百合フェス編⑤ 百合フェスでは年齢確認を行ってますので、悪しからず!

 さて、12時正午スタートの、今回の百合フェス。

 大田区産業プラザPio1階、メイン会場の大展示ホールで、1時間以上たっぷり掛けて百合同人誌を買い込んだ美緒奈みおな由理ゆーりを連れて2階へ移動する。


「2階は『そ〇花』の展示会やってるんだぜ。声優さんのトークショーも有るからな、楽しみにしてたんだー♪」

「うん、ぜんぜん知らない」


 どうやらゲームのイベントが有るらしいということだけ、由理にも分かった。


 2階の広間に入ると、そこには数十人の紳士淑女がイベントの開始待ち。

 壁際に展示された、ゲームキャラなのだろう……美少女達の等身大パネルを、思い思いに撮影している。


 美緒奈もいきなりテンションMAX。

 美少女パネルに抱き付こうとするのを由理に止められながら、よだれ。


「ハァハァ……。玲緒れおたん連れて帰りたい♪」


 急に真顔で、由理を振り返って、


「あ、もちろん麻衣まいたんでもいいぞ?」

「いや知らんて」


 一般人な由理は置いてけぼりだけど、美緒奈気にしない。

 もう一つ、目玉展示の前でぴょんぴょん飛び上るコスプレ美緒奈!


「こ、こここの自転車はぁっ! 『ゆり○んラジオ』のあれじゃねーか!?」


 ゲームの少女達の愛車(という設定)の自転車らしい。

 羨望の眼差しを美緒奈は送る。


「あ、あの座席に璃紗美夜のお尻が!! す、すりすりしたい……♪」

「……私はあんたと、他人のふりしたいわ」


 ゲームは知らない由理だけど、美緒奈の発言がとっても変態であることは分かるのです。

 でも2人仲良くコスプレしてるせいで、他人のふり不可。

 最高にハイってやつな美緒奈のせいで注目を浴びて、頬を赤くする。


 ところで。由理、重要な疑問が一つ。

 高校生の由理と美緒奈が、なんだかすっごく視線を集めてるので……もしかして。


「……ねえ美緒奈さん? ひとつ聞いても、よろしいかしら?」

「あら、なんですの由理さん♪」


 1オクターブ高い猫撫で声とお嬢様言葉で、大事なコトを聞く。


「このゲームってぇ……」


 由理、にこにこ笑顔を作りながら、


「……エロゲじゃないよね?」

「もちろん、エロゲだよ♪」


 ……18歳未満の方は買ってはいけないゲームでした☆


「撤収ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」


 美緒奈を抱きかかえて強制退去だ!

 由理の腕の中で暴れる美緒奈。


「あーっ!? 楽しみにしてたのににゅーじぇね!?」

「あと2年待てぇぇぇぇ!?」


 エロゲは18歳になってから☆


 ※ ※ ※


 階段を降り、ホールで息をつく。


「まったくあんたは……だいたいさ、イベントの人達にも迷惑掛かるでしょうが。18歳未満がエロゲのイベントに参加とか」


 由理に睨まれて、美緒奈は。

 不服げに唇を尖らせて、ごにょごにょと。


「だって……だもん」

「ん? 何よ?」


 美緒奈、ツンとそっぽを向いて、でも頬を赤く染めて。


「だって! 由理にも『そ〇花』やらせたかったの。か、語る相手がいないと、寂しいじゃんか!?」

「え? それって……」


 私と、共通の話題が欲しかったってこと?

 なんだか照れくさくて、ぽっと赤面する由理へ。


 美緒奈、もっと赤い顔で、


「ば、ばかばか調子に乗んなー!? あ、あたしは別にっ、ゲームの話できるのが早乙女ちゃんだけで寂しいとか、由理ともっと仲良くなりたいとか、そんなこと思ってねーかんなぁー!?」

「……う、うん。その……」


 そんな美緒奈のツンデレも、無性に可愛く見えてしまった由理。

 乙女ちっくに羞じらい、前髪を弄りながら、わずかにデレてみたり。


「あ、ありがと。私のコト気にしてくれて……ちょっとは、嬉しいかも、なんて」

「……ば、ばか。だから由理のためとかじゃ、ねえーっての」


 甘い空気が流れる。

 ドキドキで溺れそうに息苦しい、そんな沈黙を破って美緒奈、おずおずと。


「と、とにかく由理のせいでトークショー見られなかったし。お詫びに……キス、しろよな」


 口づけを、ねだった。


「はいはい、ごめんなさいっ。キ、キスすれば、いいのね……?」


 ……ちゅぷぅ。

 2階が百合イベントで盛り上がっている中、ひっそりと。

 階段下のホールでも、百合の花が咲くのだった。

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