第101話

 数十の人間がダイヴを繰り返したあとの、混沌とした雰囲気の講堂は、異様な熱気とエネルギーに包まれている。バンドと観客はまさに渾然一体こんぜんいったいとなっていた。4人の気迫がそのまま客に反映され、その反応が再びユリカたちにダイレクトに帰っていく。まさに“バッテリー”を彼らは体現していた。

「ありがとー!みんなスゴイよ!アタシはこの時を一生忘れないよ!さて・・・いよいよ最後の曲になったよ。え?曲が少ないって?まあ、もともとやれるだけでもラッキーだったんだから我慢して。でも、そのかわり、速くて、パワフルな曲で終わるよ。ついてこられる?」

 うおぉー!

 観客たちは大声でマヤに反応する。

「オーケーオーケー!心残りの無いようにみんな暴れてね!じゃあ、いくよお!ダメージ・インク!」

 マヤの声を受けてキイチがゆっくりと4カウントを入れた。


 ガッガッガッ!ガーガガガ

 ガッガッガッ!ガーガガガ

 ガッガッガッガッガッガッガッガッ

 ガッガッガッガッガッガッガッガッ


 デスピノは最重量級のEのコードで「ダメージ・インク」のイントロのコードを叩き出し、キイチのスネアのロールで導かれた曲は一気に狂ったようなスピードで暴走し始めた。

 メタリカのレパートリーの中でも最も速さと破壊力があるこの曲で、観客たちのテンションはすぐさま沸点に達した。間髪入れずにサークルピットが発生し、再び群集の中から何人もの人間が沸き出るように現れ、人の波に運ばれてステージに到達するやいなやダイヴを繰り返す。講堂はカオス状態となり、デスピノの演奏がさらにそれを加速する。観客はみんな我を忘れて叫び、暴れ、飛び跳ねた。

 ――ディリンアウジエゴニーウィズイン!

 猛スピードでリフを刻みながらマヤは絶叫に近い声で歌いだす。ユリカもソメノもユニゾンでリフを繰り出し、その速さに遅れることなくひたすら演奏に没頭している。

 ――ブラッドウィル、フォーロー、ブラッアーッ!

 ――ダーイン、ターイムイズ、ヒー!

 マヤが叫ぶと、そこで一瞬曲が止まった。そしてその静寂の間を、

 ――ダメージインコーポーレリッ・・・

 というマヤのつぶやきだけが埋め、すぐさま

 ガッガッガッ!ガーガガガ

 ガッガッガッ!ガーガガガ

 という岩を砕くようなギターが炸裂した。

 曲は再び強烈な速さで爆走し、ステージからダイヴの雨をふらせた。

 ――もうなんだかよくわからないけど、とにかく今わたしはすごい場所にいる。わたしの目の前をたくさんの男の子が這い上がってはダイヴしていく。おっと、ぶつかるよ!でもみんな一応私を避けてくれるみたい。本当に壮観だ。みんなケガしないでね・・・。

 これぞスラッシュメタル!といえるザクザクとした「ダメージ・インク」のクランチ・リフを、あたかも機械仕掛けのような左腕の動きと、これまたその細い腕からは想像もつかないようなハードなオルタネイト・ピッキングで繰り出しながら、ユリカは目の前で繰り広げられている壮絶な光景を眺めていた。

 そして曲は2度目の

 ――ダメージインコーポーレリッ・・・

 で一旦ブレイクし、テンポチェンジをする。マヤとユリカは6弦の開放を含んだトリッキーでクールなリフをまるでナイフで切り裂くような鋭さで同時に奏でた。

 ――ウィチューアンスピニュアウツ!

 ――ウィラフエンユスクリームアンシャウツ!

 マヤが6弦Eの開放をエクスプローラーを叩くようにはじいて叫ぶ。

 先程までダイヴを繰り返していた若者たちは、一旦落とされたテンポに合わせてゆったりとした動きをみせる。しかしそれは、まるで噴火直前の火山のマグマがふつふつと煮えたぎるような、今にも暴発しそうなエネルギーをたたえていた。彼らは次の噴火の瞬間を待っていた。マヤのヴォーカルがそのカウントダウンだ。

 ――オーフリーウィズフィアユラン!

 ――ユーノウジャスウェアウィカムフロム、ダメージインコーポーレリッ・・・

 そしていよいよその瞬間は来た。

 ――ゴー!

 マヤの掛け声と同時に曲は凶暴に走り出し、観客は大爆発を起こした。

 それと同時にユリカも獰猛な勢いで、ドリルで金属を突き刺すようなソロを開始した。

 ユリカの前にいる観客たちは両手を伸ばしてユリカの奏でるメロディを受け止め、さらに求めようとしていた。切っ先の長い剣をぶんぶんと振り回すような彼女のギターソロが容赦なく周囲のものをなぎ倒していく。マヤとソメノはユリカを援護するE音の16分音符のマシンガンの乱れ撃ちを続ける。キイチのドラムはハイスピードを保ったまま一分もずれることなく、ギターの3人を支えていた。

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