天使の看病編①

 いきなりの雨に降られて。

 西城さいじょう由理ゆーりさんは、風邪を引きました。


「……おかしい。なんで、私がなのよ」


 ベッドの上、パジャマ姿で天井を見上げながら。

 由理は、理不尽な現実を受け入れるのに苦闘していた。

 シャワー、しっかり浴びたのに……濡れたまま百合キスしてた季紗きさでなく、なんで自分が。


「じゃあ由理ちゃん、私も学校行っちゃうけど……ホントにいいの?」


 お嬢様学校の制服に着替えたリズ、氷水に浸したタオルを絞り、由理の額の汗を拭きながら。

 心配そうに、顔を覗きこんでくる。


「放課後には、お店の皆も来るけど……独りで、寂しくない?」

「こ、子供じゃないんだから。平気ですっ」


 顔が近い。つい赤面して視線を逸らしてしまう由理へ、リズが……ぴとり。

 額と額を密着させてくる。


「な、ななぁぁ!? リズさん、ち、近すぎっ……!?」


 おでことおでこをくっつけて熱を測る、定番の行為。

 由理の顔の熱が体感3度は上がる!


「40度はありそうね。息も、なんだか荒いし」


 息が荒いのは、リズさんが額を合わせてくるからです。

 そうとも知らず由理を思いやる、金髪縦ロールの巨乳天使。


「由理ちゃん、やっぱり病院に行く? 私、学校休んで付き添うわ」

「だ、だいじょうぶ、です……っ、か、顔を、離してくれれば……っ!?」


 美少女と美少女の顔が近い。

 キスまでの距離3cmのかんばしい吐息に、由理の心臓がドキドキし過ぎて破れそう。

 これ以上は、カラダに毒だ!


「ほ、ほらリズさん、高校遅れる! 私はホント、平気ですから!?」

「う、うん……。無理は、しないでね?」


 元気アピールする由理に背中を押され、リズは何度も振り返りながら……お店を出て、学校へ向かっていった。


 ※ ※ ※


 日除けに、青のカーテンを閉めた由理の部屋。

 いつも賑やかな「リトル・ガーデン」に、静寂のとばりが降りて。


「ひとりだと……こんなに静かなんだ」


 お店の外、道路を時たま自転車が走る音、小学生たちが登校していく騒めき声。

 ささやかな小鳥たちのさえずり。


 そんな音が、静かさを余計に際立たせる。


(独りは……いつぶりかな)


 たまにはいいかもね、なんて強がってみるけど。

 静かな「リトル・ガーデン」は、思ったより居心地が悪い。


 ベッドで寝返りを打って、由理は布団を抱いて。

 皆の声が、聞きたい。そんな風に思うのだった。


 そうして、目尻に涙が溜まってることに自分で驚きながら、眠っていると。

 ……頬に、ひんやり冷たくて気持ちいい感触。


 なんだろう、と思って目を開けると。


「ふふ、水分補給よ。……ちゅぅ♪」


 スポーツドリンクを口に含んで、ベッドの由理へキスしてくる、リズの唇。


「ちゅんんぅ!? んむ、ふぁ……ちゅ、ん! リ、リズさん、学校行ったはずじゃ!?」


 ドリンクで心地よい冷たさの接吻に、由理が赤くなってたずねれば、


「うん、休んじゃった」


 キスした唇をぺろりと舐めて、ことも無げににこっと。


「ごめんね……私はやっぱり、由理ちゃんを独りにするのが、嫌みたいなの」


 恋に墜ちるレベルの優しい顔で、にっこりと微笑みながら、背景に大輪の山百合を咲かせるリズ。

 こくこくと追加でスポーツドリンクを口に含んで……愛の口移し、水分チャージ。


「……ちゅ、んぅ……。ぬぷむ、ふ……♪」

「んんっ……♪ も、もう、リズさんったら……」


 風邪、移っちゃいますよ?と羞じらいながら言う由理へ。

 そしたら、由理ちゃんが治るね♪と嬉しそうに笑い、リズは唇を重ねてくるのだった。

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