第132話 バラバラな人々

緑色した、象のような厚い皮膚に向けて身体強化した力をのせたナイフを投げるが防具にはじかれて肉をえぐれてない。クソゴブちゃんが!


「ウナ!右手!弓いるぞ!」


「ったく!騎士はどうした!押されてるじゃないか!」


「シュラー!火で壁を作ってくれ!」


「盾!前に出すぎるな!」


ゴブリン叩こうぜ作戦の戦況はよろしくない。相手の連携が思ってたよりいいんだ。速いの硬いのってもうさぁやだやだ。騎士が洞窟入口を固めていたはずなのに、ゴブは外にも展開していて応戦中。


騎士連中のラインが抜かれたのか?それとも別の出入口があったのか?他の冒険者連中も多数参加しているが、地味に数が減らされている。さすがはゴブ。簡単じゃないぜ。


「弓を始末しろ!これじゃいつまでもここに張り付けだ!」


うるさい。それができないから苦戦してるんだろジリ貧野郎!ウナのパーティーは弓使いが4人いる中距離主体のチームで相手の弓にも対抗できるはずだが、ゴブの回避、防御が堅く決定力に欠けている。


素早く移動してあちこちから狙ってくる相手の弓矢に注意しながらではさらに攻撃力が落ちじわじわ後退。玉数が限られている魔法を連発するわけにもいかないから打開策がいまのところない。


ゴブはこちらを無理に追って来ない。本当に嫌らしいヤツラだ。じわじわとこちらの消耗を誘っていくつもりのようだ。「気配察知」で確認した限りではヤツラはラインを作るでもなく縦横無尽に移動しているように見える。


ここから騎士連中のところまでは距離があって様子が分からないが、ここらにいるゴブの数を考えればそこでもまだ戦闘中だと思われる。ゴブの増援がこっちに流れてきたら騎士は全滅と考えてさっさと撤退することにしよう。


ゲリラ気取りの癖に連携が取れてるなんて最悪だな。ヤツラはどうやってコミュニケーションとってるんだろう?まぁいいか。考えたらやる気がなくなりそうだ。もっと中距離以上で決定力のある攻撃が切実に欲しい!シュラーの炎玉はあまり数が撃てないし。


さすがのキーン君もひとりで突出したら矢をかわしきれないから前には出れない。引くにしても追撃されたらたまらんな。それこそ援軍なんてきたら一気にミンチにされて、今日のゴブリンの夕飯はハンバーグになるだろう。


他の冒険者になすり付けて逃げちゃいたいけど、それをしても大した時間稼ぎにならなそう。魔法使いが全く足りてないってんだよ!町長だか騎士だかギルドの連中だか分からないが、酷い作戦に杜撰な戦力分析のお陰でグリーンモンスターが生き生きしてるぜ!


ウナの魔法はアースウォールとかいう壁を作るものだ。弓メインのパーティーには丁度いいのかもしれないが、今は大して役に立っていない。戦闘開始して10分は経っているのにまだ一匹もゴブを狩れていないんだぜ?いくらなんでもこれはやばいな。いやもう完全にクソやばい。


「矢が無くなるを待つか?ヤツラ射ちまくってるぜ?」


シュラーが涼しい顔して話かけてくるが、こいつ分かってないのか?


「矢の補給をしてるヤツがいる。このままじゃやばいぞ。味方は少しだが削られてるしな。現状維持ではすぐに限界がくる。チャンネリ!」


チャンネリも前に出られず苦戦している。


「俺の投げナイフを使え。槍ゴブ狙いだ。ウナのところの盾を上手く使ってな。お前が引きつけて、シュラーで決める。接近戦はするなよ?矢に捕まるぞ」


「うん、了解。シュラーは大丈夫?」


「まだまだ撃てる。キーンはどうする?」


「俺は弓ゴブをやる。あれが一番厄介だからな。ヤツラの動きも読めた。よし!シュラーは省エネで!」


すぐに散開してゴブの目を掻い潜って弓ゴブの背後を狙いにいく。木に隠れながら確実に移動。弓ゴブは移動しながら攻撃してくるが、矢が積んである場所に定期的に戻ってくる。そこを叩かせていただきます!


間合いに入ったな。魔道具を発動して一気に走れ!狙うのは弓を持つその腕!短剣を振って・・・切り落とせはしないが、よし、弓はもう使えまい!さっさと距離をとってゆっくり攻略・・・したいがそんな悠長なことしてる時間はない!


素手でも強いゴブ君だが、見えてる見えてるぅ!見えてますぅ!右足を斬りつけ、また腕。足をもう一回、がむしゃらに俺を捕まえに来たところをカウンターで首!


はぁやっと一匹。別の弓ゴブに気付かれたな。仲間にも何か叫んでやがる。さっさとこの場を離脱。チャンネリ達も槍ゴブを一匹仕留めたか。ウナ達もやったようだ。


弓が1減っただけだが効果は絶大。チャンネリがまた槍ゴブに取り付いた。こっちはこっちで弓ゴブを射程にいれて瞬間移動!的なイメージで突っ走ってからのー、えぐれ!えぐれ!えぐれるんだ!刺せ!えぐれ!


「よし。一回戦終了だ。水飲んでおけよー」


とりあえず目の前のゴブ叩きは成功した。少し離れたところにはまだまだゴブの姿があるが、他の冒険者が交戦中。急いで助太刀なんてことはしない。彼等とは連携も取れないから片手間では邪魔になる。そう考えると俺達ってゴブ以下だわ。


「ふぅ。ウナ。どうする?かなり怪しい状況だぜ?」


「ええ。連携が良すぎるわね。引くなら今か。裏を取られたくもないわ」


話が早くて助かるわぁ。さっさと討伐証明の耳を回収してね。


「よし。なら後退しつつ少し様子を見よう」


俺達は騎士のケツを拭うためのちり紙じゃありませんよー。ウナのパーティーと一緒に水を飲みながらゆっくりと後退。俺達の左右に展開している冒険者はまだ苦戦中みたいだ。ガンバです!


「ゴブリンのおかわりはなしか。俺達の足止めが目的だったのかもな」


シュラーの言う通りかも。別働隊が町へ奇襲でもかけるのかとも考えたがそんな様子はない。俺達を足止めして確実に騎士の息の根を止める作戦か?


冒険者なんて一部を除いて所詮烏合の衆。脅威となるのは騎士と判断して、分断してフレッシュ!ってパターンね。実に新鮮な血が流れそうな雰囲気だ。ゴブリンやばいな。頭良すぎだろ。まぁこれは勝手な想像だけどさ。


「騎士はまだ誰も下がってこない。洞窟内に誘い込まれて全滅って可能性もあるな。もちろん攻撃が成功して殲滅中って線もあるけどよ。ウナ、どうする?ここに待機、冒険者の援護、前線へ斥候を送る。色々できそうだが?」


「斥候を送るのは危険ね。だからこそ価値がある。サコンにやってもらうわ。私達は別パーティーの援護に向かいましょう」


「了解だ」


俺達はウナのパーティーの応援として参加してるので、危険レベルが一定ラインを越えるまでは素直に指示に従いマンモス。苦戦しているところを優先して援護に入る。


邪魔にならないように慎重に横槍を入れていき、1時間近くかかって外のゴブリンは大体掃除完了。冒険者は100近く参加していたはずだが半分近くやられたんじゃないか?倒したゴブ太郎の数は40匹くらいだった。少しでもボタンを掛け間違えてたらこちらが全滅コースだったな。


「ハァ。しんどいな。とりあえずこっちは落ち着いたが騎士はどうなったんだ?」


森のなかで休憩しながらウナを振り返る。


「あっちは全滅かもしれないわ」


斥候に出たサコンの情報によると、洞窟の入口にゴブの死体が数体転がっていただけで騎士の姿はゼロだったらしい。


「誘い込まれてやられたってのか?まだ戦闘中じゃなくて?」


「そもそも外に出ていたゴブリンはどこから出てきたんだ?」


「騎士がホントに全滅したなら町も危ないかもな」


みんな言いたい放題だがどれも同感だ。魔法を使うゴブゴブリンリンが無双しながら町に乗り込んでくる画が見えるようだ。


「サコン。洞窟の入口付近は誰もいなかったのか?」


「あぁ。俺の気配察知の範囲には誰も」


なら俺が行っても大して変わりないか。洞窟入口付近の地形だけでも確認しとくか?いや、ここは逃げる準備だな。ゴブリン無双の現場に立ち会いたくない。


ヤツラはまだ町まで寄せてくる感じではないが、騎士が全滅してたらそれも時間の問題ということになる。別の町から応援を引っ張るにしても繋ぎ戦力として使い捨てされかねない状況はノーサンキューだ。


「ウナ。俺達は町まで引かせてもらうぜ。騎士が勝ってるならそれでよし。やられたならさっさと逃げないとな」


「町にまだ騎士はいるし、冒険者だって。戦力はまだあるわ。逃げるには早過ぎない?」


「ボケてんのか?ここで俺達冒険野郎はボコボコにやられてるんだぜ?この作戦事態が最初からクソだったってことだ。もう尻に火がついてんだよ。まぁお前に言うことじゃなかったな。とにかく俺達はここで降りるぜ。じゃあな!」


ウナの非難のこもった眼差しをスルーして町へ戻る。ギルドでゴブ討伐の金を受け取り、現在の戦況も情報として売って懐を温め、宿に戻り荷物をまとめる。ギルド職員の慌てた顔はいい味出してたな。ハハハ。


「よし。次は南に行こうぜ。シュラー、なんだ?不満顔だな」


「キーン。逃げるには早過ぎないか?まだやれることだってあるだろ?わかってるよ。お前のおかげで何度か危険も避けてるからな。でもそれ以上に無駄な移動も多い。こんな調子で逃げてばかりで一体何になるんだ?いい加減うんざりだ。何か目的でもあるなら話は別だがな」


「そうか。じゃあお前とは、いやチャンネリもか?ここでお別れだな。魔道具は返してくれるよな?力では敵わないから大人しく返してくれると嬉しいんだけど」


「キーン。お前のそういうところがついていけねぇんだよ!俺達をなんだと思ってるんだ?友達だの仲間だの言いたくないが、それ以前の問題だ。最近じゃお前のあれ・・・奴隷の王ってのは俺達に対するあてつけのように聞こえるぜ」


「シュラー。何でそんなにイライラしてるんだ?俺達は冒険野郎なんだぜ?気が合えば一緒に動けばいいし、そうじゃないならバイバイだ。俺に対する期待なんてものがあって、それが思ってたのと違ったと怒ってるなら筋違いだろ?仲間だなんだというのは、はっきり言っておくが俺の頭にはない。言葉だけつくろってもしょうがないもんな。お前らふたりは頼りになるし、出来るなら一緒に行動したかったが残念だよ。またどこかで会ったらその時はよろしくたのむよ」


「ああ、そうかよ。チャンネリ、行くぞ。もう付き合いきれねぇ」


「わたしはキーンについていくよ。シュラーとはここでお別れだね?」


「チャンネリ?キーン・・・と?え?どこへ?」


シュラーのとてつもなく憐れな姿を俺は生涯忘れないだろう。気の毒だがたまに思い出すと笑えてくるのは秘密だ。シュラーよ、永遠にフレッシュなもぎたて果実的思い出をありがとう。お前はホントフレッシュ野郎だよ。

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