第159話 お土産
転移先は聖域の町であらかじめ用意しておいた隠れ家。そこで30分くらいかな?待っているとシュラーとも合流できた。尾行されていないか念入りに確認してから来たらしい。3人揃ってちょっとほっとしたのも束の間、すぐにシュラー君が噛み付いてくる。
「キーン、どういうつもりだ。なんだったんだよさっきのは。あんな自殺志願者みたいな動きしやがって。なんだ、俺はあれか、お前のお守りにでも雇われた我慢強い素敵な奴隷かなにかか?でもいつ?いつから奴隷に?そんでお前の身の回りの世話をしろって?さっきのはお前の尻拭いってよ、お前は俺の奴隷なんだからクソした後はケツ拭くのが当然だろってそういうことか?そうなんだな?なぁキーン、お前がどこでクソしようが勝手だけどよ、俺はお前のケツを拭くために生まれてきたんじゃないんだぜ?ボケッとしてたかと思えばいきなりひとりで突っ走ってよ。それともあの時、既に何かの攻撃を受けてそれで棒立ちになってたとかそういうことか?違うよな?なんとか言えよ。それともまたクソしたくなったのか?まさかここで?いますぐ?いますぐじゃないとダメか?ちょっとも辛抱できないか?」
「いや、悪かった。ただちょっと考え事っていうか・・・なんだろうな、ボーっとしちまったんだ。いや・・・本当に悪かった。なんて言っていいか分かんないけど。なんかよく、俺だって分かんねーんだよ」
「わたしもちょっと思ったよ。ううん、そうじゃなくて、キーンと同じことかな?あのひとでしょ?きゅうせいしゅのひと。あれはちょっと見ちゃうよね。魔法もへんだった。なんだったのかな、あのひと」
「おいチャンネリ。お前はちょっと待っててくれ。今はキーンが先だ。そんで・・・考え事?じゃあ何か攻撃されてたとかじゃなかったんだな?」
「ああ」
「そうか。分かったよ。まぁ・・・そうだな、お前はそういうヤツだったな。だけど分かってるよな?もし次もあんなすっ呆けたことやってたら俺はお前との関係を考え直すぞ?あれは絶対に逃げる場面だった!」
「あぁそりゃ仕方ないな。俺も俺みたいなヤツが隣にいたらと思うと一緒にやっていく自信ないもんな。嫌になったら遠慮なく見限ってくれよ」
「テメェ、キーン・・・よくそんなことが俺に・・・チッ!」
「だめだよキーン。そんなのずるいよ。そんなのはキーンがいつも言ってるクソ野郎以下だよ。じゃくにくきょうしょくはどうしたの?口ではグチグチ言っても何とかするのがいつものキーンだよ?わたし達のことが邪魔になったの?でもそれだって・・・いつものことでしょ?わたし達が知らないとでも思った?ちゃんと分かってるよ?それでもわたし達は仲間なんだって・・・キーンは自分でも分かってないだけなんだって・・・キーンは何も・・・感じないの?もうそこまで行っちゃったの?」
「なんの話だよチャンネリ。言ってる意味がよく分かんないな。お前らを邪魔だと思ったことはそりゃあるさ。けどそれと矛盾しないで仲間だとも思ってる。お前らだって似たようなもんだろ?ただ人にはラインがあるよな?そこを越えたら許せないっていうラインがさ。だったらしょうがないじゃないか。一緒にいてもお互い不幸になるしかないってよ。シュラーの話しはそういうことだと思ったから言ったんだ。ずるいってなんだよ」
「もういいよチャンネリ。こいつは分かってて言ってるんだ。そんで俺もチャンネリもそれを分かっててこいつと一緒にいるんだ。なぁキーン、そうだろ?」
「かもな」
「俺達が友情だ愛情だなんて語る資格はないけどよ・・・なんだろうな?もうちょっと別のなにかを期待してたよ。つまり・・・がっかりだ」
「それで寂しいとでも言いたいのかシュラー?それは止めといた方よさそうだぜ。そんなマトモな人間らしい感情なんてものは俺達が手を出していい領域じゃない。いくら俺だってそこまで図々しくなれないよ。それに俺達の手は血でべっとり汚れちまってよ、感情の手綱を握ろうったって滑っちまって操りきれないよ」
「そうかもしれないけど・・・でも・・・それじゃあわたし達は何のために生きてるの?死にたくないからだけなの?ううん。ちがうよ。わたしは違うよ」
「チャンネリ。俺だって違うと言いたいよ。けど・・・」
「キーン!うるせぇよ!ちょっと黙れよ」
はぁ。みんな感情的になっちゃったよ。ここでケンカなんてしてる場合じゃないんだけど・・・そりゃ俺が悪いんだけどさ。それともまさかもうちょっとそれっぽい崇高な感情とか、人の善性の発作的な発揮みたいなオブラートを一枚かませてから喋れってのか?
そんなのはたとえ耳に心地よく聞こえたって、ガキがもっと遊びたくて公園から帰りたくないって泣き叫ぶのと変わんねーよ。純粋だとか正直だとか言って逃げたところで、結局イラついてストレスが溜まり、いつかはドカーンさ。俺達の関係性でそりゃないだろ。ふぅ、こうしていても仕方ない。すぐに安全確保に動かないと。
「ここも安全じゃない。揉めるのは後にしてとりあえず転移で隣町まで移動しよう。いいな?」
「・・・あぁ、わかった。クソ!わかったよ。買った奴隷はどうする?始末する時間は・・・ないか」
「捨てて行こう。奴隷から俺達に繋がる線はないんだろ?」
「ああ問題ないな」
「よし、じゃあ転移するぞ」
ふたりのぶすっとした顔を眺めながら転移の黒い渦を出す。この隠れ家ともこれでオサラバ。もうこの家を使うことはないだろう。用意しておいた保存食だの武器防具だのも無駄になったが仕方ない。
「ッ!!大丈夫か!?」
「うん!」「おう!」
魔法攻撃!家の壁を突き破って何かが飛んできた!岩!ロックボールだ!次がまたくる!「気配察知」で捉えた岩の数は5。相手は最低でも5人?かなり遠くから撃っていて、射手の位置が分からない。
「また来るぞ!」
「だいじょぶ!」「了解!」
チャンネリは「身体強化」の魔法に加えて「気配察知」の魔道具を持っているから間違いない。問題はシュラーだが実は「身体強化」「気配察知」の魔道具を持っている。影野郎から奪ったものだ。魔道具なので魔法より性能は落ちるし燃費も悪いが上手くやってくれるだろう。今もロックボールをしっかりかわしている。
「キーン、どうだ?まだ来るか?」
「いや、とりあえず打ち止めみたいだ」
「なんでバレた?俺が尾行されたのか?」
「かもしれないが、追跡系の魔法をくらった可能性もある。俺の気配察知では気がつかなかったけどな」
「追跡魔法か。だとしたら暫くは逃げまくるしかないな」
「だな。面倒だが、転移があるから・・・あちらさん、寄せてくるぞ」
「さっさとズラかろうぜ」
「いや迎え撃つ」
「おい」
「悪いなシュラー。だがここは稼ぎ時だ。あのクソ魔族への土産を積み上げたい。ここは俺ひとりでやるよ。転移を使ってひたすら奇襲すればいい。お前らは先に隣町で待っててくれ」
「勝算は?高いんだろうな?」
「神官が20と騎士が10は確認した」
「テメェ、キーン。それのどこが・・・」
「大丈夫!俺ひとりの方がやりやすいし。やばそうだったらすぐそっちに合流するよ。もう来る。ほらさっさと行け」
チャンネリがこっちを睨んでいるけど目線を合わせず、シュラーはもうキレてるなこれ。気持ちはありがたいけど、お前らは足手まといだよ。
「勝手に言ってろ。お前がやるなら俺もやる。いいよな?俺はお前の奴隷じゃない。いいだろ?」
「わたしもやる。そのために強くなったんだからね。キーンはせこいからひとりで経験値を稼ごうとしてるんでしょ?そのゴミみたいな考え方、わたしきらいだな。もっとわたし中心に考えて欲しい」
「チッ!」
もう問答してる時間がない。
「商業ギルドの建物前まで転移するぞ。向こうの背後をとって、あとは好きに攻撃しろ。俺から離れるなよ?どんどん飛ぶからな」
「オッケー」「はやくはやく」
会話している間に敵さんはもうすぐそこまで来た。追加攻撃もしないで隠れ家を囲むように動いている。まぁそんなものは俺達には関係ない。転移の渦に沈んで、商業ギルドまで飛ぶ。
「チッ!やっぱり追跡魔法か。こっちの場所がバレてる」
「だったらもうズラかるか?どうせあいつ等は追ってこれないだろ?」
うん、その通りだ。鬼ごっこなら負けない。敵地のど真ん中で自己満足的ひとり遊びをするには俺の頭はいま冷静すぎる。ここで意地になる必要はない。もっとアドレナリンの分泌を促すハッピーな薬でも用意していればと思うが、そんな薬はないし、あったとしても皆自分で使うのに夢中になって俺まで回ってこないだろう。ヤクもキメずにこんな危ない現実を受け止められるわけないじゃないか!
「そうだな。土産は諦めるか。よし、じゃあ・・・」
「黒塗りの3人!」
「なんだ?あちらさん、なんか叫んでるぞ?」
いきなり魔法ぶち込んできて今度は対話をご希望ですか。俺達と同じくらい自己中心的なヤツラだな。さすがは力を持つ者だ。そうこなくちゃな。
「黒塗りの3人!そこを動くな!」
よく通る声だな。100メートルは離れてるのにさ。
「話がある!そこを動くな!」
スーパークールじゃないか?今の二言三言でヤツラの立ってる大地の固さが透けて見えるようだ。俺達のことなんて一切考慮していないし、するつもりもないんだろうな。最近は拠点の町で商売やら何やら上手くいってたからさ、ちょっとボケ始めてたぜ。やっぱりそうだよな。そうなんだよ。
「動くなだってよ、キーン。どうする?」
「シュラー。顔が笑ってるぜ。おっと俺も同じか」
「ねぇ。ちょーはどーけん撃っていい?」
「ハハッ!救世主様もいないみたいだしそれでいくか。話なんて誰が聞くかよ」
チャンネリは頷いてすぐに超波動拳!付近の家屋を粉々にしながら衝撃を撒き散らし、ヤツラの行進を止めることに成功した。さすがに距離がありすぎてあっちまで届かなかったけど第2ラウンドの開始の合図は受け取ってくれたことだろう。
波動拳の射線上にいた皆さんにはご冥福を。俺だって出来ればこんなことはしたくなかったんだよ。だから許して欲しいし、きっと許してくれると信じてる。もし許してくれないなら、もう知ったこっちゃない。どうしても許して欲しいわけじゃないんだ。逆にもう一発カマしてやるだけだよ。眠れ。
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