第90話

「あー面白い。大石さん、確かにこの人たち面白いよお。お笑いとかやればいいのに。」

 美山が涙をふきながらそう言うと倉田が教えてくれた。

「実は今度、西川がピンで小劇場のオーディション受けるんだよ。」

 ユリカと美山はエェーと声を上げた。

西川は、ややはにかんだ表情を見せながらも言った。

「うん、まあちょっとチャレンジしようかと思ってさ。ネタ、見る?」

 二人がうんうん、というとまずは倉田が

「二つの表情をひとつの顔に持つ男!」

 とタイトルをコールした。それと同時に西川は後ろを向いて、すぐに振り返った。その顔はちょうど右半分がいかにも泣き出しそうな顔なのだが、左半分は憤怒ふんぬの表情となっていた。その意表をついた発想に、美山はもう勘弁してと言いながら大笑いをしていた。

「ね、オーディションの時、私絶対に見に行く。日にち決まったら教えてね。大石さんも行こうよ。倉田くん、西川くん、LINE交換しよ。」

 美山はいとも気軽に2人とIDを交換した。

 美山の思いもよらぬ積極性に驚きつつ、倉田がなんの躊躇ちゅうちょもなく美山とID交換している様子を見て、ユリカはなんとなく面白くなかった。

 ――なによ、会って20分で、そんなすぐに交換する?倉田くんもニヤニヤして、女の子と久しぶりに話すからってあんなに浮かれるかな?

「どうしたの、大石さん、黙っちゃって?」

 美山に言われてユリカはハッとした。

「う、ううん、なんでもないの。ライヴのこと考えてて・・・ごめんね。」

 別にそんな嘘をつかなくてもいいのに、と自分で思いながら倉田に向かってぶっきらぼうに言った。

「さて、わたしたちこれから後片付けがあるから、ちょっと外うろついてきて。ライヴには必ず来てね。」

 なぜか突然不機嫌になったユリカを不思議そうな表情で倉田は見ていたが、じゃまたあとで、ライヴ頑張れよお、と言い残して西川と連れ立って教室を出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!