第13話 紫水の疑問 白雪の確信
魔界。
太陽の光を浴びて人間が暮らすその大地の地下奥深く。
人間界とは異界の扉で繋がっている近くて遠いその場所にその世界はあった。
広大な庭園の中にポツンとひとつだけ平屋建ての和風家屋が建っている。
庭を見渡せる畳敷きの和室では、白く輝く長い髪を薄紅色のかんざしでまとめ、同じ色の
この部族の長の一人娘である。
「ああ……
彼女が手にしているケータイの画面には隠し撮りしたものと思われる
彼女の部下である
数ヶ月前。
白雪が夢想にふけっていると、突如としてケータイが着信メロディーを発し始める。
お琴の音色で奏でられる美しい調べを聴きながら白雪は上機嫌で電話に出た。
「もしもし」
『姫さま。
電話の相手は人間界で
「
『……ぜ、善処します。ところで本日の定時報告ですが……』
努めて事務的な調子で自らの職務を全うしようとする
「ねえ
『は、はぁ……。い、いえ姫さま。そのようなことはございません』
「
白雪に調子を狂わされながら
『そ、そうですね。
「そうよね。絶対そうよね。でも、問題は転生よね」
部族の姫である白雪の結婚相手は同じ魔族でなければならないと一族の
魔族の血を薄めないためだ。
『我が部族に人間から転生した者が入ってきた記録はありませんからね。仮に
自分もその一人であることは告げずに
『それに
「そう。やっぱり生まれ持った体を捨てるのって勇気がいることよね。あ~あ。私の頭の中ではもう物語が出来上がってるのになぁ」
『物語……ですか。それはどのような?』
正直なところ内容はまったく聞きたくなかったが、白雪が話したくてたまらなさそうなので
「
『無論です。新たな生を与えるという秘宝・
「あれってロマンティックよね。種族を超えて愛し合う男女にぴったりの宝具だわ」
『そうでしょうか。私は好みません。使用方法が
人と妖魔の生を司る
霊能力のある人間が大豆ほどの大きさのそれを飲み込み、玉の霊力で己の体が満たされるのを見計らって相手の妖魔にその霊力を注入すると、妖魔は人に転生する。
逆に妖魔が玉を飲み込んで霊能力者の人間に魔力を注入すると、相手は妖魔に転生する。
古来よりそのような使われ方をしてきた由緒ある宝具であり、
相手に霊力を注入する方法。
それは
すなわち口づけなのだ。
それも自分の霊力を相手に送り込むため、
『そのようなこと、少なくとも嫁入り前の姫さまがなさることではございません。転生は従来の方法である手術によって行われるべきです』
電話の向こうの硬質な声に白雪は抗議の声を上げた。
「固い。
『固かろうが古かろうがダメなものはダメです』
白雪はわずかに声を潜めて尋ねた。
「
『なっ……わ、私は戦で身を立てたいのです! 男性との交際など
「そんなこと言ってると、いつの間にか年ばっかりとって後悔するわよ」
白雪のその様子にたまりかねて
『ふぅ。いいですか姫さま。
己の切なる願いを
「だったら私が人間に転生しちゃおうかしら。そしたら
『な、なんですと?』
白雪の突拍子もない話に
『な、なりません! お
「分かってるわよ。こんなことお父様たちに言ったら卒倒しちゃうものね。やっぱり
そう言って白雪が軽くため息をつくと、受話器の向こうから
『コホン。いいですか姫さま。
かつて
それゆえ部族の民からは歓迎の意を持たれていたが、それはあくまでも
面従腹背の冷たい視線を浴び続ける
だが、白雪はそうは思っていなかった。
「それは違うわよ。
『なぜです?』
確信めいた白雪の言葉の響きに不思議な感じを覚えて
「
白雪の話に受話器の向こうで
『そ、それは……』
「武器を持たずとも敵陣に踏み込む。心根の弱い者には出来ないことです。
そう言うと白雪はやはり手前勝手に電話を切った。
「さぁて。私も人間界に出向く準備をしないと」
ケータイを
そしてそこに映る恋する乙女の顔をじっくりと眺めながらつぶやいた。
「ああ。
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