第7話 学園封鎖
「え?」「立てない」「なにこれ。」「きゃーーーー!!」
大騒ぎになる一同。
「あと三分だぞ。いいのか?」
壇上で気持ちよさそうに笑う正志だが、誰も聞いていない。
ふざけんな。何したんだ、元にもどせと喚くクラスメイト。
しかし、ただ一人だけ動き出した生徒がいた。
「はやく……はやく謝らなきゃ!」
上田明。クラスでは成績上位だが、積極的にクラスに関わることはなく、あまり正志に対しても関心をもたなかった。
「ほう……一人は頭がいい奴がいたのか。このクラスは猿の集団だと思っていた。がんばれよ」
他の生徒は混乱して、正志に対して怒声を浴びせるだけで何もしてない。
「お前、後で覚えておけよ」
光利たちは粋がって無意味に脅しを続けるが、正志は取り合わなかった。
「お前等に後なんかないよ。あと1分だぞ」
全裸で土下座しているのは上田一人。あとは焦っているのみだった。
「タイムリミットだ」
時間切れを宣言する正志。クラスは異様な雰囲気に包まれていた。
気がつけば、全員が自由にカラダを動かせるようになっていた。
倒れていた岡田も立ちあがり、憎悪をこめて正志をにらみつける。
「お前、何したんだかわからんが、後で職員室にこい」
しばらくして気がついた岡田教師が捨て台詞をはいて、出て行った。
その姿を薄笑いで見送る正志。
教師が出て行くと同時に、クラスの連中に取り巻かれた。
「お前……リンチだぞ」
「そうだ。こんな屑殺してしまえ」
「窓から放り投げようぜ」
罵声を浴び去られながら、正志は静かに念じる。
つかみかかろうとした瞬間、生徒たち全員が誰かに殴られた。
「え????」
皆が不思議そうに自分の拳を見る。自分の手が自分の意思によって動かず、自分に殴りかかってきた。
「なんで!や、やめてくれ!」
たちまち教室は阿鼻叫喚の地獄となった。
上田明は、その光景を恐怖しながら見ていた。
「やっぱり……あいつに絶対何か起きたんだ。足を動かせなくするなんて普通じゃない。土下座しておいてよかった」
その肩をポンと叩かれる。おそるおそる振り向くと、いい笑顔を浮かべている正志だった。
「お前、いいセンスしているよ。土下座してよかったな。約束どおりお前だけは許してやるよ」
そういわれて、明はコクコクと頷く。
「どうだ?今ならさらに特典として、次の時代世界を支配する新人類の席を用意してやるぞ。賢いお前なら、生き残る資格がある。俺に魂を売らないか?」
それを聞いて、明は逆に首をブンブンと振った。
「そうか。残念だな。ならさっさとこの学校から出ていけ。ここは地獄になるからな」
そういわれて、明は荷物をまとめて教室を出ようとした。
「そうだ。ついでに頼みたいが、今すぐ学校から出て警察に伝言してくれ。井上学園はこの俺、吾平正志が占領して、全校生徒と教師を人質に取ったってな」
「わ、わかった」
明は頷く。
「その後はどうするか自分で決めろ。そのまま逃げて俺に二度と関わらないか、それとも戻ってきて俺に従うか。前者なら少しの間は平穏に暮らせるが、その後は地球上を襲う地獄に巻き込まれるな。もし後者なら、生き残る資格ありだ。こうやって話を持ちかけられるだけでも、すごい幸運なんだぜ。いずれ、俺の手を取るために何万人もの人間が群がってくるようになるからな」
正志の言葉は理解できなかったが、圧倒的な恐怖に襲われて上田明はコクコクと首を縦にふった。そのまま逃げるように学校を後にするのだった。
明と正志が話している間にも、生徒たちは自分の手によって殴られ続けていた。
容赦ない一撃が顔面や鳩尾、股間など場所も急所ばかりを狙って与えられる。
ようやくその打撃がやんだときは、クラスの全員が反抗の意思を失って椅子にへたりこんだ。
「どうだ?お前等。これがいつまでも続く。それも一番起きて欲しくないときにな。例えばトイレ。例えばデート中。例えば受験中……ククク。果たしてお前たちはまともに生きていけるのかな」
正志が悪魔の笑みを浮かべると、クラス全員がそのことを想像して恐怖に震えた。
「ふざけんな・・」
それでも工藤啓馬は根性を出して立ち上がるが、正志の冷たい声が響いた。
「まだ反抗する馬鹿が居たのか。じゃ、連帯責任で全員もう10発追加だ」
正志の言葉どおり自分の腕に殴られて、クラス全員が崩れ落ちる。
「なんなら100発にしようか?自分を殴りつけて自殺する奴なんかそうそういないぞ」
その言葉をきいて、クラスの全員が絶望した。
「あ……あの。吾平くん、どうしてこんなことをするの?もうやめようよ」
機嫌をとるような声を出したのは、クラス委員長の山崎理沙。三つ編のおとなしい雰囲気の少女である
「は?」
一瞬、正志は何を言われたか本当にわからなかった。
「だって……クラスメイトにこんなひどいことするなんて……みんな友達なのに」
心の底から意味がわからないといった顔をしていた。
「お前……本当にバカだったのか。お前等の中に俺の友達なんか一人もいるかよ、全員10発追加」
クラスの全員からの叫び声が響きわたった。
正志を悪魔でも見るような目でみるクラス一同だったが、これから始まる地獄の始まりに過ぎなかった。
正志は上田明が学校を出たのを確認して、行動を始める。
「くくく……それでは、楽しい楽しい地獄の時間を始めようか」
正志は精神を集中させ、学園の周囲に精神結界を張る。
すると、校庭に巨大な魔法陣が出現した。
「な、なにあれ? 」
魔法陣をみてクラスメイトが騒ぐ。
「くく、これは人類が科学文明を発展されるにつれて失った『魔法技術』の一つで、『キングダム』という。つまり、この土地を俺の領土にする印だ。これで、今から学園に入ろうとした者は自動でソウルウイルスに侵されて激痛と共に昏倒して目覚めなくなる。その逆に出ようとしても同じことがおきる。さて、全校の生徒と教員に警告してやろうか」
正志はテレパシーで全員の脳に直接語りかけた。
『あー。俺は一年A組の吾平正志だ。俺は今まで散々クラスの連中に苛められ、苦しんできた。俺は俺を苦しめたお前達『人間』を許さない。よって、お前達には罰を受けてもらう。俺が許さない限り、お前達はこの校舎から出ることはできない。校舎から出た瞬間に激痛を感じるようにお前等の脳を設定した。激痛が続くと死ぬ事もあるから、死にたくなければおとなしくしているように。このゲームの詳細はまた追って連絡する』
正志の宣言は井上学園の中にいる全員の脳に届いた。
「今のはなんだ?」
「ねえ、あなたも聞こえた?今のって頭の中に直接響いたよね」
正志のテレパシーを受けて、困惑する生徒たち。
何人かの生徒が異常を感じて校庭に出ようとしたが、今まで感じたことが無いような激痛を感じて、あわてて校舎に引き返した。
「おい。やばいぞ。本当に校舎から出たら死にそうなくらい痛い思いをするぞ。俺たちは閉じこめられたんだ」
パニックが生徒達の間に広がっていった。
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