第111話 夜はいつでも味方です

西門まできたものの門の外で騎士連中が待機中でした。この感じだともう四方の門は押さえられていると見るべきか。こいつらマジで何しに来たんだよ。狙いが分かればなぁ。奴隷に手を出すつもりがないなら無理に逃げる必要もないんだけど・・・。


まぁこのままこの町にいたら殺されなかった場合でも奴隷のままだし、こんな派手に反乱起こしといてお咎めなしってことはないよね。となると結局はここから抜け出すしかない。あの騎士連中が町の制圧に乗り出すときでも見計らって上手いこと外に出れるか?いや門の押さえに人を残すだろうなぁ。


ヤツラは外に出ようとする人間を一番警戒しているはずだ。町が派手に燃えていなければ闇に隠れて脱出できそうなんだが・・・。どこかで外壁を越えて降りるしかないか。


「呪われろ!奴隷の分際で!この虫ケラ共!」


「ハッハッハッ!漏らしながら格好いいな!お前は奴隷に決定だ!」


ここらはまだ盛り上がってますなぁ。奴隷も門の付近を押さえているけど、まさか外に騎士がいるとは思ってないだろう。ボーナスタイムはあと少しっぽい。お前ら出来るだけ楽しんでおけよ?


西門から外壁沿いを北に走ってみる。物見用に階段がついているので壁を登るのは出来るが降りるのは高くてちょっと無理。


ロープを結んで降りるしかないんだけど、片手だとしんどいんだこれが。とはいえ是非もなし。魔法で空家からロープを探してすぐにゲット。鬼便利な僕の「気配察知」君。外の動きに注意しつつ外壁の突起にロープをくくる。


うん。まあいけるでしょう。片手で降りるのがまたこわいな。はぁやれやれ。騎士の突入を待ってロープ降下を開始するとしよう。


外壁の上から町を眺める。中心部と衛兵宿舎の辺りが一番燃えているな。魔法で燃やした場所か。中心から外に向かうに従って燃えている箇所はまばらになっているが、何箇所かはやはり派手に燃えている。これぞ地上のファイヤーボール地獄。


民家の密集地帯はもう燃え尽きそうになっている。木造はバンバン燃えますな。それにしても今日で奴隷はどの程度増えたことやら。死者もかなりの数だろう。


外のヤツラはこの町を、というより奴隷化住民をどうするつもりだろうか。戸籍を管理していたとしてももうそんな資料は焼けていそうだから確認するのはかなり根気がいるだろうし。


いちいち確認しないで全員奴隷として処理する予定なのかな?このタイミングで町を囲んでいるような連中だ。外国の勢力ということはあるまい。


国内のどこかの町から来てるんだろうからあまり勝手も出来ないはずだと思うけど・・・いやいやわからんぞ。最初から奴隷の補給をするために根回し済みで動いているのかも知れない。


町の方は一度潰してもまた時を置いて再建可能だ。奴隷も大量に増えたことだし損より得が大きいって考えも出来る。あーあ。こんなこと考えても無駄か。


うん?ちょい待ち!騎士を何人か殺して反応を見てみるか?ハハハ。それも楽しそうだな。またスリル一杯の鬼ごっこをするのも悪くない。馬もパクれるだろうし、一石二鳥ってやつだわ。まぁやらないけどね!


返す返すも森が無いのが痛い。外に出てもこの広い荒野いっぱい、大した遮蔽物もないのであるからして、あんまりうろちょろしてると攻撃魔法をぶっ放されて命を儚くするのが目にみえている・・・か。


逃げるのはいいとして、地理がよく分からないのは致命的っすわ。じいさんや他の奴隷にも聞いてみたが結局隣の町はあっちにあるよレベルの話で終わっちゃったからね。


のこのこお外に出たはいいけど水がなきゃアウトだし、川を探すって言ってもなぁ。とりあえず見渡す限りの荒野なんだぜ?やはりお馬さんが欲しい。パッカパッカしたい。騎士殺しはやらないにしても、連中の動きをもうちょい追ってみるか。


外壁の外はかなりの暗さだ。騎士連中は明かりをつけていないしこのままなら奇襲はできそう。やべぇ。実現可能な画が見えちまったらやりたくなるじゃないか。


俺の魔法は夜でも昼間のように見ることができる。3Dマップで視界を補完できちゃうのだよ。っていうかぶっちゃけ目を閉じていても・・・目なんてなくても見えるはず。有効範囲内なら見えないものなんてないんだぜレベルだよマジこれ。


騎士様、早く動かないかな。待機してるってことは奴隷化が完了するのを待っているんだよな?この国の治安が心配にもなってくるな。この町は安定してたが、町同士でいがみ合って都市間戦争みたいなことやっているとしたら気軽に移動もできなくなっちゃうわ。


考えてみると不安材料がいっぱいだな。そして喫緊の問題はこの首輪だ。こんなお茶目なものしてたら注目度が青天井だもんよ。どうする?どうしたらいい!俺は・・・どうすればいいだよ!


なんて深刻なふりして実は今の俺はハッピーマン。鞭で何度も殺されそうになって、空腹に苦しみ、体調が悪くても働かされ、子供に石を投げられても文句一つ言えない。毎日毎日なんの希望も目的もなく働くだけで、何の甲斐も張り合いもない。そんな生活から抜け出せたんだ。首輪なんて些細なこと。


この二年ほどで忍耐をおぼえたよ。諦めの中で感情が乾いただけとも言えるから、これから先も我慢強くいけるか?と聞かれると答えはノーだけどさ。


およよ?騎士に動きがあるな。そろそろか?これからは奴隷によるゴールデンタイムが終わり騎士の無双タイムに移行か。連中が松明に火をつけた・・・門を開いて・・・突入!


ハハハ!なんだありゃ。奴隷と一緒に住民まで吹き飛ばしたぞ?町を救いに来たんじゃないのか?奴隷だって収穫しに来たんだろ?こりゃ傑作だわ。思わず声を出して笑うところだったぜ!


奴隷は二の次で町の制圧がメイン?あぁ面白いわ。予想なんて全然当たらないな!悲劇に悲劇を重ねて、最高の喜劇になり始めたわ!


さてと、俺は俺でお仕事しないとね。門の外に残った騎士は三人。微妙だなぁ。魔法使いが一人でもいたら勝ち目はない。魔法使いがいなくても無理か?ちょっと強がっちゃったよ。


弓でも使えれば・・・左腕さえ無事であれば・・・なんてたらればを言い出すとミジンコ野郎になっちまうな。はぁあ。


とりあえず下に降りよう。短剣を背嚢に上手くさしこんで固定してと。片手にもある程度慣れたとは言え、こういう時は不便極まりないっす。


筋肉痛になるなこれは。こんな場面で筋肉痛の心配するなんて・・・俺も図太くなったもんだ。いや元からか?ふぅ、無事地面に着地。騎士を殺したい願望がどんどん湧いてくるのは困ったもんだ。


町の住民とか町長にはそんな衝動をおぼえなかったのにどうしてだろう?ちょっと状況が好転したらすぐまた面倒くさい方へ突っかかっていきたくなっちゃうんだなこれが。まぁ今はまだ我慢しよう。


アバヨ、平和ボケして奴隷にされたアホ共!そして人間以下たる奴隷に真っ黒に焼かれた素敵な町!お願いだから誰も追いかけてこないでね?

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