出会い編 ⑦ HKT ~放課後百合キスタイム~

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」の営業時間は、平日は夕方5時から夜9時まで。

 常勤の百合メイド店員3人が全員、現役女子高生で学校があるので、日中から営業するのは日曜日だけとなる。

 さて、今日は平日。夕方、開店前の店内にて。


「んっ……、くちゅぅ。ずぷ、ぬぷ……」

「ふぅっ、ん、むぅ……ふっ、くぅ……、んんっ……」


 とろんとした瞳で、濃厚な百合キスを交わす二人のメイド。

 見た目だけ清純派メイドの季紗きさと、金髪縦ロールのメイド、リズの二人だった。

 ずちゅずちゅと、えっちな水音立てて唇を求め合う二人だが、別に愛の儀式ではなく。

 これは、百合メイド喫茶開店前の準備運動なのです。


「ど、どうしたの、季紗ちゃん。いつも以上に激しいのだけど」


 濡れた唾液の糸を嚥下ごっくんしながら、羞じらうリズ。

 季紗に比べると、少し照れがあるらしい。

 その様子を目に、もう一人のメイド……赤み掛かった髪をツインテールに纏めたロリメイド、南原みなはら美緒奈みおなも、顔を赤くして唇を押さえる。


「うん、あたしもすっごく吸われた……。季紗ねえ、気合入り過ぎ」

「ふふ、だって今日、すっごく良いこと有ったんだもの」


 夢見心地で陶酔する季紗。

 今、彼女の頭の中は、昼間の学校での出来事でいっぱいだった。


(赤くなる西城さいじょうさん、可愛かったぁ……♪)


 クラスメートの西城由理ゆーり。セミロングの髪に、細めながら程よくお肉のついた健康的な肢体。

 ぱっちりした活発そうな瞳に、小ぶりな唇。

 実は、季紗が密かに脳内で作成していた「学園でキスしてみたい女の子」リストの、上位だった。

 生粋の百合キス魔の季紗にとっても、乙女のファーストキスを奪うのは少し罪悪感は有るのだけど。

 今回は事故なので仕方ない。


「やっぱりキスって素敵ですよね! 百合キス最高ですよね♪ ね♪」


 暴走気味のテンションで、リズと美緒奈の二人にキスマークを付けまくる季紗。

 もう慣れてはいるので冷静に、美緒奈がリズへ尋ねる。


「そういえばリズねえ、新人入るって話はどうなったの?」


 リズも、季紗にちゅっちゅされながらというのに動じず、


「……昨日は逃げられちゃったのよね。やっぱり、刺激が強過ぎたかしら」


 頬杖ついて、ため息。


店主マスターにも怒られちゃうわ。せっかく、住み込みOKみたいだったのに……」

「なんか、生徒手帳だかを忘れたんだろ? だったらさ……」


 にひひ、と黒い笑顔で美緒奈、


「それで脅しちゃわない? 返してほしけりゃ、うちで働け! ってさ」

「……だめよ」


 凛とした瞳で見つめながら、リズは首を横へ振った。


「こういうのって、強制するものじゃないでしょう?」


 3人の中でも年長のリズ、根は一番真面目だ。

 留学生の彼女、生家ノースフィールド家は由緒正しい家柄で、卑怯を嫌う騎士道精神のような気風がある。

 とはいえ、少し寂しい顔をして、


「住み込みの子が増えたら、嬉しかったのだけどね。今は、私だけだし」

「リズ姉……」


 美緒奈の家庭はごく平凡、季紗はお嬢様だが、どちらも家族は健在。

 「リトル・ガーデン」への住み込みは、家族に認められてなかった。


「ふ、ふふふふふふふっ♪」

「ど、どうしたの季紗ちゃん?」


 リズと美緒奈の会話中も、頬にキスしたり髪をペロペロしたり好き放題していた季紗。

 二人へ胸を張り、


「大丈夫。西城さんは、きっとうちに来てくれますよ」


 自信たっぷりに宣言。

 なぜなら彼女は、西城由理は、初めての百合キスに戸惑ってはいても。

 ……嫌がってはいなかったのだから。

 間違いなく、彼女にも素質がある。女の子同士が、百合が好きな、百合メイドの素質が。


「唇は、嘘をつきませんから♪」


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