百合フェス編④ 会場はキスする場所ではありません!
体育館ほどの規模の会場に、百合な同人誌がいっぱい。
百合オンリー同人誌即売会「百合フェス」を、
「ファンです! 新刊ください!!」
目を輝かせ、お気に入りのサークルを回る。
さらに、これが即売会の醍醐味だが……ノーチェックだった新しいサークルの本を手に取る。
「アニ○イトやとらの○なで買える同人誌は、世の同人誌のほんの一部に過ぎない!」とは美緒奈の談である。
「む! このプリ○ュア本、好みの絵柄! あ、あのっ、読ませて頂いていいですか!?」
コスプレでポニーテールにした髪を、馬というより犬の尻尾ばりに振り回して。
テンション高い美緒奈、センサーにビビッと来る本を見つけたらしい。
「ふぉぉぉみな×はるとはる×きらで百合キスぅぅ♪ デレるきららがヤバ過ぎるよぉ!?」
初めて読むサークルの本だが、どうやら百合のツボにどストライク。
「こ、これ下さい!! 一生の宝にします!!」
美緒奈、めちゃくちゃテンション高い。
あまりに喜ばれて、サークルの売り子さんも悪い気はしないようだ。
「あ、ありがとうございます♪」
こうして、女の子同士がキスする本をたくさん買う美緒奈であった。
一方、
「へえ、色んなジャンルがあるのね」
剣士風のマントを翻す魔法少女コスプレで、見学中。
美緒奈と並んでるとなぜか騒がれるので、今は別行動だ。
「あ、あれってピ○チ姫……? マ○オに百合要素有るの!?」
おひげに赤い帽子でジャンプ力が物凄い、世界的に有名な配管工が活躍するゲームの百合同人誌を見つけた由理、カルチャーショック。
百合メインの作品でなくても、女の子キャラがいれば百合妄想する……そんな百合好きの妄想力を、まだまだ甘く見ていたらしい。
「す、すごいわ皆。どんだけ百合好きなのよ……」
でも。
不思議と。
……居心地は、悪くなかった。
「変なの。なんで私、楽しくなってるんだか」
自分自身に苦笑する由理。
別に私は、百合に目覚めたわけじゃないけど……なんて、胸の中で前置きした上で。
同じものを好きになった人達が集まるこの空間の、オンリーイベント独特の暖かな雰囲気にあてられて、心がぴょんぴょん弾んでくるのだった。
「私も、なんか読んでみるかな?」
美緒奈があんまり楽しそうなせいもあって、由理も同人誌を読んでみたくなる。
少女漫画風な、好みの絵柄を見つけて、
「あの、読ませてもらっていいですか?」
はにかみながら、サークルの女の人に声を掛ける。
「え、ええっ!? い、いいんですか!?」
……? なぜか赤くなられた。
可愛らしい絵柄で、上手だし、面白そうと思ったわけなのだが。
(な、なんかすっごい見てるよ、この売り子さん。私がコスプレしてるせいかな……)
熱い視線を送られて、ちょっぴり困りつつ。
由理は、同人誌のページをぴらり。
『や♪ あ、っ、ふぁぁ……んあぅ♪』
女の子同士でえっちする本でした。
高校2年の由理にはまだ早かった!!
「……」
ぼぼぼ、と頬が大炎上カーニバル。
そっと本を机に戻し、「あれ? 買わないの?」的な売り子さんの眼から後ずさりで逃げつつ。
「えっちな本が売ってるぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
正直に叫んだ。
「大声出すなよな。『ルール、マナーを守って、乙女は優雅に』ってカタログの注意書きに有るじゃんよ」
そばに来た美緒奈、腰に手を当てて眉をひそめれば。
由理、動揺しながら、
「だ、だって、だって……! 女の子同士で! えっちしてるんだよあの本!?」
「R18って書かれてるじゃん。気付かない由理が悪いっての」
やれやれと首を振って美緒奈、それとも、と由理をじろり。
「もしかして由理って、『百合にエロは要らない』派? あたしは大好きだけどなー、えっちいのも」
えっちいの大好き。
見た目小学生な美緒奈が言うと、よけい背徳的に聞こえる。
「い、いやいやいや! キスはまだしも、えっちはイケないでしょ女の子同士で!? ふ、フケツだよ!」
「はぁ!? す、好きならえっちしたくなるだろ普通! 百合でも女同士でもっ、好きな子とえっちしたいと思って悪いわけぇぇ!?」
美緒奈も譲らない!
「あたしは断固! 百合えっち賛成派だかんな! 愛し合う2人なら、それが自然な流れだー!」
「だ、だめでしょえっちは! 清くない。そんなの清くないって!?」
百合にえっちは必要か否か。
永遠の命題を熱く激しく大声で、百合フェス会場に響く大声で議論する女子高生2人。
しかも伝説的百合ップルと名高い、赤青の魔法少女コスで。
「ま、まさか美緒奈あんた……! わ、私のコトもそんな目で見てるの!?」
「ば、ばかばかぁっ! あ、あたしが由理とえっちしたいとか! い、いつもキスしてやってるからって、調子に乗るんじゃねーぞ!?」
「そそそんなこと言って、この前泊まりに来た時だって! お風呂でもベッドでも、舌挿れてきたくせに!」
「ゆ、由理こそ赤くなってさ! ホントは美緒奈様とえっちするの、期待してるんだろ!?」
「そんなわけあるかぁぁぁぁー!?」
……ざわざわ。
ここは、百合フェス会場。
今の由理と美緒奈を見て、数百人の参加者は心をひとつに、思うのだった。
「「「痴話喧嘩だ……!」」」
「……はっ! 注目を浴びている!?」
正気に戻った。
由理、美緒奈の手を引いて一旦会場外のホールへ脱走!
自動販売機で缶コーヒー買って、一息ついて。
「絶対誤解されたよこれ……」
「……それはいいんだけどさぁ」
美緒奈、なんだかもじもじ。
「由理のスケベ。あんたがえっちえっち言うから、変な気分になっちゃったじゃん」
「はぁぁぁ!? 美緒奈の方がえっちなコト言ってたでしょ!」
そう言いつつ、実は由理もちょっぴり……胸が疼いてる。
「……とりあえず。キスして、鎮めよっか」
「……う、うん」
また手を繋いで2人、頬を染め、視線は互いに逸らして。
トイレの個室に、一緒に消えた。
「ちゅぅ、んん♪ ずぷ、ちゅむぅ……♪」
「んく、むぅ♪ ふぅ、くぷぅ♪ ちゅぅ、ちゅぅぅ……♪」
扉がガタガタしてるけど……中で行われてるのは……たぶん、えっちではない、はず。
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