第115話

 11月の中旬の土曜の夜、ユリカの送別会が行われた。

 多摩センター駅そばの、しゃれた居酒屋の個室に、ひかり堂の9人が全員集まった。テーブルには豪華な料理が並べらている。ユリカは生まれて初めての居酒屋に少し感動していた。

 ――わあ、なんか大人の仲間入りをした気分。みんなわたしのために集まってくれたんだ。うれしいなあ。

「大石さん、ひと言あいさつどうぞ!」

 店長にそう促されてユリカは立った。

 首周りに銀の涙型のパーツが施された紺のハイネックセーターを着て、スキニージーンズをはきこなした彼女の姿はバイトを始めた頃に比べると、随分と垢抜けた印象をみんなに与えた。

「今日は、わたしのためにこんな素敵な場所で送別会をしていただいて、本当にありがとうございます。短い間でしたが、わたしはひかり堂で様々なことを学びました。流通の仕組みとか、組織の大切さ、人とのつながり・・・学校では教えてくれないことがたくさんあって、本当に勉強になりました。ここでの経験は、わたしがこれから生きる上で、いつか宝石のような時間として思い出すことでしょう。やさしい皆さんと一緒に働くことができて、わたしは本当に幸せでした。今までどうもありがとうございました。」

 ユリカのしっかりした口調のあいさつを聞いていた店長は、感無量の様子である。薬剤師の田中さんは目を少し潤ませている。誰ともなく拍手が起こり、ユリカは深くお辞儀をした。

「大石さんの前途を祝してカンパーイ!」

 店長の掛け声で宴会が始まった。ユリカの送別会とはいえ、大人たちは酒が入ればそれぞれに好き勝手に動き始める。仕事の話をする者もいれば、ひたすら食事に没頭する者もいる。

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