第47話 冬将軍対鍋奉行 黒アリさんたら黒星食べた

 雪原は、ありす戦車を追撃するJ隊の白い戦闘服で埋め尽くされた。立て直されたJ隊の大部隊の通常兵器による攻撃も、だいぶ効を奏してきた。いちいち熱い小林カツヲの「ベストヒットUSO」と、雪絵たちの「ハーグ・ワン」のホットさで、氷に閉ざされた世界が溶け出している。

 ダークスター軍および氷結城は、ありすの戦車の科術と雪絵たちが倒したものの、まだダークスターが不気味に浮かんでおり、氷結光線を充填している。光線が発射されれば、また氷結世界は元通りだ。

「クソッ、決め手に欠けるわね……」

『ありすさんありすさん、こちらハーグワン……』

 その時、凍りついた電波がこれまでのベストヒットUSOでようやく解け始めて、通じるようになった。「ハーグワン」という名称にありすは心穏やかでない顔をする。

『雪絵です。時夫さんも一緒です』

 ……ハグだって? やっぱし。あの二人。

『無事なのね?』

『はい。上空のダークスターは、ダークトゥルーパーの巣穴です。地上のダークトゥルーパーとつながっています』

 なるほど。だから地上軍が打倒された今、ダークスターはすぐに反撃できずに居たのだった。雪絵によると、ダークスター=ダークトゥルーパー、ダークトゥルーパー=ダークスターという関連性が感じられるという。

『とすると、残りの地上のダークトゥルーパー達を一斉に打倒しないと、ダークスターは消えないわね』

 ラストのすき焼き鍋で、最終的に八割方の敵を打倒した。それでも二割が戦場に散らばっている。彼らを、限られた時間内に一網打尽に壊滅させることができれば、ダークスターは破壊できる。しかしそれは非常にハードルが高い作戦にも思えた。

『彼らの正体は、諏訪湖の名産……バフンウニまんじゅうに群がっていた蟻です!』

『あ、蟻んこだってェエ?』

 驚くのも無理はない。バンバン人は蟻んこだった。雪原を走る戦車からは、地面に蟻に戻った彼らの姿は小さすぎて見えなかったのだ。

「それはともかく、馬ふんなのかウニなのかまんじゅうなのか?!」

 ウーが真剣に疑問に感じている。

「そのいずれでもあるんじゃない?」

 ありすは苦笑する。

「よし、ここまで来りゃもう作戦変更する」

 ありすは一網打尽の必殺科術を思いついた。

「何する気?」

 ウーが心配して無線で聞いてくる。

「敵の正体が見えた今、こっちもこの戦いの意味論で最終兵器を編み出してやるわよ!!」

 ありすの無線は「ベストヒットUSO」のアンプ類に連結された。まさに今、J隊は科術師・古城ありすの真の戦闘力を目の当たりにする事になるのだ……!


 白アリさんたら白星食べた

 みんなが小さくなるように~

 黒アリさんたら黒星食べた

 みんなが大きくなるように~


 意味という意味が“嘘”となって相転移するCBA48度線。白蟻=J隊の大勢力はますます力を増し、一方で黒蟻ことダークトゥルーパーの残党たちは、あっという間に小さな蟻に戻っていく。放送内容とは裏腹に。すなわち、意味が逆になるからである。バンバン人の氷結兵器群は、急激な気温上昇に耐えられずにショートを起こしている。それらをありすの科術呪文で勢いの増したJ隊の通常兵器が破壊する。地上から彼らの姿が全て消えてなくなった時、天空の暗黒の星・ダークスターは壮大に爆発した。

「ふぅ~。カ・イ・カ・ン」

「気が済んだ?」

 ウーも呆れるほどの完全なる大勝利を古城ありすは手にした。


冬将軍対鍋奉行


「やったぜッ!!」

 その破壊を見た時夫は快哉を叫んだ。二人はまた抱き合った。

 ほどなくJ隊の大部隊を率いたありすのシャーマン戦車が、二人のもとへ到着した。

「いつまで抱き合ってんの」

 戦車から降りてきたありすが声を掛ける。

「あっ」

 時夫と雪絵は離れた。その雪絵は、依然として手にマシンガンを持っている。

「ダークスターの弱点を教えてくれて、ありがとう」

 ……蟻だけに?

「時夫もよくやったわね。雪絵さんも無事護ったよーだし」

 といいながら、なぜありすは不機嫌なんだ?

「どうせ、地下の連中がでっち上げた宇宙人なのよ」

 その時、戦車がガタタタタと派手な異音を立て、小爆発を起こして沈黙した。振り向いたありすはギョッとした顔のまま固まっている。

「……あああ、あたしのシャーマン戦車が、壊れちゃったみたい。科術の使いすぎかな?」

 大活躍だった戦車だが、科術をMAXで使ったせいで遂にその役割を終えるときが来たようだ。

「またスーパーカー消しゴムの登場かよ」

「いいえ。もう疲れたでしょ」

 ありすはシャーマン戦車とコンボイの連結を外させると、店長に「乗せてってくれない」と頼んだ。小林店長が二つ返事で頷いたその時……

 ザシッ。

 そこに1ダースベイゴマが立っていた。上空を見るといつの間にか戦闘機の一機が浮かんでいる。ベイゴマは、どうやらそこから牽引ビームで降りてきたらしい。続けて1ダースベイゴマはライトウィップを取り出し、十二箇のベイゴマを操る。

「ベストヒット……UFO!」

 冬将軍は放送を聴いてたらしい。たちどころに上空に十二機の戦闘機が集まって、彼らは包囲された。一瞬死んでくれたらありがたい。ところがこの中で真っ先に冬将軍に立ち向かったのは、金沢時夫だった。ジェダイとしての修行のせいかか、時夫は既にライトセーバー誘導棒を抜くことが出来た。すかさず斬り掛かる。だが戦闘機の閃光がひらめき、時夫は一瞬で氷結した。

「時夫さぁん!」

 雪絵がポップコーン機関銃を構える。

「蟻の、ままにィ……」

「待って!」

 唄い出そうとした雪絵を、石川ウーが制止した。フードコンボイの二階から、J隊員たちにコタツを雪原に運び出させる。こんなものまであったのか。斬りかかったポーズの時夫の氷像の隣で、ウーは1ダースベイゴマをコタツに誘った。

「冬将軍、お鍋をどうぞ」

 なんという大胆さ! これにはありすをはじめ、一同の誰もが呆れた。

「あなたが勝つか、私の鍋が勝つか。嘘もごまかしもない一発勝負よ。それとも、私の挑戦を受ける勇気ない?」

「……アズ・ユー・ウィッシュ」

 ザッザッザッ。ベイゴマはブーツを履いたまま、ドカッと胡坐をかいてコタツに入った。鍋奉行のウーがすき焼きの具材を採り、冬将軍が黒手袋で受け取る。将軍はそれをガスマスクの口の部分を開いて一気に流し込んだ。そして、ゆっくりと取り皿をテーブルに置く、コトッという音がした。ベイゴマの身体がブルブルと振動し、ガクッと肩を落とす。効いてる効いてる……。ところがバッと上体を起こしたベイゴマは右手をウーにかざした。

 バキベキバキバキ! 石川ウーと鍋がコタツごと凍り付いている。ベイゴマはザッと立ち上がった。今度はウーを瞬殺した! 鍋奉行の鍋でも、冬将軍を多少弱らせただけだったのだ。

「……その程度か? オマエたち同盟軍の抵抗は? ハーグワン、ハーグワン、……ロイヤルハーグワン。……実に興味深い」

 探偵ガリレオかっ。

「さぁ白井雪絵よ。こちらへ」

 不敵に黒手袋を差し伸べた1ダースベイゴマに、雪絵は毅然と答えた。

「お断りよ。あなたのような極悪人なんかに」

 雪絵の両眼はメラメラと怒りに燃えて、マシンガンを構えている。

「……違うッ、私はオマエの父だ!」

「いや違いますけど。人違いです」

 とは、誰もが思う。

「私の父は、私の生みの親は白彩店長よ……もう、許さないんだから」

 言いたくはなかった。雪絵の父のような存在があの店長だなんて。

「フンッ」

 雪絵はポップコーン機関銃を投げ捨てた。ベイゴマ相手に食べ物の科術は通用しないからだ。だが、ハーグワンができなくなった雪絵に、どうしてこれ以上相手をHOTにさせる技がある? 古城ありすも小林店長も、なぜか雪絵とベイゴマの対決を見守るしかなくなっていた。

「ソーダ屋の店長さんが、ソーダを飲んで、そーだそーだと云ったそーだ……」

 駄洒落! ヒュオォォーーーーオオオ……。これじゃ逆に寒くなる一方だ。

「このカレンダーは誰んだー? 彼んだー」

 対する冬将軍も定刻軍らしい寒いギャグをかます。ビュオオオオオオ!!!! ますます気温が低下していく。

「ふとんが、吹っ飛んだ!」

「レモンの入れもん!」

 ズゴォオオオオオオオ!!! 気温が急降下していく。

「ちょ、ちょっと、さ、寒ッ、止めて雪絵さん」

 一体全体、白井雪絵は平気なのか? ありすらは雪絵が永久凍土の世界で、ありのままに「雪の女王」として覚醒したことを知らない。

「そっか。雪絵さんは今、寒いギャグで冬将軍と対決している! 逆に、相手を凍りつかせようとしているんだ。なんて無茶な」

「とにかく、我々の命に関わります」

 ありす達は一時、フードコンボイ内に避難するしかない。だが、店長の懸念と裏腹に、気温は氷点下をますます下る最中、雪絵は至って平然としていた。

「……イカはいかが?」

「イカすイカ墨!」

 イカにはイカだ。言えば言うほど寒くなる、三段ギャグスライド方式!

「味噌との、遭遇……」

 1ダースベイゴマが人差し指をビシッと差しながら、止めを差そうとした。どうやらベイゴマはトン汁を口にしたようだが、すぐに食べるのを止めたらしい。

「餡をえぐって、エグリアン(餡)……」

 ズドゴゴゴゴゴゴォ!! 雪絵の方が果てしなく寒い……。瞬間的に1ダースベイゴマが凍りついた。一方で雪絵は平気で立っている。あの冬将軍が、雪の女王・白井雪絵には勝てなかったのだ。勝敗は決した。白井雪絵……恐ろしい子……。

「時夫さん!」

 雪絵は時夫の氷像に抱きついた。ハーグワンは時間を掛ければ時夫を溶かすことが出来た。時夫は意識を取り戻す。そのまま、二人の熱気は周囲の気温を上昇させ、石川ウーをも溶かした。

「さすが、ハーグワンね……」

 雪絵の駄洒落は、時夫には聞かせないことにしよう。

 ところが、意識を取り戻した時夫はその場にどさっと倒れ込んだ。

「何か食わせてくれ。は、腹減った……」

 ウーのすき焼き鍋は、時夫が美味しくいただいた。

「そういえば……ネルカッツ提督はどうしたのよ? 何か作戦を考えたの?」

「いえ……ネルカッツはカツ屋で寝るだけです」

 「寝るかっつ」提督か。ズォオオオ……

「ちっと止めてよ店長、また寒くなるじゃない」

「おじいちゃんだからね」

 ウー、笑ってる場合か。

「帰るわよ、恋文町へ」

 壊れた戦車は雪原に置きっぱなし、スーパーカー科術をやる元気もない。

「あたし……戦車も車も壊してるのよね……これ借りてていい?」

「もちろん。ご自由にお使いください」

 トラックは寝ているネルカッツ提督がいるので遠慮し、ありす達はJ隊の軍用ジープに乗り込んだ。白井雪絵は後部座席で時夫の隣に座りながら、景色を見て物思いにふける。


 私は砂糖人間。

 名前はまだない。

 ある日、私を店頭に出すので、

 「名札」をつけるために

 店長が「白井雪絵」とつけた。

 色が白いから。

 一分で考えたらしい。

 その日の午後。

 時夫さんがお店に来てくれた。

 連続殺人事件を起こしている店長から

 私を救い出してくれた。

 二人で一緒に、店長を茸畑に埋めた。

 でも、時夫さんには好きな女性がいた。

 伊都川みさえさんという人。

 時夫さんは言った。

 私はみさえさんに生き写しだった。

 私は一体、何なのだろう。

 でも時夫さんは私に

 私は私だと言った。

 ありのままに生きていけばいいんだ、と。

 時夫さんの傍に

 私の居場所がある限り、

 私は生きていく。

 ありのままに。

 二人で生きていけたら、

 ……ハーグワン。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る