第14話 塔の外へ
セラミスは安堵とも不安ともつかぬ汗を背に感じながらも、いったん立ちあがってから、またあわてて膝を折って頭をさげた。すぐにザザルのことを思い出し、彼がなんと言うか心配になったが、このままメリーナと別れることはどうしてもできない。
(ザザル様なら、きっとわかってくださるわ)
主であり兄のような存在でもあり師でもあるザザルは、はたしてセラミスが塔から出て、リオルネルのような、いわくのある男のもとで働くことを喜ぶか気になるが、もう引き返すことはできない。
「さ、メリーナ、セラミス、来るがいい。我が屋敷へ連れていこう」
せかされて床を歩きながらセラミスはメリーナの許婚者の少年を思い出して、まだその場にのこっていた彼に目をやった。
顔は見えないがこちらを凝視しているその姿からは、やるせなそうな不満の想いがどす黒い霧のようになって彼の全身を包んでいるのが感じられる。
セラミスはメリーナをうかがったが、張りつめた横顔はやはり青ざめたままで、無表情に見える。
これが、この不幸な若い恋人同士の最後の別れかもしれないと、セラミスは胸の痛みを感じながら思った。
「勝手を言って申し訳ございません、ザザル様」
「いや。私はべつにかまわないが……だがセラミス、大丈夫か。塔の外はおまえにとって危険かもしれぬぞ」
「覚悟しております」
リオルネルから、出発するまでに荷物をまとめておくように言われ、セラミスは大あわてで荷造りをせねばならず、ザザルにしみじみと別れの挨拶をすることもままならない。
「しかも、相手はあのリオルネル=バドル殿下だ。いろいろ噂のある人だぞ」
「はい……」
セラミスは、わずかな着替えをつめこんだ籠の持ち手をにぎりしめた。
「お気の毒なお方だと聞くが……その、嘘か本当かわからぬが、赤子をさらってきて血を啜っているなどという噂までささやかれている。いや、勿論私は信じてはおらぬが」
さすがにそう聞くとセラミスは背が寒くなったが、いくらなんでもそれは嘘だろう。嘘にちがいない。あの苦笑めいた息を吐いたときのリオルネルからは、そんな魔物のようなおぞましさは感じなかった。
「ど、どちらにしろ、メリーナ様をおひとりにはできません。こうなったら乗りかかった船です。どこまでもお供します」
「不思議だな」
ザザルは黒い覆面の奥で目をまるめているようだ。
「おまえとメリーナ姫が出会ったのはつい数日前だというのに、まるで長年ともに過ごした主従か、旧知の間柄のようなことを言うな」
言われてセラミスも不思議になったが、実際わずかこの数日で、メリーナにつよい親しみと深い絆のようなものを感じる。もっと長く牢にいて顔を見ることもある囚人も大勢いるのだが、こんな離れがたい気持ちを抱いたことはなかった。
「まぁ、それが人のつながりの不思議なものなのだろうな。私はこの仕事をしていて肉親や血族でありながら、互いに殺しあうような連中をたくさん見た。良きにつけ悪しきにつけ、人と人とが触れ合うときというのは、予想できぬ運命の神の采配が影響してくるようだ。もしかしたら、おまえとメリーナ姫には奇妙な絆があるのかもしれぬ」
そうかもしれない。これは、もう運命だとセラミスは思う。一方、ザザルとの絆を断ち切ってしまおうとしている自分に罪悪感も覚えた。
「……申し訳ございません。勝手に決めてしまって。こんな自分勝手なことを出来る立場ではないのに……」
本当なら、生まれてすぐ殺されても捨てられても仕方ない身の上だ。それをこの歳までちゃんと育ててもらったというのに、わずか出会って数日ばかりのメリーナのために何の恩返しもせず塔を出て行こうとしている自分がひどく薄情な人間に思える。
だがザザルは左右に頭をふった。
「おまえもいつかは自分の道を自分で選ばねばならなくなるのだ。困ったことがあればいつでも訪ねてくるがいい。ここはおまえにとって実家のようなものなのだから……、いや、あまり良い実家とはいえぬな。出来うるなら、外では塔の出身であることを隠しておくがよい」
「そんなこと……」
言いかけて、セラミスは石を投げてきた子どもの悪意に満ちた声を思い出した。
(大丈夫よ。何があっても、きっと乗りこえられるわ)
「さぁ、メリーナ姫の室に行くがいい。おまえが迎えに来るのを待っている。リオルネル殿下も待ちくたびれているかもしれぬ」
「はい。……あの、ザザル様、最後にお願いをしてよろしいですか?」
「なんだ?」
「あの……お別れに、お顔を見せていただけませんか? 長いことお世話になったのに、わたし一度もザザル様のお顔見たことがなかったし……」
ザザルは思案するように首をかしげた。
〈黒百合塔〉の官吏は、家族以外には素顔を見せてはならない決まりだからだ。
「よかろう。おまえは家族みたいなものだしな。見てもつまらんと思うが」
はらりと、黒い布がめくれあがった。
ちょうど窓から差し込んできた夕日が、彼の顔を照らす。
(あら……)
セラミスは、夕日を一瞬熱く感じた。
「どうした? ぼんやりとして」
「……おどろきました」
「なにが?」
「ザザル様、けっこう美男子だったんですね」
「何を言っておる?」
あきれて笑うザザルの黒い瞳は星を秘めた夜空色だ。
長い付き合いだったというのに、彼の瞳の色すら知らなかったことが、今さらながらセラミスは悲しくなった。
今まで知り合った囚人たちも刑期を終えれば去って行ってしまったり、他の牢獄へ移されたり、なかには気の毒に病気で亡くなった者もいれば、自害した者もいる。
塔のなかで知り合った者とは深く関わるなと、セラミスは育ててくれた老女やザザルに教えられてきた。
薄い絆に人肌の暖かみを求めることは、結局は不幸を招くことになると、言外に彼らは伝えていたのだ。だから育ての親同然のザザルの素顔さえ知らずに、別れの日をむかえた。
今、セラミスの前にいるのは、つねに黒フードや覆面で顔をおおっていた不吉で暗い印象の男ではなく、ほっそりと品の良い白い肌に美しく理知的な
「なんだか……お別れしたくないですね」
冗談のように言いながらも、胸が甘く疼く自分が恥ずかしい。
だが、遅いのだ。別室でメリーナが待っているし、塔の庭ではリオルネルがしびれをきらしているはずだ。
「気をつけてな。バリヤヌス神の祝福があることを」
「はい。ザザル様にも祝福がありますように。お元気で」
――そうして、セラミスは生まれ育った〈黒百合塔〉を出て、新しい主となったメリーナとともに、リオルネルの黒馬車に乗って、黄昏の街へと出た。
樹海の近くまでくると町並みが変わってきた。都の繁華街を出たころから建物や人のすがたが減り、かわいた路がつづき、やがて果樹園が見え、それも消えると暗い森がせまってきてセラミスは幽霊や魔物の伝説を思い出し、つい膝のうえで両手をにぎりしめた。生まれて初めて紅繻子を張った貴族用の馬車に乗っていることも、いっそうセラミスを緊張させる。
ふたりの向かいの席に座っているリオルネルが、まるでセラミスの心中を読んだかのように、さげすむように覆いの下で鼻をそらした。
「娘よ、なにを怯えておる?」
セラミスの隣のメリーナが代わりに答えた。
「この娘は緊張しているのです。見知らぬ土地へ行くものですから。ましてそれが悪魔の住み家なのですから、なおさらですわ」
あわてたのはセラミスだ。
「メリーナ様……」
「あら、だって本当のことじゃない? 世間知らずのわたくしだって聞いたことがあるわ。樹海の近くに住むリオルネル=バドル殿下のお噂は」
メリーナの表情はすさんでいた。
相次ぐ不幸に見舞われ、許婚者とも引き裂かれ、さしものメリーナも、今日までかろうじて保ってきた強い魂に皹が入ってきたようだ。
「魔女の血をひく悪魔の子。下々の者はそう噂しているのでございましょう? お屋敷には満月の夜に黒い精霊たちがあつまり宴をひらくとか、近在の農家で子どもや赤子が行方知れずとなると、お屋敷から泣き声が聞こえてくるとか。あれはきっと悪魔貴族が幼子の生き血をすすっているのだろうと」
「もうけっこうだ!」
馬車がはげしくゆれた。メリーナとセラミスは同時に
気まずい緊張と沈黙を終わらせたのはリオルネル自身だった。
「深窓の姫君がよくそんな下々の噂を耳にしているな。見かけによらず高尚な趣味の持ち主のようだな、メリーナ姫は」
「侍女たちから聞きましたの」
かすかに頬を赤らめメリーナはつぶやいた。
「躾のよい侍女たちだ」
「女たちの、他愛もないおしゃべりですわ。おゆるしを」
メリーナは決まり悪そうにうつむく。しばしの沈黙。
「……その、だって、ただの噂でしょう?」
「噂でないかもしれぬぞ」
覆面の下でリオルネルが笑っているのがセラミスにはわかったが、メリーナは青ざめている。
「もしかしたら、美しい姫君が今宵の犠牲者になるかもしれぬな」
「ご冗談を」
メリーナの横顔はこわばっている。セラミスは急いで彼女の左手に自分の右手を、励ますように、慰めるようにかさねた。
「ご冗談に決まっています。殿下はわたくしたちを驚かせて、おもしろがっていらっしゃるのですよ」
「淑女を怖がらせて喜ぶなんて、そちらこそ良い躾を受けられましたわね」
セラミスは内心、臍を噛んだ。一瞬、終わるかと思ったメリーナの毒舌がまた火を吹きはじめた。
メリーナは今のセラミスにとって大事な主であり、同情すべき理由は山ほどあるが、この場合は、非は彼女にある。わざとバドル領主を怒らせるようなことを口にしているし、出生のことで人を責めるのは酷だ。人は、生まれてくる場所を選べないのだから……。
「こう言っては失礼だが、そなたはもはや淑女ではない。反逆者の娘であり、〈聖断〉を受けて私に買われた身だ」
メリーナは眦をつりあげた。
「わたくしは……、わたくしの父は反逆者などではありません! 〈聖断〉を受けたとはいえ、わたくしは淑女であることはやめません!」
メリーナの青白い頬が怒りに赤くなる。セラミスはメリーナに深く同情し、一方で感激した。このような身の上に堕ちてなお、己を金で買った男にこうも堂々と言いきる彼女は、やはり骨の髄まで貴顕の人だ。
「私の母も魔女ではない」
かえってきた言葉は静かだった。
そこでまた車内に沈黙の垂幕がおとされた。
今度はメリーナがその垂幕をはらった。
「……よく知りもしない人を、噂だけで侮辱するのは淑女にあるまじき無作法でした。わたくしの……無礼な言葉を、おゆるしください」
相手の圧力に屈したのではなく、芯から己の失言を恥じたようにメリーナは目をふせた。
メリーナは挑むべきときと退くべきときを知っているようだ。セラミスは再度感心した。
「ゆるそう。私の失言もゆるして欲しい。そなたは……たしかに淑女だ」
最後の言葉を告げる瞬間、リオルネルはそっぽをむいて顔を窓にむけた。まるで照れているようだ。セラミスは吹き出しそうになるのをこらえて、リオルネルの横顔を追うように窓の外を見た。
夕焼けの女神イベリアが、茜色の衣でかろやかに舞い下りてくる。
バリヤーンは小さな国だが、国土の西がわには石造りの首都や港、東がわには農耕地、果樹園、樹海と景色は多様で、もはやこの地は、内部しか知らなかったメリーナやセラミスには異国としか見えない。鍬や鋤を背にかついでいる男たちは泥にまみれていかにも貧しげだが、彼らについていく百姓女たちの腰にまきつけられた帯紐は色あざやかで、この土地独特の文化を語っているようだ。
馬車が彼らのよこを通りすぎていく瞬間、女たちがうたっている歌がかすかに聞こえた。
メリーナがまばたきした。
「あの歌、わたし知っているわ」
「歌、ですか?」
「ええ、あれは、たしか『エレの恋唄』だわ」
その名はセラミスも聞いたことがある。都で一、二と言われる歌い手だ。
「こんな田舎でも歌っているのかしら?」
「こんな田舎とは言ってくれるな」
リオルネルの声はやわらかく、メリーナもよけいな敵意は出さなかった。
「あら……、そういう意味ではなくて、都で流行っている歌をここでも聞くなんて」
「歌はときに鳥や馬より早く空を翔け、地を走るものだ」
「……あなたもエレの歌を聞いたことがあるのですか?」
メリーナの問いにリオルネルはそっけなく答えた。
「知らないが、都に来るとよく若い歌い手の女が、にぎやかな通りで歌っていたのを見かけたな」
「きっとエレですわ」
そこでメリーナはいぶかしげな目線を相手におくった。
「なんだ?」
「そんなに、よく都へ来ていたのですか?」
「田舎貴族は地方にひっこんでいるべきだというのかな?」
「嫌味にとらないでください。わたくしは無礼を謝罪したはずです」
メリーナはまたも言葉に威儀をにじませ、きどった言い方をしている。
「新しい果物の種など、いろいろ調べていてな。都には異国から商人たちも大勢来るし、商用や取引をかねて度々足をはこんでいる」
そういえば地方の貴族にしてはリオルネルは裕福そうだ。だからこそメリーナを買うこともできたのだろうが。妖術師だ悪魔だと陰口をたたかれながらも、この地方貴族はなかなかの敏腕家のようだ。セラミスはやや感心したが、メリーナの意見はまるでちがうようだ。
「あなたは商業貴族なのですか」
メリーナの声は冷ややかだ。
バリヤーンには三種類の貴族がいるといわれる。
三百年前の建国時代からつづく王家とも縁のある五太守家などを中心とする王侯貴族と、地方の領地をおさめる土着の地主貴族、そして、おもに王侯貴族や地主貴族の子弟で、跡を継げない次男、三男などが商売に手を出しそれなりに財を築くようになって新しくでてきた商業貴族である。
リオルネルのように領地を持つ地主貴族でも、商売に手を出すと商業貴族と呼ばれるようになる。ここ最近では、新興の商業貴族が一番ゆたかで、各地の商業会を牛耳り、国政にも口出しし、国の中枢にも出てくるようになった。が、やはり由緒ただしい王侯貴族の出自であるメリーナからすると、なりあがりである。
「いけないかな、お嬢さん? 先祖代々のせまい領地の管理だけではやっていけないのでな。生きていくためには常に目先のことを気にかけ、市場のうごきを見ておかねばならない。時流が見えなくなり、波に乗りそこねてしまうと、あっという間に足もとをすくわれてしまうものだぞ」
メリーナは唇を噛んだ。そんなふうに一日に何度も唇を噛んでいると荒れてしまうではないかと、セラミスは心配になる。横目で見ると、やはり
不意にセラミスはメリーナを言い負かそうとするリオルネルが憎らしくなった。
(なによ、こんな状態のメリーナ様に、そんなこと言わなくていいじゃない)
リオルネルだけでなく、結局メリーナを救ってはくれなかった少年貴族も、今日の〈聖断〉にあつまっていた富裕層の男たちも、メリーナをこんな境遇におとしいれた者たち、国王すらふくめた全員、つまり地位や力を持つ男という男のすべてが、いきなり憎くて憎くてたまらなくなった。
連中はメリーナが裕福な太守家のひとり娘であったときにどこかで出会おうものなら、うやうやしく腰をひくめ膝を折って頭をたれ、手に接吻し、口からは虚実とりまぜて賞賛の言葉を吐き、彼女の多少の我がままも驕慢さも「なんと可愛らしい姫君だろう」と笑ってすませていたろうに、こうやっていったん支配階級の座からころがり落ちたとたん、彼女を貶め、傷つけ、金の力で支配下において自由にあつかおうとするのだ。
(皆でよってたかって、地位を失った女の子をいじめてなにが楽しいのよ!)
メリーナが貴族の令嬢であったときなら、メリーナの勝気な態度も態度なので、セラミスはそれほどリオルネルを恨んだりはしなかったろうが、今の彼女は力無きかよわい立場なのだ。それでいて、けっして誇りをうしなうまいと必死にふんばっているけなげな亡家の姫君なのだ。
どうしてもう少し思いやりの気持ちを持ってはくれないのだろう。リオルネルもまた宮殿から遠ざけられ、権力の中枢から追放された身であり苦労もあるのだろうが、なにを言うにも男で、貴族で、彼女より十歳以上は年長で、それなりに財産も自由もあり、今のメリーナにくらべたらはるかに恵まれた境遇の人ではないか。
爪をもがれた高貴な雌猫のようにしょんぼりとしてしまったメリーナを見ていると、セラミスの胸に黄金の怒りがわいてくる。己自身の損得はまったく関係ない、ただただメリーナのためだけの、純真な怒りが。だが、セラミスにはその怒りをあらわすことが、どうしても出来なかった。代わりに静かに口を開いたのはメリーナだ。
「あなたのおっしゃることは……正しいのかもしれません。わたくしたち一家は波に乗りりそこねたのでしょうね……。でも、それでもわたくしは、これだけは信じています。父は罪人ではないと」
「……だが、罪を告白したと」
「あなたのお母様も、かつて王太子の呪殺の罪を告白したはずだわ」
「三日三晩のきびしい尋問の果てにな……。……ああ、おそらくあなたの父上は苛酷な拷問のはてに〝自白〟せざるを得なかったのかもしれない……」
メリーナは目を見はっている。リオルネルの言葉は、怒りや憎しみとはちがう感情をメリーナの胸に呼びこんだようだ。
またも車内には、灰色の紗が垂らされたような微妙な沈黙がはりつめた。そして今度の沈黙を裂いたのはリオルネルだった。
「……もし、あなたが歌を聞くのが好きなら、今度、旅の吟遊詩人を屋敷に呼ぼう。このあたりは歌い手よりも流浪の芸人の方が多いのだが、そこそこ歌のうまい吟遊詩人も来る。その、もしあなたが興味があるのなら、だ。都の歌い手にしか興味がないなら、しかたないが」
「……ぜひ聞いてみたいです。旅の吟遊詩人の歌や物語を」
セラミスはわずかな時間にくりかえされるふたりの舌戦と和解にすこし翻弄されてきた。
ふたりはまるで、決して交わらない黒と白の激しい光を互いに放ちあい、時折その光の波をぶつけあっては火花を散らしている。はじけた光の粉は少したつとおだやかな波となって空気に溶けていく。どうやらこの先、このような微妙で緊張感あふれるやりとりが続きそうだ。
(なんだか……、まるでわたしの全く知らなかった関係だわ。貴族同士の付き合いって、こんなふうなのかしら)
つねに気取りあい、誇り高すぎてうちとけあわず、その誇りゆえに傷つき、傷つけ、けれど最後のところで礼儀を守り、相手の面子をおもんばかる。それは、セラミスにとっては複雑きわまりない関係だ。
(考えてみたら、おふたりは王家をとおして縁戚になるのだわ)
セラミスは今さらながらに思い出した。
そしてふたりともその王家から忌まれる存在となっている。
「ほら、屋敷が見えてきた。近在の者は〈黒鷹屋敷〉などとたわむれて呼ぶがな」
〈黒鷹屋敷〉というのがセラミスの心にややひっかかった。
(わたしの行くところは、どこも黒いのね)
〈黒百合塔〉から〈黒鷹屋敷〉へと住む場所が変わっても、どこまでも黒い影がつきまとってくるのではないかと、少しセラミスらしくないひがんだ気持ちになってしまった。
そんなセラミスの思惑をよそに馬車はどんどん屋敷に近づいていき、セラミスたちの前に〈黒鷹屋敷〉の全貌があらわれた。
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