第109話 大量生産

しかしじいさんもいきなりぶっ壊れたなオイ。いや、運動会参加組のヤツラは多かれ少なかれテンションがおかしい。というか異常だ。溜め込んでいたものが一気に爆発したな。


目の前で自分より幼い子供が呻き苦しんでいる姿を見ても全く心が動かされないことを考えれば、俺も十分おかしいのかな?前世基準で考えれば間違いなく異常だろう。でもね、ここはそんな誰彼構わず権利を主張してそれが通るなんていう煮詰まったお花畑のような環境じゃないんだよ。


確かに俺も含めて奴隷達の興奮はタガが外れた感はあるけど、たまにすこしくらいワイワイやったからってそう目くじらたてないでくれと言いたい。俺達奴隷があたりまえのように押されている焼印を、ちょっとばかり幼い子供にもプレゼントしただけのことじゃないか。


そして結果だけ考えれば新たに奴隷が二人増えただけのこと。こんなものは日常の光景だ。取り立てて注目する価値もない、極々平凡な、どこに行っても見られる光景。違う所があるとしたらその二人の立場が俺達奴隷のさらに下になったというぐらいのことかな?つまり奴隷の奴隷。もうこうなると身分の差がどうなってるのか分からなくなっちゃうよね。


じいさんは町長の横にぴったりくっついてニヤニヤしながら何やら耳元で囁いている。そのたびに町長は鬼の形相で意味不明な言葉をわめき散らす。他の奴隷達はその様子を笑いながら満足そうに見ている。


お?首輪も用意してあるのか。いいね。やっぱりこういう細部までこだわらないと締まらないもんな。奴隷が囃し立てるなか子供二人に奴隷の首輪がつけられた。また歓声が上がる。


町長は唾を飛ばしながらまた喚き始め、じいさんは笑いながら町長の腹に蹴りを入れ黙らせる。壊れた玩具みたいにその繰り返しだ。婦人の方は・・・あーあー、裸にされちゃって、こりゃ子供の教育にはよくないね。


「さぁ、あなたの子供はもうワシ等と同じ奴隷になりましたよ?町長様?どんな気持ちですか?ハハハハ。なんですって?何言ってるのか聞き取れやしない。そう怒鳴らないで下さい。また蹴られたいんですか?そうなんですか?さてお次はお待ちかねの奥様です。とっとと済ませてみんなで楽しみましょう。いやもう奥様はすでにお楽しみのようですけど。ハハハ!」


町長婦人にも熱々に熱した赤い棒が押され、奴隷の首輪が装着された。泣き叫びながら許しを乞おうが当然そんな願いは叶わない。むしろこちらを喜ばせるだけだ。婦人が叫べば叫ぶほど奴隷達は興奮して盛り上がっていく。。


それに今更謝罪なんかして我々と意思の疎通を図ろうなんて。そんな・・・奥様・・・とてもとても。ハハハ。できるわけねぇだろハハハハ!どこをどう考えたら見逃してもらえるかもなんて考えが浮かんでくるんだ?面白いヤツラだなぁ。


町長婦人が自殺なんかしないように口のなかに布を詰め込まれてさらに口のまわりが縛られる。婦人もすっかり奴隷に落ちたわけだし、これからは奴隷同士お互い親睦を深めなきゃねってことで、また裸の付き合いが再会された。新入りなんだから先輩のために体張らないとね。


「町長様?顔色が悪いようですが大丈夫ですか?家畜に指を噛まれて恥ずかしくて怒ってるんですか?餌はちゃんとやっていたのにご主人様の指を噛む犬がどこにいるって話ですか?違う?ではなんでしょう?生憎貴族様のお話はワシ等奴隷には難しくって分かりません。所詮ワシ等は家畜以下の存在ですから。こういうこともしてしまいます」


婦人は町長と子供の前に引きずられてきて、家族の前で肉体労働を開始。あらら。お母さんのお仕事を子供にもしっかり見せようと優しい奴隷が子供の頭を押さえつけて目を開けろと怒鳴っているよ。こりゃもうグレちゃうな。子供は。でもやっぱり仕事はしないとね。子供達にはこれで労働の大変さを是非学んで欲しいな。


「さぁ、町長様。あなたの番ですよ。もうあまり時間の余裕がないのですぐに終わりますよ。実際あなたは町長としてはまともな方だったんでしょうからね。ワシ等だって悪魔じゃない。同じ奴隷に落ちた者まで殺そうとは思いませんよ。ただ順番は守らないとね?貴族様ならその辺のルールはわかりますよね?順番なんです。次はあなたの番だ。順番は最後まで守らないとね!賢い町長様?ハハハ!」


町長にも焼印と首輪がセットでプレゼントされ奴隷達の興奮はピークへ。そしてなんとなく全体的に、少しずつだが誤魔化すことの出来ない重たい雰囲気が流れ出した。僅かながら落ち着きを取り戻したじいさんは大会参加組に向けて大声を張り上げる。


「皆聞け!ここまでは計画通りだ!そしてここからが本格的な祭りだぞ!だが忘れるな?衛兵も冒険者もまだまだいる。夜が明ける頃には隣の町から応援くらいくるだろう。それまでに一人でも多くの奴隷を増やすぞ!分かったな?ではワシ等の祭りを始めるぞ!手当たり次第奴隷に落とせ!今までの恨みを全て返してやれ!」


奴隷に落ちた町長一家にはもうみんな興味がなくなったようだ。婦人は相変わらず奴隷の相手をさせられているが・・・まぁそれはそれ。大会参加組はまた五人組を作りながら町へ繰り出していく。


手には奴隷生産用の鉄の棒たる焼印と首輪を持っている。こんなに大量に準備していたじいさんの執念はすさまじいな。これ明らかにこの町に元々あったものだけじゃないぞ。数が多すぎる。知り合いの商人とやらに用意してもらったんだろうけど・・・とても金が足りたとは思えない。


魔法、武器、そして奴隷生産セットか。なるほど、どこかの勢力がこの町を狙ったという所か?そう考えれば、この支援の厚さにも納得が出来る。


国内のどこかの勢力か外国からの工作かは知らんが、もしこの予想が正解に近かったらじいさんのそばにいるのはやめておいた方がいいな。


俺が魔法を引き継いだこともその商人とやらには報告済みだろう。もしこの思いつきが正解だったらまたまた碌なことにはならなそうだ。正解じゃなくてもどっち道幸福な明日なんてものはないんだけどさ。


予想が全く外れていたとしてもまぁいい。じいさんは時間を気にしていた。何かあるんだろう。何もないわけない。最悪それに乗っかればいい。


どうやらじいさんは大会参加組以外の奴隷もこの種目から参加させるつもりらしい。何やら演説をかましてみんなを煽っている。事ここに至ってはかなりの人数が乗ってくるだろうな。大人しく奴隷長屋に待機していたところで祭りが終わった後に無事でいられるわけがない。


さぁ第四種目は町の住民の奴隷化か。目端の聞くヤツはもう町から逃げ出してるだろうしこれからどんどんその数は増えるだろうが、今は完全に夜の支配する世界。


魔物を恐れて町の外に出るのをためらう住民も相当な数になるだろう。外に出たところで安全な場所なんてないからな。首輪はともかく奴隷のしるしは確実に刻まれていくな。


衛兵なり冒険者なり他の戦力なりが残っていたとしても奴隷側の勝利は動かなそうだ。まぁどこぞに俺達の知らない凄腕の魔法使いが隠れていて、謎の正義感に燃えて狂ったようにこちらに攻撃を仕掛けてくる可能性だってあるけどさ。


いや、じいさん、楽しかったぜ。大いに笑わせてもらったよ。実のない笑いだったけど久しぶりに笑えたぜ。俺なりに恩は返したつもりだ。あとは個人種目でお互い頑張ろうぜ。じゃあな!


他の奴隷にまぎれて奴隷長屋から街中へと出る。魔法であたりを確認すると逃げ惑う人の姿がかなり増えたのが分かる。


既にところどころの家から火と煙が出ていて、叫び声や怒鳴り声が響き始めた。逃げる人を捕まえるヤツもいれば、そのまま切り捨てるヤツもいる。


俺は「気配察知」を頼りに人がいなくなった家を探し、とりあえず休憩することにした。水を飲んで食べ物を食べ、落ち着いたところで服と金目のものを漁り、次の家へと移動。また金目の物を探す。


火の手がどんどん広がっている。夜なのにだいぶ明るくなったもんだ。少し見渡せば道には死体がいくつも転がっている。そしてそこら中から叫び声が聞こえる。残念だったね。自分が奴隷でなかったことを後悔しながらもっと苦しんでね?


荷物にならない程度の金目の物を集めた俺は、次の目的地へ急ぐ。さっきもちらっと考えた通り想定外の存在とはどこにでもいるものである。この町の住民はほとんどが人族だが、人族以外が全くいないわけではない。


数は多くないけど、そういう連中は魔法使いの可能性が結構高い。危険を察知してさっさと逃げている可能性もあるしそうじゃない可能性もあるから何とも判断に困るが、敵対されたら間違いなく厄介な存在になる。


じいさん達もその辺のことは分かっていただろうが、あえて話題に出さなかったんだろうな。下手に手を出して刺激するのもよくないしね。


という訳でイレギュラーなことが起きる前にこのカオスな状況から抜け出したい。抜け出したいがその前に事前に聞いておいた鍛冶屋へ向かう。そこの主人は人族のはずだ。ドワーフなんていたら遠慮しているところだが、人族なら問題ないだろう。逃げるにしてもこの首輪をどうにかしないと後がきついからな。


鍛冶屋の近くまで来たところで、もう逃げちゃったかな?と「気配察知」で周囲を確認。おっと!人が結構いるぞ。なんだ?武器を配っているのか?あぁそりゃそうなるわな。


空家に潜り込み少し様子を窺うことにしよう。人の出入りが激しいからすぐに物がなくなってどこかへ行くだろうし。


今は奴隷達が一方的に暴れていてまともに戦っているような声は聞こえないが、じきに戦闘が始まるかもしれない。やれやれ。ここらで服を着替えてしまうか?パッと見、奴隷じゃなくなるが・・・まぁ、どうにでもなれ!


長いようで短かった大運動会もいよいよ大詰めってところだ。最終的に誰が勝つのか、現時点では奴隷チームが優勢だけど・・・どんでん返しがあるのかな?ハハハ、まるで他人事のようじゃないかキーン。これはよくない兆候だぞ?俺はいつだってこうやって失敗するんだからな。

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