第16話 抵抗不能! 恐るべき蛇神の力
満月の明かりが優しく照らし出す真夜中の海の上を無数の光の矢が疾駆していく。
白雪の放つ渾身の一撃は次々とオロチの胴に炸裂してまばゆい閃光を吹き上げた。
触れられたことを怒り狂うかのように、オロチは大きく高潔な遠吠えを響かせる。
耳を塞ぎたくなるような重苦しいその響きに、白雪は思わず顔をしかめた。
そしてすぐに目を見張った。
第一射として数十発の矢が直撃したにもかかわらず、オロチの肌には傷一つ負わせることが出来ていない。
白雪は直感的に感じ取った。
「悔しいですけど、私の矢ではあの蛇に致命傷を与えることは出来そうにありませんわね」
矢を一本に束ねることで貫通力を強化したり、無数の矢で同じ一点を突き続けることにより敵にダメージを与えるという技術を持っている白雪だったが、それをやったところでオロチに対して効果的な攻撃になり得るとはとても思えなかった。
「ならば!」
白雪はさらに自分の体の周囲に発生させた数十本の矢を二手に分け、片方の一群を上空高く飛ばし、もう片方の一群は海の中へと潜らせた。
上空へと放たれた矢は満月の光を背にしてその中に吸収されるように見えなくなり、海の中に潜った矢も月光に照らされた海面の下で見えにくくなっていた。
それを見たヒミカは鼻を鳴らした。
「フン。
オロチのすぐ真下の海面から水しぶきを上げて飛び出した矢の一群は、オロチの体を舐めるようにして上昇し、頭の上に陣取るヒミカを直接狙った。
同時に上空から舞い降りる矢の一群はヒミカの頭上から彼女を狙う。
オロチへの攻撃が一切効かないことを悟った白雪は操縦者であるヒミカに照準を定めて攻撃を仕掛けたのだ。
だがヒミカは冷静だった。
「その狙いは賢明だが、私だけを狙ってくることがあらかじめ分かっていれば、どうにでも対処できる」
オロチの細長い舌が突如として幅広の皿型に変化し、下から這い上がってくる矢の一群を弾き返して盾の役目を果たした。
そして今度はヒミカ自身が召喚した数多くの小鬼の体を盾として、頭上からの矢の一群を防ぎきった。
だが、すべての光の矢が霧散したその
「本命はこちらですわ!」
白雪が放った大木の幹ほどもある巨大な光の矢が、唸りを上げてヒミカへ一直線に飛翔する。
だが、ヒミカはこれにも取り乱すことはなかった。
「こちらに飛び道具がないと思っているようだが、そうした思い込みは危険だぞ。お姫様よ」
長年オロチのことを調べ続けてきたヒミカは、オロチに備わっている能力を熟知していた。
ヒミカの意思に従い、オロチは大きく口を開く。
大きく開かれたオロチの口の中に瞬時に強大な妖気が蓄積されていく。
「さあ。消えて無くなれ。狩人の姫君よ」
ヒミカの言葉と同時にオロチの口から猛烈な黒い火炎が射出される。
その衝撃波で海面が大きく波打ち、船が激しく上下する。
猛烈な黒炎は白雪の放った特大の光の矢を容赦なく粉砕し、そのまま船を直撃した。
全てを焼き尽くすかと思われた黒い炎だったが、その威力はもっと恐ろしい結果を生む。
白雪が足場にしていた船の3階部分はごっそりと削り取られて消失していた。
爆発も炎上もない。
言うなれば消滅という言葉が最もふさわしい。
船の3階部分がそっくりと空間から削り取られてしまったかのように消滅していた。
そして……白雪の姿はどこにも見当たらなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます