眠れない夜は 後編
春、
閉店後の百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」。
掃除と明日の準備を済ませ、百合メイド店員達が帰宅した後のこの店は……住み込みの2人、由理とリズの愛の巣に。
「ちゅぅ、んむ、れぷ……。今日も一日、お疲れ様、由理ちゃん♪」
「な、なんで、ん、ふぅ……っ、なんで、キスしながら言うんですかぁ!?」
まだメイド服のままの2人、花のように甘く薫る汗の匂いに、ぴちゃぴちゃ音を立てて行われる百合キス。
営業中はたくさんの乙女同士がキスする店内も、今は照明を落とし、二人だけの世界だ。
「だって、独りじゃないのって久しぶりなんだもの。なんだか私、嬉しくて……」
リズにとって、寂しくない夜は、とても久しぶりなのだろう。
羞じらいながら、上目遣いで熱っぽく見つめてくる金髪メイド、リズの姿に、由理は、
(ううっ、可愛い……)
ドキドキしてしまって目を逸らす。ちなみにキスされながら。
エリザベス(リズ)=ノースフィールド、18歳。
英国からの留学生で、由理や季紗とは別のお嬢様学校に通学。
普段の縦ロールを解いた金色の髪は、腰まで届く長さ。
ゆるふわウエーブに波打ちながら、きらきら輝いて。
髪と同じ金色の睫毛の下には、澄み渡るスカイブルーの瞳。
北の大地、誇り高い大鷲が舞う天空の色。
欧米人としては大柄な方ではないが、由理より頭一つ分は身長が高い。
丸顔童顔ながら、迫力満点のふたつの膨らみは母性200%。
甘えん坊な妹の顔と、頼れるお姉さまの両方の顔を持った、ワールドワイド美少女メイドである。
「せっかく一つ屋根の下で暮らすんだもの。いっぱい、キスしましょう?」
ちゅぷっと唇を重ねてくる彼女に、由理は照れ照れしながら、身を許した。
「……もうっ。ちょっとだけですよ? 私、ノンケですから」
……そこで押し切られる人をノンケとは呼べないのでないかと思った方。正解です。
※ ※ ※
ぴちゃん、ぴちゃんとお風呂の床を叩く水滴音より、ずっと激しく。
ぐちゅぅ、ずちゅっと艶なまめかしく響くのは、やっぱり
「やぁっ、ん、ふ……んぅ、むぅ! リ、リズさんっ、こんな、お風呂の中でぇ……っ!」
「はぁ、あ、ちゅ、るぷっ……♪」
タガが外れたように由理の唇を求め、吸ってくるリズ。
浴室の中なので、もちろん2人とも全裸。
女の子の匂いが混ざった湯気の中、火照ったカラダを擦りつけ合って、百合キスを貪って……。
「こ、これじゃまるでぇっ……」
えっちしてるみたいだ、と真っ赤になる裸の由理。傍目にはそれ以外の何にも見えない。
彼女の口腔内に舌を出し挿れしながら、リズはきょとんとした顔で、
「え? 季紗ちゃんは『これが、日本の入浴のしきたりですっ』って言ってたわよ?」
「外人さんに何を教えてるのよ、あの子はぁぁぁっ!?」
明日学校で会ったら覚悟なさいよ、と、由理は心に誓うのだった。
そんな由理を押し倒し、リズは重い胸をぷにぷにくっ付けて、もっとキス、キス、キス。
「ちゅぷん、ずちゅりゅりゅぅ、ぢゅぷぅん♪ 日本のお風呂って素晴らしいのね♪」
ハートマーク乱舞の異文化交流に、由理もつい甘い声を上げてみちゃったり。
「ら、らめぇっ♪ ん、きゅぅぅぅ……っ♪」
※ ※ ※
そして、電気を消した寝室、ベッドの上で。
「……あの、眠りにくいんですけど」
鼻先がくっつく距離に、整ったリズの顔が。いちおう部屋は別にあるのに、ベッドにまで潜り込んでくる金髪美少女。
「……だめ?」
金色の睫毛の下、青空色の瞳が不安そうに揺れる。よっぽど甘えたいらしい。
いっしょに寝よ、お姉ちゃん♪ そんな台詞がぴったりの潤んだ目で見つめられては、追い出せるはずもなく。
「もうっ、し、仕方ないなー」
諦めて添い寝。固く指を絡ませ合うと、とても嬉しそうにリズは頬擦りしてきた。
年上なのに甘えん坊な金髪お姉さん……殺人的な愛くるしさだ。
「……ねえ、由理ちゃん」
眠り掛けながら、つぶやくリズ。
「はい?」
「ありがとう、一緒にいてくれて」
繋がる指に、力が籠る。……本当に、寂しがり屋さん。
由理はそっと、リズの髪を撫でてあげて、
「別に、感謝されることじゃないですよ。私も……好きですから」
寝息を立て始めて聞いてないリズの唇に、優しくキスをした。
※ ※ ※
翌日の昼休み、学校の屋上でお弁当を広げながら。
隣に座る季紗、ハァハァ息を荒げながら由理を問いただす。
「で、えっちはしたの!?」
「するかっ! しないってば!?」
彼女達は、あくまで清い関係です。健全!
信じるかどうかは、貴方しだい。
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