天使の看病編② 経口補水のすすめ

「ぬちゃ……んぷぅ。くぅ、っふむぅ……ん♪」

「ちゅぅ……んむっ♪ ずぷぅ、ずぶずぶ……」


 乱れたベッドシーツの上、制服姿のリズと、パジャマの由理ゆーりが抱き合って百合キス。

 2人のかたわらには、スポーツ飲料のペットボトル。


「んはぁ……、ふぅ……♪ 由理ちゃん、たっぷり水分摂ろうね♪」


 金髪縦ロールを揺らしながら、妖しく微笑むリズ。

 舌をちろりと出して、由理の唇へ……唾液とスポーツドリンクをミックスした液体……ほぼ唾液、を、てらてらと垂らして飲み込ませる。


 ……ちゅぷぅ。

 それじゃ足りないと言わんばかりに唇も重ねて、キスで飲料を流し込む。

 お口とお口でダイレクトに注がれる、まさに経口補水液である。


 朝から付きっ切りで繰り返される接吻くちづけに、由理は照れながら、


「ね、ねえ、リズさん。私、もっと水分欲しいんだけど……」

「そ、それって、もっとキスしたいってこと!? やだ、照れちゃうわ、もう♪」


 頬に手を当てて、すっごく嬉しそうに頬を染めるリズ。

 そんな彼女へは、少し言いにくいけど。


 そろそろ止めないと、由理が脱水症状になりそうだ! ドキドキして汗かいてるし!


「いやいや、口移しでなく普通に飲みたいんですけど。私、その、わりと辛い」


 キスするリズが嬉しそうなので言いにくかったが、口移しでは効率が良くないと思う!

 もっとゴクゴクと、ドリンク飲みたい。


 というか熱が有るので。返事を待たず500mlペットボトルを手に取り、口を付けて水分補給。

 火照ったカラダに、爽やかな酸味が心地よい。


「んく、んくぅ……」


 喉を鳴らせてドリンクを喉へ流し込む由理、その姿をじーっと見つめながら。

 リズは物欲しげに眉を下げて、自分の唇に指を当てて、赤くなる。


「……残念。間接キスで、我慢かぁ」

「ぶほぉぅ!?」


 そう言えば、ペットボトルの飲み口に、微かに口紅ついてる。

 意識せずにはいられない。由理の頬がまたまた赤く!

 もうたっぷり直接キスしてるけど、間接キスは別腹なのです。


「ちょ、もうっ……い、意識しちゃうじゃ、ないですか……」


 照れ照れしながらも由理、口紅を舐め取るようにぺろぺろと、飲み口に舌を這わせながら、残りのドリンクを飲むのだった。


 飲み終わったボトルを、今度はリズがちゅぱちゅぱしたのは言うまでもない。


「ふふ、たまには間接キスもいいかも。由理ちゃんの味だぁ♪」

「は、恥ずかしい、これ……。私、なんか汗かいてきた……」


 ベッドの上でずっとイチャイチャしていては、それは汗もかくだろう。

 由理のパジャマは汗を吸って、背中もわきもぐっしょり濡れていた。


 待ってました、とばかりにリズの眼が輝く!


「まぁ! 汗をかいたなら、拭き拭きしないとね♪ さあ由理ちゃん、脱ぎ脱ぎしましょうか♪」


 ずずずいっ、と密着。白い指で、寝間着を脱がせに掛かる!


「ひ、1人で脱げるからぁ!? いきなりブラ取らないでぇ!?」

「だめよ由理ちゃん、濡れた下着は替えないと! さぁ、パンツも脱いで! さぁ、さぁさぁ!!」


 強引に脱がすリズ。ベッドがギシギシ、悩ましげな声を上げる。


「こ、この人、楽しそうなんですけどー!? 看病はどうした!?」


 パンツを引っ張られながら、由理は助けを求めるのだった。


 ※ ※ ※


 昼下がり。

 由理とリズが住み込みで働く、百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」の裏口の前で。


「はぁ、はぁ……っ。学校早退してお見舞いにきちゃったケド。べ、べつに由理のコトが心配とかじゃないんだからねー!?」


 誰も聞いてなくても、エアツンデレする美緒奈みおなの姿。

 額の汗を拭い、弾む心臓を落ち着かせて。乱れた様子な、高校の制服の襟やスカート裾。

 ずいぶんと駆け足でここへ来たのだと、そううかがえる。


「ほ、ほら独りじゃかわいそーだし? 昨日、暖めてやらなかったあたしにも責任あるからさ!? あいつ寂しくて泣いたりしてたら寝覚め悪いなーって、そ、それだけなんだからなぁっ!?」


 誰も聞いてない。

 ツインテールをぴょこぴょこ揺らし、美緒奈はドアノブに手を掛けて。


「でもっ、天使な美緒奈様に看病なんかされたら、由理ってば感激しちゃって、恋しちゃうかもな! ま、まぁ仕方ないよねってゆーか? 美緒奈様が可愛すぎるのが罪なんだけどっ!」


 可愛らしい唇に八重歯を覗かせ、ひとり盛り上がる美緒奈。

 その脳内には、天使の看病によくじょーを抑えられなくなった由理が、美緒奈を押し倒しちゃう場面まで妄想済み!

 寛大な美緒奈様は、由理が狼になっても熱のせいということで、許してやろうと思う。


「か、覚悟はしてるけどっ。えっちな展開になっちゃったら……こ、困るなー♪」


 ちっとも困ってる顔じゃない。


 ともあれドアを開けて、裏から店内の居住スペースへ。

 由理が寝てる部屋へ。


 ドキドキ、ドキドキ。

 南原みなはら美緒奈がオトナになるまで、あと数歩(予定)。


 と、由理の部屋の前で。

 わずかに開いたドアから、大っぴらに……。


「んぁぁぁっ♪ や、らめぇリズさんっ♪ そんなトコ、擦らないでぇぇ♪」


 なんかえっちな声が聞こえてきました。


「ふふ、でもほら、(汗で)びしょ濡れよ♪ 拭いても拭いても……溢れてくる♪」

「だ、だって、熱くて……。ふぁぁ!? そ、それぇ(冷たいタオル)気持ち良すぎるぅ♪」


 美緒奈のツインテールが天を衝いた。


「な、ナニやってんのさ、あんた達ぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 バターンとドアを壊す勢いで開けて!

 そこで美緒奈が見たものは。


 裸みたいな下着姿で肌を重ね、ぬるぬる抱き合う由理とリズのベッドシーン……にしか見えない光景だった。


「ホントにナニやってんのぉぉぉぉぉぉ!?」

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