第48話「トラベラー」
「どんな夢でも叶えてあげるよ」
と、男は言った。
「おっ、お前は誰だ!?」
青年は驚いていた!それはそうだろう、いきなり目の前に男が現れたのだ!文字通り、一瞬で。
「君の望みはなんだい?良い所に進学して良い会社へ就職?そして、みんながうらやむ彼女を得る事?」
「そんな事より、お前は誰なんだ!?俺の部屋に勝手に現れやがって!!」
青年は叫んだ。不安と怒り、怖さで心がいっぱいだった!!
「僕は、君の望みを叶える為に来た」
「そんなの叶う訳ないじゃないか!?だから俺は!!」
「叶う!……絶望して、さまよっている魂にこそ、救済が必要だからね」
「お前は本当に誰なんだ!?」
「ただの旅人さ、魂を救済する」
そう男は言うと、青年の方へ手をかざした。
「うわー!!」
青年は絶叫した。もの凄い目眩(めまい)と共に辺りが変わっていったからだ。
「さあ、どうだい?君の望みを叶えたよ」
青年の目眩が止まる頃、青年は自分の変化に気づいたのだった。
『そうだ!自分は希望の学校に合格したんだった。そして今は、やりたかった仕事をしている。俺を称(たた)えてくれる仲間がいて、そして!』
青年が振り向くと、そこには……
愛すべき彼女の姿があった。
ギュッと抱き締め合う二人。その姿を男は優しく見つめて言った。
「これが君の心からの願いであってますね?」
コクコクと、うなずく青年。
「ああ、これです。俺が求めていた自分は……」
青年の目には涙が溢れ出していた。
「どうですか今、なりたかった自分になった気持ちは?」
「ありがとうございます!最高です。まさかそんな!!本当に叶うなんて。言葉に表せないくらいの幸せです」
「それは良かったです。君の願いを叶える事が出来て」
「あっ、あなたは神様ですか?それとも……」
青年は急に不安そうな顔をした。
「大丈夫。悪魔でも神様でもありませんよ。ただの旅人です。もう大丈夫そうですね」
青年の魂が充足したのを見た男は天を指差し、顔を上げ言った……
「さまよえる魂よ!あるべき所へ戻りたまえ」
すると青年の体は光出し、しばらくすると光が消えていくと共に、体も消えていった。あとには静寂と闇だけが残った。
ここは樹海。
男の目の前には、月の光に照らされた無残な躯(むくろ)が転がっていた。男の仕事は、こうやって、いまださまよう魂の救済だった。
名も無き墓標と化した木と、その木にぶら下がる名も無き躯に向かい、男は最後につぶやいた……
「あなたの魂が安らぎますように」
そして、旅人は次へと立ち去ったのだった。
おしまい
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