第48話 靴買った

新しい靴買っちまったよ。お金はちょっと減ったけど元気百倍!なんとかマン!

いくぜ相棒、両足はお前に預けた。やる気をだせよ?よし、さっそく行こうぜ。もちろん馬車で!


おい相棒、拗ねてんのか?俺だってお前をフルフルで使ってやりたいけど徒歩は無理だよ、徒歩は。だって遠いんだぜ?すごーく、遠いんだぜ?


お外には魔物とか盗賊みたいなこわい人達だっているんだからさ。ここはこらえてつかーさい。俺とお前はいつだって一緒なんだ。お前ならわかるだろ?


オッケー。馬車へ乗り込め!これが俺的自由への逃避行の始まり。乗客のみんな!見てくれ俺の靴を。新しいだろ?そう、そうなんだ。新しいんだよ。つまりそういうこと!理由なんて必要ないぜ!GO!GO!GO!そういうこと!


目的地は山方面。コラリオ王国は国土の南半分は山岳地帯だ。東のハンブルン王国を目指すなら北東のコラリオ王都を経由していくのが近道だが俺はあえて一度南に向かう。


山越えをしてハンブルン王国に行く計画だ。だってさ、山岳地帯には山の民とか言う人達がいるんだぜ!山の民だなんて、素晴らしくキャッチーなネーミングだよね!そりゃ会いに行きたくなるよ。


追手がかかったとしても山の方が対処しやすいしね。黒ずくめがまた来たら次は容赦しない。俺の中に眠るやばめの何かがただじゃおかないと言っている。まぁ殺せはしないんだろうけどさ・・・。


しかし山だよ。強力な魔物が多そうだな。あっさり食い殺されたらどうしよう。どうしようもないか。キーン少年の冒険が終わるだけだ。


そして俺はひっそりとこの世界から消えるだけ。なんか急にネガティブな気分になってきたぞ。体もまだまだ痛みがあるし、馬車でゆっくり回復できればいいけど、そんな乗り心地のいいものではないから疲労がたまる一方だろう。


マジだるい。やる気という名の燃料が急速になくなっていくのが分かる。これはいつもの症状だ。面倒くさい病という名の魔物が一匹。いつだって空腹のそいつは俺が調子に乗った頃を見計らってやってくる。人生は浮き沈みの連続。今は魔物の時間。やる気が失われていくをただぼけっと見ているしかない。


なんか帰りたくなってきたなぁ。帰るとこなんてないけど。やべーよ。帰る所がないという現実がさらに激しくやる気を削る。そして俺のやる気がマイナスになろうかというところで、近くから声がかけられた。


「君は一人か?」


エルフらしき女の人だ。エルフの女性は誰かさんのせいでいいイメージないんだよなぁ。美人ならばどんな性格でもいいなんて考え、俺にはないよ。


「そうです。貴方も一人ですか?」


「私も一人だよ。君は人族だよね?子供に見えるけど?」


「はい。人族で11歳のキーンと言います」


「私はオヤリエ。エルフで130ぐらいだったかな?年は忘れたがもうおばさんだ」


自虐ネタか?そういうのは困るよキミ。ただでさえネガティブモードのキーン君なんだからさ。


「キーン君は両親と一緒じゃないのか?子供が一人で長距離馬車に乗るなんて大丈夫なのか?」


「僕は孤児ですから。心配してくれてありがとうございます。でもまぁ平気です」


「そうか。いや余計なお世話だったな。キーン君はどこまで行くんだ?」


「とりあえず山を見にいこうと思ってるので、山の麓の町までいくつもりです」


「私も麓の町まで行く。よかったら話相手になってくれないか。暇なんだ」


それからはしばらくオヤリエさんとの会話を楽しんだ。彼女はなんと山の民らしい。これから故郷に帰るところだということだ。いやーいるところにはいるもんだね。早速お目当ての山の民だよ。イメージしてたのとはちょっと違うけどさ。


オヤリエさんに山の民についての話を聞いた。山の民はその名の通り山で生活する人々の総称。コラリオ王国の山岳地帯は国の総面積の2分の1程も占めるらしく、山の民はその広大な山岳地帯のそこかしこに大小さまざまな集落を作っているようだ。


彼等は相互に助け合いながら生活していて、王国からは半独立状態らしいが、税などはちゃんと納めているし、両者の関係は良好とのこと。


外部との接触を拒んでいるとかはないようなので一安心。だが子供が一人で行くような場所ではないと言われた。山賊もまったくゼロではないし、何より強力な魔物がいる。


山を知っていればそう大した危険はないが、知らないと簡単に死ぬぞと脅された。

そうだよなぁ。俺は山のことなんて何も知らない。このままでは魔物の餌として生涯を閉じることになる。


とりあえず麓の町まで行ってから考えよう。来た道を戻るなんて最悪だ。このエルフのおばちゃんから情報を仕入れてからの判断だな。


しかしエルフはやはり美形が多いな。男の乗客は結構な確率でオヤリエさんを盗み見ている。蒼い瞳がなんとも印象的だ。


だが俺は惑わされたりしない。俺には相棒がいるからな。なんてったって俺の相棒は新しいんだぜ?多分1ヶ月も経たないうちに相棒の素敵な魅力は失われてしまうだろう。


だが今この瞬間はお前の勝ちだ!エルフのおばちゃんには悪いが、すこし時間を貰って新しい相棒をうっとり眺めるとするか。しばらく相棒との時間を楽しんでからオヤリエさんとの会話を再開、色々と情報を貰い、そうこうしている内に麓の町に着いた。


もう日も暮れて肌寒い。山が近いから気温も低くなってるのかな?宿に泊まるお金がもったいないので「自宅」で休もう。オヤリエさんと別れて、俺は一人町の外に出て近くの林に入った。

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