百合キスは世代(とき)を越えて 終

「はい、リズさん。お皿、持ってきたよ」


「ありがと、由理ゆーり。……ちゅっ♪」


 OG会から一夜明けた、百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」。

 通常営業、なのだけど。


「もう、リズさんたら。ちゅ♪ ちゅぷぅ、ちゅぷ……♪」


「ふふ♪ ちゅ……ちゅぅ♪ ちゅちゅぷっ♪」


 メイド服姿で、数分に1回百合キスする由理とリズ。

 季紗きさ美緒奈みおな、そして常連の女の子達がぽかーんと見てる。


「ど、どうしたのかな、2人とも。なんか、いつもと違う……?」


 ※ ※ ※


 リズが来年の春、イギリスに帰ること。

 季紗や美緒奈にも、ちゃんと話すと、リズは約束した。


「私ね、遥香はるかさんの夢……世界中に百合メイド喫茶を作るっていう夢を、手伝いたいの」


 昨夜ゆうべ、ベッドの上で、裸で指を絡めあいながら。リズは由理へ語った。


「私達のお母様は、別れ別れのままになっちゃったけど……。いっぱい百合キスしたのは、素敵な想い出だって、私は信じてる。だから、世界中の女の子に……百合キスの素晴らしさを伝えていきたいなって」


 金色の髪の百合天使は、真剣な顔で。


「……だから、あのね。由理にも、みんなにも……寂しい想い、させちゃうけど……」


 その言葉を、今度は由理の方から。

 甘いキスで、塞いだ。


「……いいよ、もう。ちゃんと、分かってるから」


 百合キスは、なんでも伝えてくれる。


「でもね、月に帰るわけじゃなし、夏休みくらいは……会いに来てほしいな。私も、がんばってイギリス、行くし」


「……うん♪」


 ……ちゅっ♪

 キスで繋いだ、唾液の糸。百合の絆は切れないと確かめて、少女達は笑い合った。


 ※ ※ ※


「ちゅぅぅ♪ ちゅぅ……ちゅ♪」


 なんだかラブラブな雰囲気出してる由理とリズの姿に、


「むぅぅー……」


 赤毛ツインテールのロリメイド美緒奈、面白くない顔。


「こ、こらー由理! 営業中に、みんなのリズねえを独占してんじゃねー!」


 由理の腕を引いて、リズから剥がしてから。

 キスして欲しそうな顔で、おずおずと。


「き、昨日は由理とはあんまりしてないし? 可哀想だから、美緒奈様がしてやんよ。百合キスに、飢えてるなら」


「……いいの?」


 ここで美緒奈にとっては意外な反応。

 由理ったら頬を染めて、美緒奈の頬に触れてきた。


「私ね、百合キス大好きだって……やっと、自分でも分かった。だから、美緒奈とも、すごく、したい……かな」


「ふ、ふぇぇぇ……?」


 そのまま、ちゅぷぅぅぅ。

 初めてのような、由理からの積極的舌挿れ百合キス。


「……ちゅぅぅ♪ るぷっ、んぅ……ちゅぅぅ♪ 美緒奈って、可愛いね……。ちゅ♪」


 今まで、される側がほとんどだった百合キス。

 自分からする百合キスは甘酸っぱくて、こそばゆくて……由理の胸はドキドキした。


「ちゅぅぅ!? んく、ふぅぅ……♪ ば、ばか由理、そんなキスされたらっ……!?」


 美緒奈、死んじゃいそうに顔真っ赤にして、小声で。


「こ、恋しちゃう、ってばぁ……ごにょごにょ」


 キスに夢中の由理には聞こえず。

 いっぱい、美緒奈の唾液……甘い蜜を貪った。


「ん。リズさんのとも、違う味。でも、美味しいかも……?」


 照れ照れと赤くなる由理に対して、美緒奈はぽしゅーと顔中から蒸気出して昇天だ。


「ゆ、由理っ。もしかして、やっとレズに目覚めたのね……♪」


 清楚なお嬢様の見た目でレズ乙女な季紗が、すっごく嬉しそう。

 私ともキスしようよ♪と頬を染める彼女へ、由理は恥ずかしがりながら。


「……うん。もう私、レズでいいよ」


 とうとう認めた。


「だから、そのぉ……もっとキスしたいっていうか。も、元はといえば季紗が、この道に引きずり込んだんだから? ちゃんと、責任取れ、ばか」


 そして……ちゅぅぅ。

 百合娘にされた責任を取らせるべく、季紗に濃厚接吻する由理。


(美味しい……季紗の唇は、爽やかな味かな)


 気付かなかった。

 百合キスの味は、みんなそれぞれ違う味で……みんな美味しい。


「……ちゅぅぅ♪ んっ、ふぅぅ……っ♪ な、なんだか、嬉しいよぅ♪ やっと、由理と本当の仲間になれた気がする……♪」


「ちゅ……♪ ちゅぷ、んん……♪ 好きぃ、百合キス、好きぃ……♪ これからも、いっぱい百合キス、教えてね? ちゅぷぅぅ……♪」


 季紗と、もう1回美緒奈と、もう1回季紗と、そして常連のお嬢様たちと。

 ちゅっちゅちゅっちゅ、ちゅっちゅちゅっちゅと唇を重ねる由理。


「ふふ……♪」


 妹の成長を見守るシスコンお姉さまな表情のリズと、また愛しげに舌を絡めて。


「……ねえ、リズさん」


「ちゅぅ……っ。なぁに、由理?」


 口づけ。乙女同士の、優しく甘いキス。


「私ね……リズさんみたいに、キスで気持ちを伝えられる人に、なりたい」


 いつか離れ離れになるとしても。

 きっと、この唇の温度は忘れない。


 芽生えた憧れを胸に、由理は。

 来年の春まで、たくさんの絆と思い出を、百合キスで築こうと誓うのだった。

 百合キスで。

 とにかく百合キスで。


《「百合キスは世代を越えて」編 終了》

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