お姉さまになろう①

 たつみ千歌流ちかる、16歳。

 秋芳しゅうほう女学園1年生で、生徒会書記兼風紀委員の彼女は、ストレートの長髪と、猫っぽいツリ目が可愛い、小柄の美少女。


 そんな後輩が、生徒会室にて季紗きさと、学園祭の反省会をしていた。


「ごめんね、千歌流ちゃん。うちのクラスのメイド喫茶、手伝ってもらっちゃって」


 クラスの出し物の写真……友達たちがメイドさんな写真を見て、にこにこな季紗へ。

 千歌流はこの前の学園祭を思い出し、かぁぁっと赤くなる。


「そ、その、私、初体験で……。恥ずかしかったけど、でも気持ち良かったです……♪」


「メイド体験の話だよね?」


 アルバイトをやってない千歌流にとって、接客業は初めて。

 でも、お客様をもてなすのは悪い気分じゃなかった。


「それより副会長! 副会長が本物のメイド喫茶でバイトしてるって話! あれは本当ですか!?」


 瞳がキラキラするのを自覚しつつ、千歌流は質問。

 うぐ、と言葉を詰まらせる季紗の手を握って、


「み、見たいです、先輩のメイド姿♪ 学園祭だとちょっとしか見られなかったし……」


「えと、その……。わ、私のバイト姿なんて、そんなたいしたものじゃないよ?」


 目を泳がせる季紗だけど、千歌流の追及は止まない。


「素敵です東宮ひがしみや先輩は! 学業優秀で生徒会に風紀委員長までしながら、バイトの時間も作る行動力を尊敬します! そんな先輩のお姿を近くで見て勉強したいっていうか『お嬢様♪』って呼んで可愛がってほしいです! ってあわわ心の声が!?」


 要約すると、憧れの季紗のメイド姿をもっと見たい。

 あわよくば「ふふ、お嬢様? ほっぺたにクリーム着いてますわ。ハンカチで拭き拭き♪」とかしてほしい……という千歌流の欲望。


「こ、これは社会勉強なんです!? 下心なんて無くてですね、私、副会長を尊敬してますので! 憧れの人が、どんなバイトしてるのか興味がありましてですね!?」


 千歌流にもツンデレの素質?

 素直じゃない言い訳しつつ、先輩のお店行ってみたいアピールする少女へ。


 季紗は少し考え込む。


「……千歌流ちゃん、素質有りそうだし。由理ゆーりだってお義母かあさんにさらけ出したのだもの、私も、勇気出してみようかな……?」


「先輩……?」


 何やら思案顔でつぶやいてる季紗の手を、千歌流握ったまま。


(わぁ、先輩の手、すべすべ……♪)


 なんて興奮していると。


「……ねえ、千歌流ちゃん。女の子同士って、どう思う?」


 恥ずかしそうな季紗に、そんなことを聞かれた。


「女の子同士、ですか。それって、どういう……」


 質問の意図が分からず首を傾げる千歌流。

 季紗は羞じらいを深くしながら、


「だ、だからね。その、お、女の子同士でこう手を握ったり……キ、キスしたり。千歌流ちゃんは、有りだと思う?」


 チラチラこちらをうかがう季紗の表情。

 微かな期待を込めた視線を受けて。


 千歌流の頬が、だんだん赤くなる。


(こ、こ、これってまさか……告白!?)


「あ、有りですっ! もちろん有りですよ先輩! 女の子同士でも愛が有れば問題無いって言うか……」


 季紗の手を握る指に力を込めて、グイグイ詰め寄る。

 脳内では季紗との結婚式に初夜まで済ませた妄想済み!


「こ、子供は何人欲しいですか!? マイホームはやっぱり、陽のよく当たる家が良いですよね♪」


「ごめん、千歌流ちゃんが何を言ってるのかよく分からないけど……」


 今度うちのお店見学するってことでOK?とたずねる季紗へ、勢いよく頷きながら千歌流は。


(お、お姉さまがメイド! メイド姿で私にご奉仕……!? ど、どうしよう頭撫でてくれたり、してくれるのかな!? そ、それどころか……)


 「また来てくださいね、お嬢様?」って額にキスしてくれたり……いやいや、メイド喫茶だからってそんなお店あるわけない……ああっでも!と、色々妄想して、期待に、平らかな胸を膨らませるのだった。


 ※ ※ ※


 そして、日曜日。

 精いっぱいおめかしして、「リトル・ガーデン」へご来店の千歌流は。


「……ちゅっ♪ んむぅ、ぐちゅ♪ 由理お姉さま、今日も円美まるみにいっぱい、口移ししてくださいね♪」


「ぐぷっ、ちゅぶぬ。は、はい、お嬢様がお望みでしたら……は、恥ずかしいですけど♪」


「だ、だめぇ、るんちゃん♪ 胸ばっかり揉まないでぇ♪」


「だってリズさんの乳触らないと、一週間が始まらないんだもん! すりすり♪」


 そんな百合世界を目撃して、叫んだ。


「ふ、ふーぞくだ、これぇぇぇぇぇぇ!?」

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