星は海にかえす

市井一佳

本編

0.

 両手を首の前でクロスさせて、部屋着にしているパーカーのフードを首に巻き付けるように引っ張る。そうすると、寒さは少しだけ和らいだ。

 わたしは自分の部屋のベランダでひとり、立ち尽くしたまま夜空を見ていた。

 これだけ寒いのだから、一度部屋に戻ってコートでも取ってくればいい。ものの数秒で済む話だ。

 しかし、そう出来ない理由がわたしにはあった。だからこそ、安易に部屋着のままベランダに出てきた自分を恨むことしか出来なかった。

 寒さのせいで嫌でも顔が強ばるのを感じながら、わたしは空をにらみつける。

 時折、市内にある米軍基地からもたらされる、オレンジ色のサーチライトが視界を乱す以外には、何も変わったところなどなかった。

 顎が震えて、奥歯がガチガチと鳴り出す。吐いた息で眼鏡が曇った。

 こんなことなら、まだコンタクトをつけたままにしておけば良かったと思うけれど、今更そんなことを嘆いても仕方ない。

 目的を果たすまでは——が来るまでは、わたしはどうしても、ここを動くわけにはいかないのだ。




 

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