第88話 ヤツラの棲家

ダンジョン監視中の騎士様とやらに挨拶に向かう間にサーゴとロンダには聞きたいことがたくさんある。


「ねぇ、そのダンジョンって僕一人でアタックするの?」


「いや、父さんと母さんも一緒だ。だが安心するなよ?俺達は普通の人間だ。魔法は使えないからな?」


「つまりジタクちゃんが一人でアタックするようなものね?もちろんフォローはするけど、荷物持ちや倒した魔物の搬送くらいかしらね」


んだよそれ!使えねーな。一体暗部のおじちゃん達は何を考えてるんだ?あいつらのなかでは俺って文官学校にいたもやしっ子のはずだよな?俺まだ完全に子供だぜ?魔法があるからどうにかなるでしょ?ってことなんだろうけど・・・正気を疑うな。


「普通の冒険者に依頼は出来なかったの?騎士様だっているんでしょ?その辺どうなってるの?」


「あー。それな。歴史のあるダンジョンならちゃんと管理されてることは知ってるだろ?でも今回のは最近見つかったものでな。いきなり地面に穴が開いて魔物が出てきたらしい。慌てて調べてみたらまだ出来てそう時間も経っていないダンジョンだと分かった。ならば手に負えなくなる前に潰してしまおうとしたんだが」


「なんとびっくりそこはスライムの王国だったのよ!ジタクちゃん、スライム知ってるわよね?」


そりゃもちろん知っている。恐怖の大王ことスライム先生を知らないやつは少ないからな。スライムの王国とはな。夢と希望のネズミランドじゃなかったか。


「やつらは剣で斬っても、ハンマーで潰してもなかなか死なない。弱点はもちろん魔法攻撃。だからだ。空いているジタクがそこに充てられることになったんだ」


「騎士様だって、冒険者だって魔法使いはいるでしょう」


「あぁ、だがスライムの巣に行きたがるやつはそうそういない。その他諸々を考えてのジタク投入だ。ちょうどいい時に来てくれたな?息子よ」


「いやいや、僕の魔法のこと聞いてるんでしょ?攻撃魔法じゃないよ?」


「それを私達に言われても知らないわ。でもこれから一緒に考えましょ?ジタクちゃんならできるわ!ママ信じてる」


だからあんたママじゃねぇし。何を根拠に信じてるのかも謎だし。いったいこの二人はなんでこんなに楽天的なんだろうか?過去にどうしようもなく辛いことでもあったんだろうか?その反動なのか?


ってかあんら一体誰なんだよ。宰相あたりの私兵なのか?ただの雇われ冒険者?俺についての情報を聞かされる程度の立場はあるみたいだが・・・それってつまりどの程度の立場?あぁ、例によって例の如く何も分からん。


北のドンパチ具合とか気になることは他にもあるのに次から次へとモヤモヤしたものが溜まってくるな。全部放り出して開き直れれば楽だろうけど、そんな性格でもないしさ。


今は実害がなければいいと思うことにしよう。とにかく体がダルいんすわ。まだ体調戻ってないんすよ。スライムの話を聞いてからダルさ増し増しだし。


ハァハァ言いながら二人に付いて林のなかに入っていく。魔物は大丈夫なのか?二人は多少警戒しているようだがどんどん進んでいく。林に入って10分も経っていないだろうところで、少し視界が開けてきた。


さらに少し歩くと人の姿が映った。あそこがそうか。ダンジョン入り口の周りの木を切り倒して視界が通る空間を確保しているようだ。


人の数も思ったより多いな。十人はいる。全員人族のようだが、騎士ってことはお貴族様か?それは嫌だな。立派な革の鎧を着ている。金属プレートで補強もしてある。盾もお揃いか。金があっていいなオイ。


サーゴとロンダは何気なく騎士の集団に入り込んでいく。大丈夫なの?って感じだが付いていくしかない。騎士達は分かっているようでこちらを見ても何も言わない。


「サーゴ殿!」


声のした方を見ると、ひときわ体の大きい騎士が嬉しそうに笑いながら両手を広げている。サーゴ殿?殿?


「セロー様!」


父上様ことサーゴは相手の騎士と同じように両手を広げて笑顔で前に進むとそのままガッチリとハグをした。サーゴは実は貴族とか?そんな貴族野郎の容疑がかかったパパが俺をセロー様に紹介する。


「はじめまして。ジタクと申します」


と簡潔に挨拶しておく。ロンダはテンション高めで私の息子なんです!なんて言っている。サーゴと親しいなら俺が本当の息子じゃないことは分かっているはずだ。ロンダが妻ではないことも分かっているようだし。まぁ事前に情報は得ているだろう。


「キミが今回の主役ってわけだな?ふむ。子供だが・・・期待しよう。力さえ示せばな、なんでもよい。ダンジョンの外のことは心配無用だ。キミは好きにダンジョン攻略をするといい」


「ありがとうございます。セロー様」


どうやらこのセロー様がここの責任者のようだ。サーゴはセロー様と話があると言って二人で歩いて行ってしまった。


「じゃあジタクちゃん。早速ダンジョンを見に行きましょうか」


この広場ともいうべきスペースの中心部に円形に作られた柵。この内側にダンジョンの入り口があるのだろう。二人で柵の出入り口にいる門番に話しかける。


もともと承知していたようで、あっさりと柵の扉を開けてくれ内側に入れた。入れたけど・・・ロンダさんよ、あんた何かアイデアあるのかな?目の前の地面には結構大きな穴が開いている。これが入り口か。


「ねぇ母さん。何かスライムを倒す方法思いついたの?」


「大丈夫よ。入り口からちょっと見るだけだから。ジタクちゃんも回避くらいはできるでしょ?」


いや。体調悪いんで無理です。注意力も散漫になってますと言っても無視された。こいつの耳はどうなってんだ?過去にどうしようもなく辛いことでもあったんだろうか?その反動なのか?・・・ふぅ、これも2回目だな。


「なるほどー。人が入るスペースはなんとかありそうね。どこまで入れるか確認しないとだわ。最初に調査が入っているはずだから入り口付近は分かるはずよね」


ロンダはぶつぶつ言いながらダンジョンに入ってしまった。マジか。こわいもの知らずってレベルじゃないぞ。明かりだってないんじゃないのか?


「ジタクちゃんも。ちょっといらっしゃい。はやくー」


おばさん勘弁してくれよ。自業自得だとしても、あんたが魔物の餌になるところなんて見たくねぇよ。


「母さん。無理だよ。ちゃんと状況を整理してから行こう」


「ジタクちゃん!いたわ!スライムよ!早く早く!」


ジタクちゃん!じゃねぇよ、まったくさ。「自宅」の荷物はここに置いていかないとな。それまで死なないでね?お母様。

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