プール開き編⑩ 一度きりの、夏へ。
初夏の学園、セミの声が聞こえるプール。
デッキブラシを手に、水着姿でお掃除に勤しむ女子高生たちを目に、
「女の子の水着……いい♪」
ぽたぽた垂れる鼻血を抑えていた。
「季紗はともかく、リズさんに美緒奈まで……。プール汚さないでくれません?」
掃除してるところに鼻血垂らされては困るのである。
「し、しかたねーだろ!? プールで水着でキャッキャウフフなんだぞ! これで反応しなかったらノンケじゃねーか!」
むしろなんで由理は鼻血出さないのさー!?と美緒奈に聞かれて。
「いや、私はノンケ……」
そう言おうとして、由理は固まる。
「ノンケ、なんだけど……」
けど。
清楚なお嬢様然とした立ち振る舞いなのに、出るトコロは出た、ロングヘアーの季紗。
金髪に陽光がまぶしく、水着が破裂寸前の風船のように伸びきってるわがままボディのリズ。
ツインテールにスクール水着姿がロリロリしい美緒奈。
3人の水着姿に、つい、眼が……。
「……けど?」
リズに首を傾げられて由理動揺。
「うわぁぁぁしてないしてないドキドキなんてしてません!? 水着が気になったりなんかしてませんてば!?」
クラスメート達はともかく、唇も重ねた関係の3人の水着は、由理にとっても刺激的で。
自分も鼻腔の奥が熱くなるのを、由理は必死にごまかした。
と、清掃そっちのけで水を掛け合い遊んでる少女達の声が、耳に入る。
「きゃっ、冷たーい♪」
「あっ、やったなー?」
プール清掃の、風物詩である。
少女達がじゃれ合う風景に、リズがにこにこ。
「和むわねぇ……」
「いや、いちおう学校行事なんで。遊んでないで、ちゃんとやらないと……」
注意しようかな、とか考える真面目人間な由理。
その腕を、季紗が引き止めた。
「ふふ、いいのよ。私は、皆が楽しんでくれればと思って、プール掃除を2年生で引き受けたんだから」
「え、水着見たかっただけじゃないの?」
水を抜いたプールの中で、由理は驚いた。
エロ乙女季紗が皆の水着とか裸を見たいから、プール清掃引き受けたのだと……それ以外の可能性はまったく考えてなかった。
「むぅ、ひどいなぁ。私、副生徒会長だよ? 自分の欲望だけで皆を巻き込んだりしないよ」
長い
夜空色の瞳に、どこか昔を思い出すような光を浮かべて。
「ほら、さっき話したでしょ。私は、中学の時、いい思い出があまり無いから」
水着の胸に手を当てて、
「あんな思いするのは、私だけで充分。その分もね、クラスの皆には素敵な思い出をたくさん作ってあげたいんだ」
だから、遊んでても、真剣にプール掃除するのでも、どちらでもいいの。
皆の、思い出に残ってさえくれれば。
そう季紗は微笑んだ。
「だから硬いコト言いっこなし。由理も、眉間にしわ寄せちゃダメだよ?」
つん、と指先で由理の額に触れて。
「ね、楽しい思い出を作ろ? この、17歳の夏は、一度きりなんだから」
ウインクする季紗の顔は……とっても、委員長の顔をしていた。
清純で、知的で……根は真っ直ぐな、お嬢様。
クラス委員にして生徒会副会長、
(……やば)
きゅんと来た。
(季紗に……キスしたく、なっちゃった)
「って私は何をぉぉぉぉぉぉぉ!?」
違う違う違うときめいてないし私はノンケだぁぁーッ!と頭を抱えて咆哮!
心頭滅却心頭滅却心頭滅却!
「そ、掃除! プール掃除するよ!! それはもう心の中までピッカピカになるくらいブラシ掛けるよ!?」
「ふふ、由理が燃えてるわね。私も負けないよ♪」
ブラシを手にダッシュする由理と季紗。
仲良く触れ合う水着の肩が遠ざかるのを見守りながら、
「あらあら、青春って感じね……♪」
リズはお姉さんらしく微笑んで、
「なぁんか、あたし達のけ者だし。由理のばかっ」
美緒奈は面白くなさそうに唇を尖らせるのだった。
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