けに行かないとトレッド達が危ない。行こう、リーム」

「俺は構わないが、レーアはどうする?」

 二人は後ろについて来ているレーアを見た。

「私も行くわ」

「よし、決まりだ」

 ディバートは懐中電灯を消し、前方の明かりを頼りに進む。リームとレーアはそれに張りつくようについて行く。


「うわっ!」

 ディバート達は機動隊の背後を取った形になり、機動隊は一気に劣勢になった。

「救援が来たのか?」

 機動隊の半数は、ディバート達に応戦するため、態勢を変えた。

「おや、あれはレーアお嬢様じゃないか?」

 機動隊の一人が薄明かりの中、レーアの顔を認めた。

「本当だ。あの二人の男といるのは、間違いなくレーアお嬢様だ」

 機動隊は二手に分かれ、後方にいた者達が一斉にディバート達に迫って行く。

「レーアお嬢様の救出が最優先だ。行くぞ!」

 機動隊の隊長が先頭に立った。

「どうしたんだ、キリマス?」

 急に攻撃が弱くなったので、トレッドが不審に思って尋ねる。キリマスが、

「ディバート達が救援に来てくれた。只、連中の半分が、ディバート達に向かったみたいだ」

「何?」

 トレッドは舌打ちした。

(レーアが一緒にいるんだな? だから連中、ディバート達を……)

 彼が考え込んでいると、

「レーアがいるからよ。あの女さえいなければ、私達も狙われたりしないわ。関わり合うのはよしましょうよ、トレッド」

と女のパルチザンが言う。目つきの鋭い、赤い髪の女だ。

「しかし、カミリア……」

 トレッドは異を唱えようとしたが、それ以上言えなかった。カミリアと呼ばれた女は、

「私達には邪魔でしかないのよ、あの女は。いくら、ディバート達の頼みでも、聞ける事と聞けない事があるわ」

と更に言い放った。


「おい、こっちに集中攻撃をかけるつもりらしいぞ!」

 リームが身を退いて叫ぶ。

「あいつらの目的は、レーア救出のはずだ。撃って来る事はないだろう」

 ディバートはそう言ってレーアを見た。レーアはディバートを見上げて、

「私が出て行けば、貴方達は助かるの?」

「わからない。命乞いをするつもりはないが、君を返しても、奴らは俺達を殺すだろう」

「そんな事、私がさせない。パパに頼んでみる」

 レーアのその甘い考えにディバートは、

「そんな事ができるわけないだろう」

と反論した。すると機動隊の隊長が、

「そこにいるのは、ディバート・アルターとリーム・レンダースだな? すぐにお嬢様を解放しろ。さもないと、こちらも強硬手段に出るぞ」

と言って来た。ディバートは隊長を見て、

「構わないよ。しかし、レーアの命も危険に晒される事になるぞ。総裁代理の令嬢を死なせたなんて事になったら、あんたは辞職程度じゃすまなくなると思うが?」

 隊長はディバートの挑発にグッと詰まった。

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