第65夜 目抜き通り

(2017/04/25 05:44:10)

約束より1時間早めに会う事にして、彼女を待った。もう目前のお金の事なんてどうでも良かった。夕方に掛けて大雨が降るという予報だったので、傘を持って出たが帰る頃には止んでいた。辺りは暗闇で、スマートフォンに照らされた僕の顔だけがぼんやりと浮かんでいた。


「晩御飯どうしようか」の問いに、反射的にどこかへ食べに行こうと返事をしていた。とにかく一緒に居たかった。家に帰り、支度をして20時に車のエンジンを掛けた。今から行くとLINEを送り、まばらに雨が降る目抜き通りを走らせた。


彼女を車に乗せ街へ向かう。以前一緒に行った寿司屋で食事をする事にした。席につくと、年配の職人が僕と彼女にがりを盛った。ノンアルコールビールとチューハイを頼み、はまちとつぶ貝を握ってもらう。念願のうつぼの唐揚げを注文して、美味しそうに食べる彼女を見てとにかく幸せを感じた。大切な時間とは、彼女が僕と居る時間を自ら選択した、今まさにこの瞬間なのだと思った。そう思うと、僕を見つめている彼女のことが愛しくてたまらなかった。カウンターの下で手を絡め、お会計を頼んだ。


空は不安定だったが、彼女に黙って夜景を見に行った。これで地元の夜景は全て見終わった事になる。車を降りて夜景を見ながら煙草に火をつける彼女。

端から端まで視界に収まる程の、狭い小さな街だった。ここで僕は生まれ育ってきたのだと思うと、何かもったいない気がしてきた。もっと広い世界を、なんて耽っていると彼女が煙草を吸い終わっていた。まだ香りの残る唇にキスをして、帰ろうか。と言った。


時間にして約2時間。でもこの2週間のうち、一番充実した時間を過ごせた。彼女への愛を再確認した夜だった。



空港に送る時間が近づいている。

遠くへ行ってしまうのは寂しいけれど、再会の日は近いから。またね。

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