第12話 強大にして凶悪! オロチの絶対的な力

 悪路王あくろおうは大きく舞い上がり、漆黒の拳でオロチの右側頭部を殴りつけた。

 だが、その感覚は雷奈らいなが今まで感じたことが無いほど頑強なものだった。

 その一撃もまるで効果がないかのようにオロチは首を振ると、その尾で悪路王あくろおうを叩き落とした。


「くっ!」


 海面に漂う船の上から悪路王あくろおうを操る雷奈らいなは顔をしかめる。

 海面に叩きつけられた悪路王あくろおうはすぐに再び飛び上がり、オロチの胴に鋭い手刀を幾度も打ち込んでいく。

 だが、オロチは微動だにせず、今度は頭部の一撃で悪路王あくろおうの巨体を弾き飛ばした。

 吹き飛ばされながらも再び海面から立ち上がるが、悪路王あくろおうは決して軽くないダメージを負っていた。

 白イタチのザバドを倒して45万イービルの軍資金を得ていた雷奈らいなだったが、今のレートで戦い続ければまともに戦えるのはもう5分もない。

 それほど悪路王あくろおう使役の消費レートを高めているというのに、まったくオロチには歯が立たずにいた。


 オロチの上に立つヒミカは鼻で笑った。


「貴様の自慢の黒鬼もオロチの前にはまるでノミだな。試し斬りをしたいところだったが、どうやらこちらが強くなりすぎてしまったようだ」


 そう言うとヒミカは雷奈らいなを見下して嘲笑した。

 雷奈らいなは悔しさに歯噛みしてうめく。


「あの妖狐さえ落とせれば……」


 響詩郎きょうしろうの顔が脳裏に浮かび、雷奈らいなは歯を食いしばった。


響詩郎きょうしろう。あんたの仇は絶対に討つ」


 雷奈らいなは強気にそう言ったが、何をすればオロチを退けてヒミカを叩き落せるのか、皆目見当もつかなかった。

 対照的にオロチの防御力に満足したヒミカの目に殺気が宿る。


「では、そろそろこちらからいかせてもらうぞ」


 ヒミカがそう言うと、オロチの赤い舌が鋭く伸びて悪路王あくろおうを襲った。

 オロチの舌は無限に伸びるのではないかと思われるほど長く伸び、さらにその速度は悪路王あくろおうが完全に避け切れないほど速かった。

 そしてその舌の切れ味は鋭利な刃物のようであり、連続で繰り出されるそれを避け切れない悪路王あくろおうの肩や脇腹は容赦なく削られていく。


「どうした! このまま一方的に終わりか? つまらんな」


 その言葉とは裏腹にヒミカは悦に入って圧倒的な力で悪路王あくろおうを攻めたてた。


「いいぞ。この力があれば私は再び大陸で成功を収められる」


 ヒミカは自分が手にした力の強大さに陶酔とうすいしていた。

 対照的に雷奈らいな焦燥しょうそう感にくちびるを噛む。

 このままではジリジリと追い詰められていくことは目に見えていた。

 もう悪路王あくろおうを使役していられるのは後3分もなく、かといって今よりも使役レートを落とせば悪路王あくろおうの力は弱まり、すぐにオロチにやられてしまうだろう。


(こうなったら……一か八かだ!)


 雷奈らいなは船の縁を蹴って海上に身を躍らせ、悪路王あくろおうの右肩に飛び乗ると、自分ごと悪路王あくろおうを上空高く跳躍させた。


「馬鹿め! 狙い撃ちだ!」


 上空から舞い降りる悪路王あくろおう目がけてオロチは再び舌を弾丸のように射出した。

 上空で必死に体を入れ替えこれを避けようとするも、オロチの舌は悪路王あくろおうの左ひじの上に深々と突き刺さった。

 すると落下の勢いも手伝って、悪路王あくろおうの左腕が串刺しにされたまま、そのひじからもぎ取られてしまう。

 思わず空中でバランスを崩す悪路王あくろおうの右肩を蹴って雷奈らいなは宙に身を投げ出した。


(許して。悪路王あくろおう。こうでもしないとアイツには届かない)


 海面に墜落する悪路王あくろおうを尻目に、雷奈らいなはそのまま空中で護符を握り締め、オロチの頭部に立つヒミカに襲いかかった。


「あんたは絶対に許さない!」


 そう叫んだ雷奈らいなの拳がヒミカの頭部に打ち下ろされようとする刹那、その背後から迫ったオロチの尾が雷奈らいなの体に叩きつけられた。


「きゃあっ!」


 バキッと体のどこかの骨が折れる音が聞こえ、あまりの衝撃に雷奈らいなは呼吸もままならないままに体勢を崩して海上に落下していく途中で気を失った。


「甘かったな。小娘」


 ヒミカは狩りが簡単すぎてつまらないといったふうに素っ気なくそう言った。

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