第20話 白雪の秘策

「うぅ……」


 紫水しすいの膝の上で白雪がうめき声を上げて目を覚ました。


「姫さま……」


 心配そうに彼女を覗き込む紫水しすいの下で白雪はハッとしてすぐに起き上がった。


「大蛇は……」


 白雪はすぐに周囲を見渡し、黒炎を連続で吐き出しているオロチの姿を目視した。

 オロチは自分の周囲を飛び回る小さな影を黒い炎で撃墜しようとしている。


「あれは……」


 白雪は目を凝らすと、それが雷奈らいなであることを察したが、雷奈らいなの背に何か小さな人影がくっついていることと、その人影が翼をはためかせているのを見て怪訝けげんな顔を見せた。

 そんな主の様子に紫水しすいが口を挟む。


「よく分かりませんが、鬼ヶ崎雷奈らいなの新たな能力のようです」


 紫水しすいは委細を説明することはせず、ただそう告げた。

 白雪は素早く状況を判断すると緊迫した顔で雷奈らいなの奮戦を見つめる。


「そうですか。ですが、あのままではいずれ炎に焼かれてしまいます。援護を」

「しかし我々にはもはや打てる手立てが……」


 そう言って口ごもる紫水に目をやると、白雪は何かを思いついたかのように目を見開いた。

 そして何も言わずに立ち上がると、おぼつかない足取りで数メートル先にある船体に開いた大きな穴の近くへと向かった。

 そこはオロチ出現の際に出来た大きな大穴が開いており、最下層の船底までを見下ろすことができた。

 そして船底には響詩郎きょうしろう亡骸なきがらが床に横たえられている。


「姫さま! ご無理は……」


 そう言って紫水しすいはすぐに白雪に駆け寄り、穴の手前で彼女の肩をつかんでその場に留まらせた。


「姫さま。一体何を……」

「転生の施術は残念ながら失敗に終わったようですね。我が無力を呪います」


 くちびるゆがませて悲しげにそう言う白雪に、紫水しすいはかける言葉を失った。


「姫さま……」

響詩郎きょうしろうさま。必ずかたきは討ってみせます」


 悲痛な表情でそうつぶやくと白雪は視線をずらして、最下層の廊下部分に目をやった。

 そこには先ほど彼女が打ち倒したヨンスの亡骸なきがらが横たわっており、そのすぐ傍には小刀が落ちていた。

 白雪はその様子を見てとると、すぐに紫水しすいに指示を出した。


紫水しすい。あの小刀をここに」


 一瞬、主の意図を探った紫水しすいだったが、すぐにその真意を察してうなづくと、大破して筒抜けになっている最下層へと身をおどらせた。

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