第128話 ゲットできそう

下層へと降りる間にシュラーとチャンネリから問い詰められる。さっきの話は一体何だと。当然俺は答えてあげる。嘘じゃないよと。二人は同時に舌打ちし、俺はいやらしく笑う。今日はいい日になりそうだ。


30分ほど歩かされて見えてきたのは黒いドームだ。もちろんこれは「気配察知」を介して見えているだけのこと。つまりこれが結界らしい。


あれ?俺の魔法って結界なんて見ることできたっけ?魔法を切ると黒いドームは見えないんだから、結界が見えているんだろうことは間違いなさそうだ。結界というものの詳細は分からんが、存在の有無が分かるだけでもアゲアゲですよね?


黒い霧のようなもののなかにある家に入ってまた椅子に座る。テーブルを挟んで向かいに座ったのは先ほどの中年ドワーフともっと年老いたドワーフの二人。お偉いさんかな?やはり年齢由来の威厳とでもいうものって大事だよね。俺も正直年配の人には弱い。なんとなく敬いたくなるんだ。前世の教育の賜物かな?でもいまはそれが邪魔にもなるんだけどさ。


さてどうなることやらと思っていたが話はスムーズに、そう、ソフトクリームを機械から搾り出すように滑らかに進んでいった。もうちょっと抵抗というか摩擦的なものがあったほうが楽しそうだったが残念だ。結局俺はアダマンタイトのとれる場所を提供し、魔道具3つを譲りうける契約を交わすことができた。


「これで契約は終了だ。ここからは細かい情報の売買をお願いしたいのだがどうかなキーン殿?」


「ええ。もちろんですよ。答えられることならば。どうぞ」


「それでは聞きたいのだが、あなた達以外にこの情報を知っている者はいますか?もちろんあなた達の知る範囲で構いません」


「私の知る範囲ではいません。正直私もここに来る途中に気がついたんですからね。いえ、情報として知ってはいましたよ?でも確信できたのは砂漠で現物を見てからでした。ドワーフの皆さんが知らなかったというなら他に知っている者もいないのではないでしょうか」


「ここに来る途中・・・砂漠で・・・そうですか。あなたはつまり魔法でと言っているも同然ですがそのあたりは?」


「ご想像にお任せします。ただ要らぬ憶測を重ねて不安を溜め、あなた達が我々を洗脳するだとか、その他何かしらの方法で我々を害そうとしてくるとか、そんな心配はもちろん・・・してますよ。しかしね。私は若造らしく飛び込んでみました。伸るか反るかはもう少し先の話ですね?ただ私のこの首輪を見てください。焼印のこともご存知ですよね?私はね。そういう人間なんですよ」


「大分話が逸れてしまっているようだが、興味深いですな。そういう人間とはどういうことですか?ワシはもう年寄りですがな。あなたの言葉はなかなか新鮮だ。ぜひ聞かせて欲しい」


「自分が何者なのかを他人に聞いてもらえるなんて、それはとても素晴らしい機会ですね。人間だれだって自分のことを知りたいと言ってくれる人を嫌いにはなれませんものね。もちろん私もぜひ話したい・・・と言いたいところですが、残念です。それはまた別の機会にお願いします。すみません。話題を戻しましょう。余計な話ばかりで申し訳ない」


「では。魔道具についてです。あなた方一族のことはそれなりに知っているつもりですが、あなた方の年齢で斯様に重要な情報が教えられているとは思いませんでした。許可証にも特別な点はなかった。どこで知りましたか?キーン殿に至っては元奴隷だったのでしょう?」


「それはお答えできませんが、大体予想がついてるんじゃありませんか?多分それで合ってると思います」


「あなたはそれがどれ程危険なことか分かっていて話をしているようだが・・・死に場所を探しているんですかな?ワシ等はあなた方一族との争いなぞ、大した問題とは考えていませんぞ?あちらさんも同じ認識のはず。ワシ等とことを構えるぐらいなら若者の二人や三人の命なぞ犠牲とも思ってないでしょうな」


「私もそう思いますよ。危険だというのも分かります。でも私はそんなに心配していないんですよ。ダメならダメで結構。死ぬだけです。拷問は嫌ですけどね。でも今まではずっとそんな感じです。死に場所を探しているなんてことはなくてね。俺は生きる場所を探しているんですよ。そうやっているうちに死んでいくんだろうと思ってます」


「若さかな。個人的には残念だと思う。が、あなた方をどうこうするつもりは今のところない。アダマンタイトにはそれだけの価値がある。契約通りに事が運ぶことを祈りましょう。それがあなた方の価値にもなる。しばらくは一層に留まっていただきますよ?」


シュラーは俺の後を引き継いでドワーフとの情報交換、売買に励んでいた。俺とは違って好感触と言ったところのようだ。こういう時のシュラーは人当たりがいいもんな。


チャンネリは眠そうにしていた。こいつ戦闘要員なんだろうけど、浅黒君一族のくせに情報とかには一切興味ないのかな?一層に戻ってからは特にやることもないので、大好きなだらだら生活をしようとも思ったが、剣の練習を毎日続けている。やることあったわ。


最初は宿の裏にある庭みたいなところでやっていたが、チャンネリが道場のような場所を見つけてきたので、頼んで訓練に加えてもらった。


チャンネリは腕を認められ、ここでは大人気だ。俺はというとパワーで押し切られて負けることが多く、道場のほぼ全員から下に見られている。


ちなみに魔法は使っていない。周りも誰も魔法を使っていないと思う。「気配察知」はもう大分前から24時間発動しているのが当たり前のようになっていたが、訓練の時だけあえて切っている。俺の剣は魔法ありきで真価を発揮するとはいえ、自力を上げたいならやっぱり魔法はなしだよね。


シュラーとは半ケンカ状態が続いている。俺の独断専行が許せなかったようだ。気持ちは十分わかるよシュラー。我慢しなくていい。ダメならいつでもバイバイしようぜ。そして待つこと1ヶ月でドワーフ達に呼び出された。


「キーン殿。結果が出ました。あなたの情報通り砂クジラの腹からアダマンタイトが出てきましたよ。若いクジラからはごく少量しかとれませなんだがまったくゼロというものはありませんでしたな。目が覚める思いですよ。まさか砂クジラが鉱石を食べて体のなかに溜め込んでいるなどと。狩る労力はかかりますが、手に入るものを思えば文句を言う者もいない。久しぶりに皆が興奮しておりますよ」


「それはおめでとうございます。こちらとしても嬉しい結果が出ました」


「しかしキーン殿。この結果が出てしまえばやはり疑問なのはあなたとの契約内容だ。魔道具は門外不出ともいうべきものなれど、手に入れる術がないわけではない。アダマンタイトをまとまった量運んでくれば、ワシ等は取引に応じたかもしれぬ。だがあなたは鉱床とも言うべきものを取引材料とした。理由を教えてもらえまいか?」


「俺の口から言わなくてもわかっているでしょうが、あえて聞きたいと言うならお喋りに付き合いますよ。砂クジラは狩ろうと思えば狩れるでしょう。砂漠はあなた方ドワーフの領土とはいえ、砂漠での狩りを禁止しているわけではないから我々が鉱石を手に入れることに障害はない。でもそんなものいつまでも続くものではありませんよ。俺はあなた方と事を構えたくない。負けるのは分かっていますから。だったら不利な取引でもあなた方に恩を売っておいた方がいい。そういうことです」


「なるほど、よく分かりました。利害は一致していてあなたは十分な結果を示した。あなた方を殺めてしまえと、あるいは囲ってしまえという声はあるんですよ。しかしそれは抑えましょう。ワシから王に直接伝えます」


「まさかその労をもって借りを返したなんてことはないですよね?」


「どうでしょうな。命を失わず、魔道具を3つ得て外に出る。これは並大抵のことではありませんがな。契約云々はあなただってお分かりのはずですよ?そんなものに命を縛る力はないと」


「そうですか。分かりました。魔道具を下さい。貸し借りなしで我々はここを去りますよ」


「それがいい。あなたはまだ若い。世の中はあなたの知らないことで溢れていますよ。ワシ等にしても同じことが言えますがな。勉強してまたいらっしゃい。もう一度言っておきますが、ただの冒険者程度の存在が魔道具を持って無事に外に出るなんてここ数十年はなかったことですよ。外では十分気をつけなされ」

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