第75話

「大石さん、見たよ、例の動画。なんかすごかったんだね。あのまま何もなければ優勝だったかもなんでしょ?」

 学祭前日、文芸部のカフェを飾り付けながら大沢がユリカに話しかけてきた。

 文芸部がカフェとして借りた2―B教室は暗幕が貼られ、昼間だというのに薄暗い。いくつかのテーブルの中央には燭台しょくだいが置かれている。明日の本番ではここに本物のロウソクを灯し、蛍光灯はつけないことになっている。

「なんだ、大沢さん、今頃見たの?遅れてる!ネットの一部じゃ大騒ぎだったんですよ。『ドラゴン・デスピノ・炎上』とかで検索すればかなりの件数が出てましたよ。『燃えよドラゴン』でもかなりのヒット件数があったし。」

 白いテーブルクロスの端っこを持って長テーブルの上にかけながら美山はユリカの代わりに答えた。

 その反対側の端っこを持ったユリカは美山のあとをついだ。

「そうなんですよ。あれ以来急激にデスピノ有名になって、あの動画、5万回くらい再生されてるんです。びっくりしました。ツイッターとかフェイスブックも連日すごい反響で、ひょっとしたら1000人も夢じゃないかもしれません。」

 大沢にまで浸透しているということは、音楽やヘビーメタルにさほど興味がない人間にもアピールしているということだ、とユリカは考えた。本当に、ひょっとするかもしれない。

「美山さん、このエスプレッソマシンってどうやってれるの?」

 即席で作ったカウンターの向こうから、山賀が呼びかけた。美山が持ち込んだ業務用のデロンギのエスプレッソマシンはなかなか扱いが難しいようだった。

「あ、ちょっと待っててください。その、実は私もよくわからないんです・・・お父さんに頼んだらお店で使ってないのがあるから持っていけって言われてそのまま借りてきただけなんで・・・。説明書もどっかいっちゃって。」

 今回の文芸部のカフェ作りに関しては美山がかなり貢献していた。彼女の父が経営するレストランから様々なグッズを借りることができたのだ。

「うーん、よくわかんないや。どうしよっかな。」

 エスプレッソマシンに関しては持ち込んだ美山本人もよくわからないらしい。そこへ買い出しに出ていた横井が戻ってきた。彼女はフルーツやその他のものを簡易冷蔵庫に詰め込むと、

「どうしたの?」

 とエスプレッソマシンの周りにいるみんなに話しかけた。

「せっかく美山さんが持ってきてくれたエスプレッソマシン、誰も使いこなせないんです・・・。」

 ユリカがそう言うと横井はどれ、見せて、とやってきた。

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