第105話

「うーん、なんか痛いな・・・あれっ、アザになってる!」

 突然マヤが大きな声を出した。先ほどのドラムダイヴの時の傷であろう、マヤの右膝の後ろが紫色に変色していた。

「大丈夫ですか?保健室行ったほうがいいんじゃないですか?」

 ユリカが心配そうに言うとマヤは落ち込んだ様子でつぶやいた。

「まだ開いてるかな・・・とりあえず痛いからシップだけでもしてもらうかな・・・あ!そういえばアタシ、エフェクターケース講堂に忘れた!」

 突然厭世観におそわれたマヤはオレンジのチェアに座り込んだ。

「もうヤダー、あそこまで行きたくないー、保健室も面倒くさいー、でもこのあとの後夜祭のキャンプファイアーはみんなで行きたいー」

 マヤのボヤキを聞いていたユリカは

「マヤさん、ソメノさんたちと保健室に行ってください。わたしが講堂にケースを取りに行きますよ。そのあと後夜祭で合流しましょうよ。」

 と提案した。

「えっ、いいの?悪いね、ユリカにそんなことさせて。じゃお願いするかな・・・これ鍵ね。ケースはその辺に置いておいてくれればいいから、電気消して戸締りヨロシクね。ソメノ、悪いけど保健室つきあって。キイチはユキナちゃんとこ行くんだろ。いいよ、わかってるよ。あれ、そういえばいつの間にコウタロー先輩は帰ったの?さっき?あ、そう。あとでラインでお礼言っとこう。じゃみんな、お疲れ様!」

 一同はそこで解散した。部室の鍵を閉め、ユリカは再び講堂へと向かった。

 走ってぜいぜい言いながら講堂に着くと、丁度生徒会の役員が鍵を締めようとしているところだった。

「あっ、スミマセン、荷物忘れたんで待ってください。」

 その男子生徒は相手がユリカだと認めると、途端に相好を崩した。

「ああ、デスピノのギターの人!どうぞ、どうぞ。いやいや、さっきはすごかったねー。また活動できるようになって良かったよね。正直さ、生徒会長もやりすぎだったよね。あ、これオフレコね。」

 親切な男子生徒にお礼を言って、ユリカは薄暗い講堂へ入った。そこは、つい先ほどまで、自分が大音量で演奏をし、人々が暴れまくったとは思えないほどの静けさで満ちていた。

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