第110話 流れ解散

「殺せ殺せ!次も殺せ!その次も、その次も!次だ!殺せ!」


「やめろ手前ぇ!やめてくれ!頼む!やめてください!ギャア!」


「お嬢ちゃん!奴隷になったな!ギャハハハハ。なぁこいつの顔見てみろよ!泣いて喜んでるぜ!まだまだ楽しもうや!夜は長いぜ!ギャハハハハ!」


「なんてことを!殺してやる。お前ら絶対に殺してやる!呪われた畜生ども!グボッ!オエ!くそ・・・」


「もうこの家はいいか。燃やそうや!全部燃やすんだ!酒持ってねぇか?食って飲んで燃やしてあったまろうや!」


あちこちから悲鳴や叫び声が、ハイになった奴隷達のアホな怒鳴り声が聞こえてくる。建物燃やしまくってるけど大丈夫かこれ?逃げるのにお馬さんとか欲しいんだけどなー。俺のお馬さんを焼き尽くさないで欲しい。


鍛冶屋の件は失敗に終わったよ。人が捌けたところで店の主人が逃げる前にダッシュして突入してね、短剣で脅しながら首輪を外せと脅したが答えはノー。短剣で頬を軽く撫でながら機会を与えたがふーふー唸りながら罵声を浴びせられた。


意地ってやつだな。よく分かるよ。俺も奴隷にまで落ちたがプライドをドブに捨てたりはしなかった。こういう風になったらもうダメだなとさっさと首筋を切って始末し、奥に隠れていた家族も仲良くあの世へ送った。


首輪が今のままだと逃げてからの面倒臭さがエンドレスなんだけどな。ハハハ、しかしもう逃げ切れることが前提で話をしちまってるなんて・・・クソ、首輪はもう諦めるとしてももう少し様子を見るしかないか。


とりあえず他の奴隷と合流してこの後のプランを知っているヤツを見つけることにする。じいさんに直接会うのはやめておこう。


町の南門まで到着。奴隷の集団が検問しているのか?結構な数の死体と焼印を押されてぐったりしている元平民、元人間様の姿が見える。


「よぉ。あんたらはここで仕事か?」


顔見知りの奴隷に声をかける。


「お?お前か。そうだ、外に出ようとするバカも結構いるからな。見ろよ。かなり稼いだぜ。お前は何してるんだ?」


「俺は飯食って、首輪外そうと思ったんだけどな。ダメだったわ。なぁこの後どうするか何か知ってるか?」


「この後なんかねぇよ。死ぬまで好きなことやって終わりだ。オイ!こっちにも酒くれや!あ?もうねぇの?じゃあいいわ」


おいおい、マジかよ。よくそんなんでこんなこと始めたな。って状況が状況だからやるしかないってことか。じいさん、何年も温めた計画なんじゃなかったの?こいつら的には最後の晩餐を楽しめればいいやってことなのか?いやそんなはずない。


「なんだそりゃ。じゃああんたはここで死ぬつもりか?」


「それも悪くないなぁ。ま、夜が明けたら逃げるつもりだけどな。それまでは楽しまないと。こんなのも二度とないぜ?おいあそこ!お客さんだ!男も出来るだけ殺すなよ!すぐ殺しちゃダメでしょ!俺達の奴隷をもっと増やそうぜ!酒だ!酒!」


逃げる住民を捕まえに行ってしまった。ふむ。こんなもんか。確かにこんなことは二度とないだろう。俺としてはもう迷うことなき逃げの一択となったな。じいさんが何を考えているかを確認するには時間が足りない。


とりあえずこの町の住民を奴隷化するまでで目的達成ってことかもしれないし、それによって数十年育てた復讐心は慰められたかもしれない。そして夜明けとともにどこかの騎士なり魔法使いが来て俺達は全滅。


よし、またまた考え直してじいさんを探そう。一度話しを聞いておきたい。何かがあるかもしれないと期待する俺の甘ったれ根性が出てきてしまった。


「おーい、あんた!じいさんどこにいるか知ってるか?」


「おう!東門の方にいるはずだぞ!」


「分かった!行ってみる!」


真っ黒にこげた死体。口から剣を刺し込まれた死体。四肢を切り取られたり、無数の切り傷を負った死体など吐き気がする光景が広がるなか東門へ向かって走る。殺し方も色々だな。拷問を楽しんでるやつもいるんだろう。やりたくなる気持ちは分からないではないな。


大分動くものが少なくなってきた。家の中で隠れているヤツもまだまだいるようだが、そっちは時間の問題だな。状況が分からないから、とりあえずじっとしてれば騒ぎが収まると思ってるんだろうが・・・ハハハハハハ。まぁすぐに死んでいったバカよりましか?ハハハ。でも残念でした。俺の魔法で捉えた分は近くの奴隷に居場所を教えてあげたよ。お客様を待たせちゃ悪いからな。


いまは夜のど真ん中。この状態で町の外に出るなんて判断を下せるヤツはやはり少ないようだ。冒険者といえども装備もなしではお外は無理だよね。奴隷の死体もあるが、冒険者のものもちょろちょろ見かける。ん?建物のかげに衛兵か。ひとりで待ち伏せ?ハハハ、ゴキゲンじゃねぇか。


待ち伏せをかわして回り道をし、衛兵の背後をとる。うむ。こちらに気付いている様子はない。「気配察知」を対ひとり用に切り替えてゆっくり忍び寄る。道の方に集中しすぎだぜ旦那?背中ががら空きでさ、まるで斬ってくださいって言ってるようじゃないか。革の鎧を着ているから念のためアキレス腱の辺りをぶった切る。


「っつ!くそ、誰だ!」


振り向きざまに剣を振ってくるが余裕で回避。見えてる見えてる!腕を斬って剣を手放させ相手の攻撃力は急降下。対人戦闘が楽しくなりそうだ。


「子供じゃないか!やめろ!」


「やめろ?かわいいこと言うじゃねぇか。甘ったれた女かお前は?」


あぁもっといたぶってから殺したくなるがここは感情を抑えなければ。こんな雑魚に時間を使うのは勿体ないし、またひとりで盛り上がって調子に乗って不幸行きの一本道に嵌ってしまいたくもない。


「見逃してくれ!金ならあるんだ。ほら!どうだ?頼むよ。見逃してくれ!」


首を狙うと相手は腕で頭の辺りをガードする。という画が見えているのでその流れからまた足を斬る。体勢が崩れたところで改めて首を刺して試合終了。命乞いはさらっと無視が一番だよね。


うーん。やっぱり対人戦は難しいな。俺の力がまだまだ弱いのもあるが思ったより始末に時間がかかってしまった。奇襲してるんだから一撃必殺ができないとなぁ。


衛兵の剣を拾ってみるがやはり重い。こりゃダメだ、俺には使えん。短剣についた血を衛兵の服で拭う。水を飲んでまた走りだす。


東門に近づくにつれてまた死体や焼印を押されてぐったりしている人の数が増えてきた。奴隷の動きもちらほら見える。


「なぁ。じいさんどこにいるか知らないか?」


「坊主。お前か。じいさんなら外壁の上だ。外から敵が来ないか確認するってよ」


「おぉ、ありがと。じゃあね」


東門が見えた。「気配察知」にもじいさんが引っかかった。あれれ?じいさんは誰かとおしゃべり中か。奴隷の方は知ってるヤツだが、向かい合ってるのは・・・噂の商人さんだなこれは。


魔法使いを連れて逃げる算段か?こんな火事場に飛び込んでくるなんて商人さんも随分仕事熱心でいらっしゃる。しかもじいさん達はもう首輪を外しているじゃないか。身体強化でどうにかしたのかな?うーん。どうしよう。ここで出ていっても歓迎されないおそれがあるし、厄介事が待っているかもしれない。


読唇術でも使えれば会話の内容もわかるんだが・・・。相手に身体強化野郎がいる以上、下手に近づきたくもないしなぁ。


おっとぉ。これは・・・どこぞの騎士か?完全武装じゃないか。ってことは魔法使いもいるな。あの騎士自体が魔法使いかもしれないし。


結局この大運動会の主催者はどこかの国なり貴族勢力だったってことか?じいさんは奴隷の魔法使いを連れてあちらさんと合流で、残った俺達は鎮圧という名の皆殺しになるのかな?


余計な証言者を残すわけもないだろうからな。オッケーです。まぁ大体こんな感じで合ってるだろう。予想が全く外れていたとしてもこれでじいさんとの合流はなしだわ。


そして騎士がもう出張って来てるならとっとと逃げるしかない。首輪がどうとか言ってる場合じゃねぇわ。


しかしもう四方囲まれているのかな?とりあえず西門からの脱出が出来ないか試すか。住民にまぎれて逃げることが・・・できるわけないよな。どうする?囲まれていなくても見張りがいればすぐ捕まっちまうぞ?


荷物は少し捨てよう。水をもう少し多めにして・・・あとは「気配察知」を頼りに隙間を縫って・・・。あぁ森でもあれば逃げ込めるのにさ!周囲は見渡す限り枯れた大地。これ完全に逃げるタイミングを間違えたっぽいな。


盛り上がった大運動会も流れ解散で終了か。後は主催者が大会の参加者から参加費を徴収にくるって寸法。タダより高いものはないってね。それでも一生奴隷でいるよりは遥かにマシだ。じいさん、そして奴隷のみんな、祭りは楽しかったよな?ここで死んだとしても最後は楽しい思い出に包まれて死んでさ・・・悪い人生じゃなかったってさ・・・楽しかったんだ。それでいいよ。それじゃあ・・・解散だ!

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