始まりはここから



「にしても…。もう入学して三ヶ月か。

学校には慣れてきたか?」

「はい!それなりに、ですけど…」



瀬戸内先生と昇降口を出て校門まで歩く。遠くで生徒達が騒いでる声が聞こえてくる。



「そういえば水瀬は部活は入らなかったのか…」

「これといって何か特技があるわけでもなくて…。だから本が好きなので図書委員会に入りました」

「特技、かぁ。そんなもん気にしないでいいんだけどな。まぁ俺は真面目な水瀬が図書委員に入ってくれて良かったよ」

「嬉しいですけど…。それって額面通りに受け取っていいんですか?」

「おぉ、流石は水瀬」

「……ということはつまり」

「俺が楽出来るってことだ」

「…やっぱり」



そんな風に笑いながら話をしているとあっという間に校門に着いた。



「じゃあ、気をつけて帰れよ」

「はい!ありがとうございました!」

「おう、また明日な〜」

「はい、また明日。さようなら!」



先生と別れて、駅に向かう。いつも帰る時間より少し遅い為、きっと妹の方が早く帰っているのだろう。

そんなことを考えて歩いていると後ろから小走りで近寄って来る音が聞こえた。



「水瀬さんっ…」

「ふ、藤永さん…?!」



それはどうやら藤永さんだったらしく、意外な登場にわたしは声が裏返ってしまった。



「どうしてもちゃんと謝りたくて…。

せっかくだから家まで送るよ」

「えっ、本当に平気ですよ!」

「俺が一緒に帰りたいんです。

今日から水曜日の放課後は一緒に仕事をするんですからお互いの事は知ってた方が何かといいでしょうし…」

「で、でも…」

「それとも、俺なんかと一緒は嫌ですか?」

「め、滅相もないです!」

「なら、是非」



一瞬、彼が意地悪に笑ったように見えたのは気のせいだろうか?



「で、ではお言葉に甘えて…」



————————————————……



「へ〜、水瀬さんってあの生徒会長の妹さんなんだ」

「はい。兄とは学科も違いますけどね」

「俺の兄貴と同じ歳かぁ…」



たわいのない話をしながら駅に向かって歩く。



「藤永さんはお兄さんがいるんですね」

「兄がいるのも苦労しますよね」

「ふふ、わかります。藤永さんのお兄さんはどんな方なんですか?」

「んー、穏やか…だけどふわっとしすぎて困ってますよ。水瀬さんのお兄さんは?」

「本当に過保護の一言です…。両親が海外に住んでいるのでわたしやトモちゃんに対して過剰な心配性をこじらせていて…」



思わず苦笑いが出てしまう。



「ははっ、頭の良いイメージしかなかったけどそんな一面もあるんですね」

「昔から頼りになる兄なんですけど…」

「ふと疑問に思ったのですがさっき言っていたトモちゃんって誰のことなんですか?」

「あ、それはわたしの…「お姉ちゃん!!」



私の言葉を遮って聞こえる声。



「トモちゃん!」



声のする方を見ると私に駆け寄ってくる妹のトモちゃんがいた。



「お姉ちゃん!」

「……お姉ちゃん?」

「あ!こちらが妹の冬香です」

「………誰。この人」



藤永さんに向かって紹介をすると何故かトモちゃんの表情が険しくなる。



「あっ、えっと…」

「俺は水瀬さんと同じ学校に通ってる二年の藤永です」



わたしの困惑をよそに藤永さんが丁寧に挨拶を始める。



「何で一緒に帰ってるんですか?」



それなのに何故か藤永さんをキッと睨んだまま噛みつくトモちゃん。どうしたのかな?



「今日は図書委員のお仕事があって…。

それで偶然当番が一緒だったから帰りに送ってもらったんだよ?」



トモちゃんの怒りの原因はわからないけど、このまま険悪な雰囲気は良くないだろうと笑いかけた。



「お姉ちゃんには聞いてない!!」

「え〜、何でそんな怒ってるの?」

「お姉ちゃんが鈍感だからでしょ!」



(……鈍感?)



そんなことを考えていたら舌打ちとともにわたしの頰を思い切り引っ張った。



「い、いひゃいよ〜」

「じゃあ、私達はこのまま帰りますので。

貴方もお気をつけてお帰り下さい」

「えっ、あ…」



行くよ、という声とともに腕を引かれる。



「ちょっとトモちゃん!」

「はいはい。お兄ちゃんも夕食待ってるはずだから早く帰るよー」

「藤永さん!今日はありがとうございました!

また図書委員の時によろしくお願いします…」

「あっ、はい!こちらこそ…」



ポカンとした藤永さんを残し、わたしはトモちゃんにホールドされたまま家に連れて帰られた。


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