第12話 ハイリスク・ハイリターン! ランクAの大仕事
一日が過ぎていく。
日は西に傾き、道ゆく人々の影を少しずつ伸ばし始めていた。
級友として同じ教室で半日過ごした二人だが、何となく喋りにくくてあまり多くは言葉を交わさなかった。
それでも二人共に並んで下校するその歩調は変わらない。
やがて重苦しい空気を嫌った
「何だか居心地悪いよな。そろそろ普通に喋らないか?」
「はぁ……今朝のこと、
「いや。言いたくないだろ?」
「そりゃそうよ。あんなの最低。死にたくなるわ」
そう言って眉間にシワを寄せる
「お、怒ってんのか?」
あんな姿を見られてしまい、
恐らく穴があったら入りたいくらいなのだろう。
だが
「あんたのことは怒ってない。
「……何やら珍しく殊勝な物言いだな。ま、あれだ。俺としては出来れば普通に話してもらいたいな。パートナーなんだし、意思疎通が出来ないと困る」
「私のあんな恥ずかしい姿を見ておいて普通に私と話そうっていうの? ふ~ん。あんたってそんな女慣れした奴だっけ?」
そう言うと
刃のように鋭い視線を向けてくる彼女に
「や、やっぱり怒ってんだろ?」
「ええ。怒ってるわ。私の頭をあんたの頭に100万回打ち付けて互いの記憶を消去できるなら、そうしたいくらい」
「お、おいおい」
「……冗談よ。普通に話してくれると助かるわ。変に気を
ようやくそこでわずかばかりの笑顔を見せた
「フゥ~! それでこそ
「香桃さんには私から相談するわ。あんたは黙ってて」
「了解。それでいこう」
そう言うと
そこからは二人で今後の霊力分与の対応についてひとしきり話しながら地下鉄と徒歩で移動を続け、30分ほどで二人は東京の古書店街にある『
入口の扉をノックすると、引き戸がガラリと開いて中から小学生くらいの女の子が一人、姿を現した。
東南アジア系の浅黒い肌を持つ黒髪の少女だった。
「時間通りネ。二人とも」
少女はその黒い瞳で高校の制服姿の二人を見ると、朗らかな笑みをたたえてそう告げた。
「よう。ルイラン。配達の仕事がんばってるか?」
「もちろんネ。ルイラン超がんばってるヨ」
「元気そうね。ルイラン」
ルイランは
「
そう言って
「ありがと。でもそんなことしたら鼻血が止まらなくなるくらい顔面パンチしてあげるわよ」
その迫力にルイランは思わず
「じ、児童に空手パンチとか
「アタシの倍も生きてるくせに何言ってるの。ほら。さっさとお茶でも
そう言うと
ルイランは
「
「強いのは確かだが断じて嫁じゃねえよ。カンベンしてくれ」
決して
そこはこぢんまりとした応接スペースで、店の主人である
「こんにちは。
「お世話になってます。
そう言って頭を下げる二人に
彼女の切れ長の目は何も見ていないようにも何かをじっくりと見ているようにも見える不思議な色をたたえていると
一方、
現在の家であるバスハウスに住む前は
「さて、猿の一件はご苦労だったね。つつがなく処理してくれて安心したよ。コンビを組んでからこの一ヶ月足らずの間に二人が処理した案件はこれで12件。新人としちゃ、なかなかいいペースだ。そろそろ慣れた頃合だろう。次は報酬ランクの高い仕事を頼みたい」
「ありがとうございます。Cランクですか?」
彼らがこれまで主にこなしてきた仕事はD~Eランクであり、報酬はそれほど高くない。
二人でさばける依頼件数には限りがあるため、出来れば高ランクの仕事で効率よく稼ぎたいところだった。
だが、
「Aだよ」
あっさりとそう言う
「Aですって? 私たちに?」
Aランクとは報酬100万イービル、またはそれに準ずる報酬の大仕事を意味する。
その一件の報酬だけで、二人が今のペースで稼げるおよそ一ヶ月分もの収入になる。
まだ駆け出しの
信じられないといった顔をする
「警視庁からの仕事依頼だよ。受けるかい?」
少し考え込むような顔をしていた
「
「ああ。そうさ」
そう言うと
彼女の美しい金色の髪がはらりとその胸の上に落ちる。
「妖魔の密入国が年々増えていてね。警察の妖魔対策課も手を焼いているらしい」
正式に入国許可を受けることなく不正な手段を用いて上陸する妖魔らは後を断たない。
彼らの多くは他国で命の危険にさらされて安住の地を求めてやってくる者や犯罪行為を
「密航者の取り締まりに当たっている警察幹部からの情報でね。密航者の情報を得て現場に駆けつけるも空振りに終わるケースが増えているらしい。どうも警察内部の情報が外部に漏れているようなんだ」
その話に
「内通者がいるってことですね」
「そういうことだね」
そこまで聞くと
「それを
だが、
「いや。それはこっちで処理する。おまえ達に依頼したいのは、その内通者から情報を得て密航の手引きをしている側の黒幕を仕留めることだ」
「なるほど。あまり有名な仕事屋に依頼すれば目立ちますからね。俺達みたいな無名の駆け出しのほうが動きやすい。まあ、警察内部のことなんて俺達に手出しできるわけないですし、掃除屋仕事のほうが性に合ってますよ」
そう言う
「ただし、掃除屋仕事と言ってもAランクだ。それだけ
穏やかな口調でそう言う
「いえ。やります!」
「
考えもなしに依頼を受けるものではないが、返答に詰まってしまえば自信がないと思われる。
この業界では即決即断も必要なスキルのひとつだった。
「分かりました。お受けします。ただ、2日間ほど準備期間をいただけますか? こちらとしてもありがたいお話ですが、慎重に対応したい。それに今夜は数日前に依頼してもらった港湾火災の案件がありますから」
「ああ。あれはちょうど今夜だったね」
そう言うと
「分かった。ではこちらの件は3日後から開始してくれ」
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