第15話 生まれ出る新たな息吹

 雷奈らいなが目覚めたのは冷たい海の中ではなく、船上の甲板の上だった。


「うっ……くぅ……」


 目を開けると、心配そうに自分を見つめる2人の少女の顔があった。


弥生やよい……ルイラン……」


 雷奈らいなは体を起こそうとして激しい痛みに顔をゆがめた。

 弥生やよい雷奈らいなの額に手を置いてそれをそっと押し留めながら言う。


「動いちゃダメです。左の腕が折れてるんですよ」


 見ると雷奈らいなの左腕は光の矢を添え木にして固定されていた。


紫水しすいさんがやってくれたんですよ」


 弥生やよいの言葉に雷奈らいなが首を巡らせると、自分と弥生やよいとルイランを守るように背を向けてそばに立っている紫水しすいの姿があった。


「私は……どのくらい倒れていたの?」


 そうつぶやく雷奈らいなにルイランは笑って答えた。


「5分も経ってないネ」

「あいつは……妖狐とオロチは」


 その問いには紫水しすいが背を向けたまま答えた。


「今、姫さまがおひとりで戦われている。鬼ヶ崎雷奈らいな。あの大蛇の化物に叩き落されて海に落下寸前のおまえを助けたのも姫さまだ。感謝するんだな」

「白雪がひとりで?」


 雷奈らいなは驚いて声を上げた。


「そうだ。私は万が一の際に貴様らを守るようおおせつかっている」


 見ると白雪が船の最上階である3階部分を足場にして、光の矢を駆使しながらオロチと戦っている。

 だが白雪の攻撃はオロチを傷つけることもヒミカを倒すことも出来ず、彼女は疲弊ひへいしていた。

 拳をきつく握り締めて戦況を見守る紫水しすいを見て、雷奈らいなは申し訳ない気持ちになった。


紫水しすい……弥生やよいとルイランは私が守るから、白雪に加勢してあげて」


 だがそんな雷奈らいなの申し出を紫水しすいはピシャリと拒否した。


「そんな体で何が出来る。自分の体も守れない者に他人は守れない」


 紫水しすいは拳を震わせて、白雪の戦いぶりを見つめ続けた。


「……私は姫さまの命令を守っているのだ」


 その声音から、彼女の気持ちが雷奈らいなにも手に取るように分かった。


紫水しすい……本当は白雪を助けに行きたくてたまらないはずなのに)


 そんな紫水しすいを見ると雷奈らいなは口を真一文字に結び、身を起こした。


「もう大丈夫よ」


 心配そうな弥生やよいにそう声をかけ、雷奈らいなは立ち上がるとふところからケータイを取り出した。

 そして悪路王あくろおう使役のための残金が底を尽きかけていることを確認し、落胆した。


「くっ……あんなに必死に戦ったのに」


 彼女の必死の戦いも、オロチという絶対的な力の前には無力でしかなかった。

 今の雷奈らいなにはもう戦う術が残されていない。

 雷奈らいなは1歩2歩と歩み出て、絶望的な気持ちで白雪の戦いを見守るしかなかった。


(何か……何か出来ることはないの?)


 追い詰められた気持ちが雷奈らいなの心をさいなむ。

 その時だった。


「痛っ……こ、こんなときに……」


 突然、腹部に鈍い痛みが走ったかと思うと雷奈らいなは思わず顔をしかめた。

 ここ数日の間に違和感や痛みを感じていた下腹部が再びここにきて痛み始めたのだ。

 すぐに痛みは立っていられないほどの激痛に変わり、彼女は膝をついて激しく息を吐いた。

 彼女の突然の変調に、弥生やよいとルイランが驚きの声を上げる。


雷奈らいなさん? どうしたんですか?」

「しっかりするネ!」


 彼女らの呼びかけもどこか遠い幻聴のように聞こえるほど、雷奈らいなの意識は激痛に揺らぐ。

 雷奈らいなは額に脂汗を浮かべながら必死に痛みをこらえようとするが、腹部が強烈に熱を帯び始め、苦しさのあまり額を床につけて歯を食いしばった。

 それでも痛みがやわらぐことはなく、雷奈らいなは震える握り拳で床を何度も何度も叩いた。


「くっ……うぅぅぅぅ……あああああ!」


 そしてついには顔を天に向け、雷奈らいな苦悶くもんの叫び声を上げた。

 突然のことに紫水しすいも困惑し、雷奈らいなの苦しむ様子を呆然と見守ることしか出来ない。


「一体とうしたというのだ……」


 そうつぶやきをらした時、紫水しすいは見た。

 雷奈らいなの腹部が白い輝きを放ち始めるのを。

 雷奈らいなは自分の体内から何かが生まれ出ようとしているのを感じて、かすれた声で、それでも必死に叫び声を上げた。


「な……何かが来る……くぅ……あああああ!」


 彼女がそう叫んだ途端、雷奈らいなの体はまばゆい光に包まれ、弥生やよいら3人の視界が真っ白な光に包まれて何も見えなくなった。

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