蘇る本能 #16
数秒後、『もしもし?』と言う相手の声で叶は我に返った。
「随分詳しいな、オレのファンなのはありがたいが、この電話番号を
やや上擦った声で叶が訊き返すと、相手は声のトーンを少し上げて答えた。
『あぁそれは、昨日私の部下が貴方に大変お世話になりましてね』
叶の脳裏に、あの二人組の姿が浮かんだ。
「あー、アンタあの凸凹コンビのボスか。一体何者だ?」
『申し遅れました、私、『
金貸しと聞いて、叶は坂巻の部屋で見た書類やメールを思い返したが、『鳳金融』という名前を見た覚えは無かった。
少し考えて、叶は直球をぶつけた。
「ほぉ、アンタの所は
『いやいや、それは別の事情がありまして』
笑いを交えてはぐらかしてから、薩摩が改めて切り出した。
『所で叶さん、私は是非貴方にお会いしたいのですが』
「何?」
またも予想外の
「オイ、まさかオレにサイン書かせてネットオークションにでもかけるつもりか? はした金にもならんぞ」
『いえいえ、単純にいち格闘技ファンとしてお会いしたいだけですよ。それに私の方でも大変面白いお話を用意しておりまして、是非ともお聞かせしたいと思っております』
「面白い話? 何だそれは」
『さすがに電話ではちょっと……』
言葉を濁す薩摩に不審を覚えたが、叶は誘いに乗る事にした。
「OK、招待を受けようじゃないか。いつ何処に行けばいい?」
『そうですか、それはありがたい。では、本日の午後五時に迎えの車をそちらに遣りますので、事務所の前でお待ちください』
「判った」
『では失礼致します』
薩摩が
「『鳳金融』の薩摩、か」
独りごちると、叶は居住スペースへ移った。
仮眠を終えて身支度を整えた叶が、『カメリア』の出入口の脇に立って往来を眺めていると、彼方から黒塗りのメルセデス・ベンツCクラスが近づいて来て、叶の前で停まった。運転席から出て来たのは、クリーム色のダブルスーツを着て髪を茶色に染めた若い男だった。叶を認めると申し訳程度に
「叶さん、ですね? お迎えに上がりました」
と告げた。叶が無言で頷くと、男は車の後ろから回り込んで、後部座席のドアを開けた。
「どうぞ」
促されるまま、叶が車に乗り込もうとした時、背後で扉の開く音がして、直後に「ともちん?」と桃子の声がかかった。叶は溜息混じりに振り返り、心配そうな顔の桃子と対面した。
「何処行くの? まさか危ない所じゃないわよね?」
「大丈夫、ちょっと招待を受けただけだよ」
叶が微笑しつつ返すと、桃子は表情を変えずに言った。
「気をつけてね。必ず帰って来てね」
「OK。じゃ、行って来る」
右手を挙げて告げると、叶は後部座席に入った。男の手でドアが閉められると、不安そうに
男が運転席に戻り、すぐにベンツを発進させた。叶が肩越しに振り返ると、まだ桃子がこちらを見つめていた。
《続く》
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