【短編】冒険心
それは溶けていた。
コンクリートの道端で溶けていた。
春のような日差しの中で、ゆっくり、ゆっくり溶けているようだった。
溶けているのに蒸発して消えるようなことはなく、ただただ溶けて広がっていく。
わたしはそれが何なのかは知らない。わかりもしない。わかるのは現状だけで、けれど何となくそれが生命体であることも感じ取れる。
半分だけの気持ちでは助けようと思った。
もう半分は好奇心だった。
わたしは溶けていくソレにシュガースティクをかけてみる。
昨日飲んだコーヒーに付いていたやつ。
それは少し形を取り戻した気がする。
今度は塩をかけてみた。
昼のゆで卵にかけるやつ。
少しだけナメクジのことは考えていた。そしてそれは溶けてしまった。ナメクジのように。
正直、罪悪感はあった。けれどすぐに忘れた。
思い出したのは次の冬。
何故思い出したかというと、それはわたしだけが冬を迎えることが出来なかったから。
でも同時にあのときの行動は間違っていなかったのではないかと思う。
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