天然少女と強情少女 side郁



私の親友たちは些か鈍感だ。

鈍感というより天然気質な者と素直でない者の併せて二人といったところだ。


普段の何気ない日常を観察すれば、勘の鋭い者なら二人が恋をしているのだということは明確だろう。


それは数日前の放課後に遡る。

私達は駅前にあるケーキ屋に寄る約束をしていた時の話だ。



———————————————



長かった授業も終え、ようやく待ち遠しかった放課後がやってきた。



「今日は遂にケーキ屋ね!」

「ああ、昨日から楽しみにしていた」

「わたしもどきどき!」



美久の言葉にそう返事をすると、詩春も嬉しそうに同調した。



「そうと決まればさっさと行くわよー!」



気合いの入った美久を先頭に三人揃って昇降口を出ると、



「あれ?水瀬さん」

「ふっ、藤永さん?!」



詩春と仲の良い上級生が現れた。



「オレもいるよ〜」



加えてふにゃふにゃしたフェミニストと呼ばれている上級生も一緒にだ。



「今から帰り?」

「はい…」

「えー、オレも帰りたい」

「お前は図書委員だろ。付き合ってやるんだからしっかりしろよな」



そんな会話が聞こえてくる中、美久はやたらとニヤニヤしている。



「なんか詩春ってば嬉しそうというか顔を真っ赤にして可愛いこと〜」



その発言通り、詩春は終始慌てた様子で顔を赤くしたり目をキョロキョロとさせたり、些か不審な動きをしていた。



「そういう美久だって神宮寺と一緒にいる時は同じように挙動不審だぞ?」



しかし私としてはそんな行動をしているのは詩春だけではない。そう思って突っ込むと、



「あっ、あたしはそんなこ「美久ー」



美久が反論しかけて、それを何やら聞き覚えのある声が遮って聞こえてきた。



「きょ、恭弥……」



顔を上げてみればそこにいたのは神宮寺だった。



「これからケーキ屋行くんだってな」

「なっ、何であんたが知ってんのよ」

「今日話してんの聞こえてたぞ」

「盗み聞きなんてタチ悪いわよ!」

「ははっ、食い過ぎて太んなよー?」

「余計なお世話よ!!」



こんな会話が繰り広げられ、口では喧嘩しているようだが二人の表情を見ればとても嬉しそうで楽しそうだ。



「全く……」



二人から少し離れたベンチに腰を下ろしてスケッチブックを広げると、昨日まで描き途中だった絵に目をおとした。



「二人して…まるで乙女の顔だ」



それから私達が門を出たのは十分と少し経ってからだった。



———————————————



今思い出しても微笑ましい。


まぁ、なんだかんだあっても双方鈍感同士と素直になれない同士なので進展はないようだが…。


そんなことを考えながら体育の授業が終わって教室に向かっていると、詩春が何やら相談をしてきた。



「心臓が速いなって……」



それに異議を申し立てた美久だが、ここ最近の不自然さから詩春の言いたいことがわかった気がする。



「もう一つ、心臓が速くなる時があるぞ」



そう思って意地悪に言えば、詩春は興味津々に私の顔を覗き込んだ。



「それは……恋をしている時だ」



そう答えれば、詩春は目を丸くしてきょとんとしたかと思うと一時停止をした。

そこに何故か美久が反論してくる。



「別に私は美久とは言ってないぞ?

それより早く教室に戻らないとお昼休みが終わってしまう」



そう言って小走りで校舎に向かう。

何やら後ろで二人の声が聞こえるが、私は数分前の出来事に思いを馳せた。



『心臓がドキドキするの…』

『あたしは恋じゃないわよ!』



二人から発せられた言葉に思わず苦笑してしまう。何故なら二人の顔が驚く程に赤かったからだ。


そんな姿を見て思わず、



「……いいものだな」



私の本音が漏れてしまった。



「あっ、郁ちゃん!待ってよ〜」

「郁!待ちなさい!」



幸い付いてきている二人には聞こえていなかったようだ。



「ああ、わかった」



私自身、恋をしたことがないわけではない。けれど二人のように自覚しているか否かに関わらず、キラキラと可愛く輝いている姿には憧れる。



「応援させてもらうか……」



決して自分がそんなキャラではないことは承知している為、なりたいかと聞かれるとそれよりは応援する立場にいたい。


そんな気持ちになったのは、目の前の二人と出逢ったからだろう。


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