第22話 進化する悪路王

 ヒミカは怒りに任せてオロチの頭を足で踏み鳴らした。

 その頭には【120】というオロチの死へのカウントダウンが刻み込まれている。

 磨き上げた己の呪術の腕がアダとなった皮肉さにヒミカは目を吊り上げた。

 ここにいる連中を全て片付けたとしても、その後はやっかいな解呪の作業に取りかからなければならない。

 それも早急に。

 ヒミカは沈鬱ちんうつな目で眼下に浮かぶ船を見下ろした。

 爆発の影響なのか、ヒミカが呪術で操っている操舵士そうだしはすでに操船をやめているようで、船はただ波に揺られるまま漂っていた。


「虫けらどもが。苦しめて殺してやりたいところだが幸運だったな。楽に一瞬で死ねるぞ」


 呪詛じゅそのようにそうつぶやくとヒミカはオロチの顔を船の正面に向け、その口を大きく開けさせた。

 だが、その船を足場としてオロチの前に立ちはだかるものが突如として姿を現した。


 漆黒の大鬼・悪路王あくろおう

 その体躯たいくは全長10メートルほどもあり、以前よりも目に見えて大きくなっている。

 灰色だったタテガミは黄金色に輝きを変え、額から生える二本の角は以前よりも大きく長く伸びて雄々しく天を突いている。

 さらにはその両肩からは勇壮な一対の翼が生えており、悪路王あくろおうに飛行能力が備わったことを示していた。

 そして悪路王あくろおうの目は強い真紅の輝きを放ち、見るものを震え上がらせるほどの殺気を帯びている。

 その体から感じる凶悪なほどの威圧感は、まさに悪鬼羅刹あっきらせつを具現化した存在と言っても過言ではなかった。


 その右肩には子鬼を背負った雷奈らいなの姿がある。

 悪路王あくろおうの変化を肌で感じ取ると、ヒミカの腹の底にたまっていた怒りが静かに冷えていく。


「……私はゆくゆくこのオロチで大陸を制覇するつもりだ。その過程では我が親たる大妖狐とまみえることは避けられんだろう。絶対的な力で全てを制圧する。そのためにはこんなところでつまずくわけにはいかん」


 そう言うとヒミカはオロチの頭を上空に向ける。

 オロチの口が一層大きく開かれ、その口内に負のエネルギーが蓄積されていく。

 怒涛どとうの150秒間がその幕を開けた。

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