天使の看病編④ ご奉仕はやっぱりメイド服。

 リズと美緒奈みおな、メイド服を着た。


「ふふ、やっぱりこの衣装の方が、看病らしいわよね。由理ゆーりお嬢様、私達が愛を込めて、ご奉仕しますわ♪」


 おでこにチュッ。

 ベッドから上半身起こしたパジャマ姿の由理を、風邪の発熱とは別に赤くさせる。


 「リトル・ガーデン」の由理の部屋、時刻はお昼時。

 そろそろ腹の虫が騒ぎ出す頃合い。


「由理ちゃん、お腹空いてない? なにか食べたいものあるかしら」


 お姉さんらしく優しく聞くリズ。

 その隣で美緒奈みおなが、ぽっと頬を染めて自分の肩を抱く。


「あ、あたしを食べたいっていうのは無しだかんな。このエロス!」

「何も言ってないよね私!?」


 理不尽な言われように抗議する由理だけど、なぜか美緒奈はつまらそうに、「美緒奈様を食べちゃいたいって言えよ……この鈍感」的な膨れ顔を見せる。

 食べられたいらしい。


 それに気付かず腹ぺこ由理、リズへリクエスト。

 お腹が空っぽだ。


「お肉。……お肉食べたいです」


 から揚げとか、ハンバーグとか。

 とにかく肉汁が欲しい気分なのです。


「あら、意外と肉食? でも……病人にお肉ってどうなのかしら」

 

 可愛らしく唇にひとさし指を当て、考え込む仕草のリズ。

 両手の指で×(ばってん)を作り、由理のリクエストを却下する。


「うん、脂っこいのは、風邪が治ったらにしましょうね。今日のお昼はおかゆに決定です!」


 えー、と不満の声を上げる由理。でも、リズも譲りません。


「だーめ、お姉さまのいうコトは絶対です! ふふ、愛情たっぷりミルク粥を用意するからね」

「ミルク粥……」

「……ミルク粥、かぁ」


 由理と美緒奈の視線が、リズの豊かな乳へ集まった。


「ぼ、母乳は入れませんっ!?」


 胸を隠された。

 ……栄養有りそうなのに。

 リズさんのぷるぷるお胸にたっぷり詰まった濃厚ミルクは、ノンケの由理でもちゅぱちゅぱ飲んでみたいと思うほど美味しそうなのです。


 と、ここで美緒奈が挙手。


「お粥なら、あたしに任せて。実はさ、作るつもりで材料持って来てるんだー♪」

「……美緒奈が?」


 チ○ンラーメンを得意料理とのたまう美緒奈が? お粥を作るですと?

 期待の全くこもらない瞳で由理は見つめるが、


「な、なにさその眼はっ。せっかく美緒奈様が、元気になりそうな料理考えてきたってのに!? 美味すぎてあたしに惚れても結婚してやらねーぞ!?」


 謎の自信を見せる美緒奈、勝算あるらしい。


「病気の時こそ、刺激がねーとな。美緒奈様特製のピリ辛お粥で元気にしてやんよ☆」


 だいじょうぶかしら?と首を傾げるリズへ、


「あ、リズ姉、調味料借りるね。タバスコと、唐辛子と、キムチとコチュジャンと、とにかく辛いの全部使うから♪」

「待って、もうオチが見えたよ!」


 地獄の予感に恐怖する由理だけど、愛情料理を甲斐甲斐しく作るあたしマジお嫁さん♪気分でウキウキな美緒奈の耳には、なにを言っても届かないのでした。


 ※ ※ ※


 そして、出来上がった料理がこちらになりまーす。


「……これはマグマですか?」


 鼻が焼け付きそうな刺激臭を放つ、食器に盛られた赤い物体を前に……由理は、短い人生だったな、と回想する。

 地獄の釜のように、ごぽごぽ沸騰、泡を立てる真紅のドロドロ。数千度はありそうだ。

 様々な辛み調味料と、美緒奈の料理の腕と、宇宙の悪意的謎の要素が奇跡の融合を果たし爆誕した、赤い何か。

 とりあえず食べ物としては、人類には早すぎる物体。


「えへへ、『ちょっぴり』辛いけど、美味いぜこれは。熱いから、気を付けろよな♪」

「き、気を付けるべきは熱さなのかしら。命の危険を感じるけど……?」


 リズも、美緒奈特製「ピリ辛」お粥を覗き込み、ごくりと息を飲む。


「もー、だいじょうぶだってば。あたし、ちゃんと味見したもん。リズ姉も、食べてみる?」


 ちなみにこの百合メイド喫茶では当たり前すぎて特に解説しないが、もちろん口移しである。

 スプーンにマグマをよそって、小さな口に入れる美緒奈。

 んー♪とリズへ向かって目を閉じキス待ちのお顔。


「……百合キスに気が進まないのって、私、産まれて初めてかも」


 でも、由理ちゃんに変なの食べさせられないし……と、慈愛の心で決死の試食。


「……ちゅぅ♪」


 そして、甘くない百合キスの結果は。


「辛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 リズ=ノースフィールド、英国生まれの18歳。

 極東、日本の地にて、永遠の眠りにつく。

 金髪巨乳美少女の無垢な魂を天国へ召すべく、天使たちが降りてきて……。


「リズさんが逝ったぁぁぁぁー!?」


 倒れたリズに悲鳴を上げる由理。美緒奈はぽっと頬を染めて、


「リズ姉ってば、倒れちゃうなんて感激し過ぎ☆ そんなに美味しかったんだ♪」

「いやいやいやリズさん辛いって叫んでたでしょうが!?」

「えー、違うよリズ姉イギリス人だし、きっと英語で『美味しい』って叫んだんだよあれは♪ なんたって美緒奈様の手料理だもんな♪」


 あんた自己評価高過ぎぃー!と美緒奈へツッコみながら、


「日本語だよ! 日本語で『辛い』ってリズさん明らかに言ってたよ!?」

「むぅー、そりゃ、ちょっとは辛いかもだけどぉ……」


 美緒奈、可愛らしく拗ねてみせて、潤んだ瞳で由理を見つめて。


「……辛い方が、元気出るだろ。あたしは、ただ由理に……」


 元気になって欲しいの。そんな真心のこもった瞳を向けられて、由理の頬も灼熱する。


「い、いやでもこれは……。私、マグマは食べられないよ……」

「ば、ばか。美緒奈様の愛情がたっぷり詰まったお粥を食わねーとか、許さないかんね? ほら、由理にも口移ししてやっから……」


 ドキドキ羞じらい顔で、ちゅぱぁっとお粥を唇に含み、由理へ迫る。

 赤いツインテールのロリロリ天使による、魅惑の口移し……ただしお口の中は激辛。


「い、いや……」


 涙目で首を振り、ベッドの上を後ずさる由理だけど。

 キスしたい美緒奈の愛に捕まりました。


「……ちゅぷぅぅ♪」


 西城さいじょう由理、17歳の女子高生。

 死因、百合キス。

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