罪には罰を。

〈2015年エイプリルフール初出〉


 南原みなはら美緒奈みおな、16歳で身長143cm。

 体重、軽い。

 わりと長めの赤み掛かった髪をツインテールに、黒い大きなリボンで結っている。

 それが、歩くとピョコピョコ、小動物のように揺れてとってもキュート。

 くりくりした大きな瞳、小悪魔的コケティッシュな笑顔が似合うロリータ美少女だ。

 もちろん胸はAカップ、胸というか壁。でもくじけない。

 それが希少価値であることを、ステータスであることを、美緒奈は自覚している。

 ……時々、リズや季紗きさのを見ていると、羨ましくなるけど。

 さて、そんな見た目小学生な美緒奈、マンションの自室、鏡の前で。

 きらきら、フリフリの魔法少女コスチューム姿でした。


「天に星、地には花、人には百合を! 魔法少女セイントリリィ、華麗に参上☆」


 白とピンクの可憐なコスチュームで一回転、魔法のステッキをくるり☆

 すわ、彼女は魔法少女だったのか!?

 ……いいえ、コスプレです。


「はぁ、我ながら魔法少女コスの美緒奈様は、可愛すぎて萌え死ぬぜ♪」


 自画自賛。高校生でフリルたっぷりの魔法少女服は、ちょっと「痛い」かもしれないが、似合うのだから仕方ない。


「次のイベントも、やっぱこれかなぁ。でも『レズ虎嵐とらあらし』のコスも捨てがたいしなー」


 鏡の前でにへへー、と頬を緩ませるロリータ美緒奈。基本的に、自分大好き。

 ちなみに、このコスプレ衣装は手縫いである。

 といっても家庭科赤点の美緒奈なので、自分でではなく、母親作成。

 オタ趣味の母娘という、幸せ家庭なのだ。

 そんな家へ美緒奈は、バイト代の一部を入れている。

 彼女ががんばれば、母の機嫌が良くなり、コスプレ衣装が増えるという仕組み。


「……けど、やっぱりこれが一番だよね。美緒奈様の魅力を引き立てるにはさ♪」


 にぱっと笑って、彼女が取り出したのは。

 純白のエプロンとヘッドドレスに、黒が映える上品なメイド服。

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」の制服。

 愛しそうにメイド服を抱き締め、くるくる鏡の前で回りながら、夢心地。


「これが着たくて百合メイドになったんだもんな。メイドなあたしは……宇宙の宝だぜ♪」


 ……自分でそんなこと言えるのが、南原美緒奈という少女なのだった。


 ※ ※ ※


 さて、今日は4月1日、エイプリルフール。

 こういうイベント事には乗らずにおかない信条の美緒奈、営業中の「リトル・ガーデン」で今日も紅茶を口移ししたり、ケーキを頬に付けて舐めてもらったり、いつも通りの百合営業をしながら、


(へへー、あたしの必殺の嘘で、皆をおどかしてやんよ♪)


 タイミングを見計らっていた。


「きゃー、今日も美緒奈ちゃん可愛い♪ ロリ可愛い♪」


 年下好き、あるいは後輩好きの少女達が黄色い歓声。


「えへへぇ、お嬢様ったら美緒奈照れちゃうよ♪ ……でもね」


 ……今だ。

 舌なめずりをして、M心をくすぐっちゃうスイートデビルな笑顔で。


「実は美緒奈はね……『男の娘』なんだよ☆」


 空気が、凍った。

 「リトル・ガーデン」の店内は、その瞬間確かに、南極の温度を下回る氷の世界と化した。


(……あれ、嘘が効き過ぎた?)


 やば、と心の中で焦る美緒奈へ、常識人な由理ゆーりが呆れながら、


「……あんたねえ、つくならもうちょっとマシな嘘を」


 バターン、リズ卒倒!!

 ピュアな彼女には「実は男の子とキスしていた」という精神的ダメージが魂の許容範囲を超えてしまったのだッ!! 嘘だけど。


「ああっ、リズさんしっかり!?」


 慌ててリズを助け起こす由理、一方季紗は、


「チェェェェェェェェェェェック!!」


 本日2度目の奇声を上げた。


「確かめさせてもらうよ美緒奈ちゃん! 結果によっては、ハサミの出番です!! 早乙女さんっ!!」

「はーい、チョッキンする準備OKです♪」


 季紗の指令に、黒髪の百合メイドが早速ハサミを用意っ!

 流血の予感に由理あわあわ。


「ナニを切る気!? ナニを切断するつもりなのぉぉぉッ!?」

「き、季紗ねえ? 目が危ないよ? てかエイプリルフールの嘘だって、分かるよね!?」


 ずりずり後ずさりしながら、青ざめる美緒奈へ、季紗は……。


「ふ、うふふふ♪ 怖がらないで、ちょぉっとパンツの中を確かめるだけだから♪」


 美緒奈の腰に抱き付き、スカートの中に頭を突っ込んできた。


「にゃぁぁぁぁぁぁっ!? パンツ降ろさないでぇぇぇッ!?」

「逃げないで美緒奈ちゃん! これは貴女の身の潔白を証明する為にっ、必要なコトなんだよ! ……ハァハァ」


 ロリータ美少女メイドのスカートの中に潜り込んで、パンツを脱がせようとするお嬢様メイド。

 ……男性諸氏は、真似すると犯罪になるので注意しましょう。


 ※ ※ ※


「良かった、やっぱり『ついてない』ね♪」


 チェック終了。脱がせた美緒奈のパンツを片手に、額の汗を拭う季紗。

 行為はともかく、外見は爽やか美少女。


「ううぅ、汚された気分……」


 ノーパンでスースーするスカートを抑えながら、美緒奈は羞恥に震えつつへたり込んでいた。

 お客様達も、羞じらう美緒奈の可愛らしさにご満悦。

 嘘の件も、水に流してくれそう。

 とはいえ、ついていい嘘と悪い嘘がある。

 そのことを、卒倒したままのバイトリーダー、リズに替わって、季紗は先輩メイドとして、改めて美緒奈に諭して、


「反省した、美緒奈ちゃん? 罰として、このパンツは没収です!」


 自分のポケットに、美緒奈のパンツを入れた。


「いや最後おかしい!? そのパンツどうするつもりなの季紗ぁぁっ!?」


 由理のツッコミは、季紗に華麗にスルーされた。

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